書籍目録

『東インドとその島々の発見、征服、戦争史概略:マラッカでのポルトガル貿易の開始と同地における政治的、軍事的活動、ならびに東インド各地の人々の風俗とその他注目すべき出来事について』

マルティネス・デ・ラ・プエンテ

『東インドとその島々の発見、征服、戦争史概略:マラッカでのポルトガル貿易の開始と同地における政治的、軍事的活動、ならびに東インド各地の人々の風俗とその他注目すべき出来事について』

1681年  マドリッド刊

Martinez de la Puente, Joseph.

COMPENDIO DE LAS HISTORIAS DE LOS DESCVBRIMIENTOS, CONQVISTAS, Y GVERRAS DE LA India Oriental, y sus Islas, ...Y LA INTRODVCCION DEL COMERCIO Portugues en las Malucas, ...HECO Y AN ADIDA VNA DESCRIPCION DE LA INDIA...

Madrid, (En la) Imprenta Imperial / (Por la) Viuda de Joseph Fernandez de Buendia, 1681. <AB2024100>

¥770,000

8vo (14.7 cm x 20.8 cm), Title., 6 leaves, pp.1-164, 16(i.e.165), 166-280, 812(i.e.281), 282-288, 287(not duplicated), 288-369, 366(i.e.370), 371-380, 17 leaves(indice), Contemporary parchment.
本体が表紙から外れてしまっている状態で一部の用紙の綴じに緩み、外れあり。余白部分に多数のしみや虫損あるもテキストの判読には大きな支障なし。

Information

ポルトガルによる大航海時代の黄金期を中心に据えた東インド誌

 本書は、大航海時代の開始からおおよそ1600年頃に至るまでのポルトガルによる東インド各地における活動の歴史をスペイン語でまとめた作品で、1681年にマドリッドで刊行されています。日本中国やフィリピン、インドシナ、シャムといった国々や地域、ポルトガルが東インドにおける拠点としたゴアやマラッカといった重要諸都市についての記述が豊富に含まれており、初期東西交流史の基本文献と見做しうる書物です。

 本書の著者であるマルティネス(Joseph Martinez de la Puente)についての経歴についてはほとんど詳らかにされていませんが、本書が幾つもの検閲許可を経てその内容が吟味されていることや、その記述の質の高さに鑑みると相当の学識と身分を備えた人物だったのではないかと推測されます。本書は非常に長文のタイトルが示しているように、大航海時代の幕開けに大きな貢献をなしたエンリケ航海王子の時代からスペイン・ポルトガルが同君連合王国となっていたフェリペ3世の時代に至るまでの約150年にわたる東インド史(誌)をその主たる内容としています。オランダやイギリスという17世紀以降に東インドにおいて存在感を増していくプロテスタント諸国が到来する直前までの、ポルトガルにとっての黄金時代とも言える年代に主軸を置いた記述となっており、ポルトガルが東インド各地への航路をどのように開拓、進出して、占領、貿易などの活動を精力的に行なったのかについて全4部構成で論じられています。

 第1部は本書の総論ともいえるもので東インド各地についての総論となっており、ここではゴアやモルッカといったポルトガルによる東インド進出と運営において大きな役割を果たした諸都市、地域だけでなく、日本や中国、インドシナやシャムなどのアジア各国、地域、バンダ諸島といった香辛料貿易における重要地や、そしてスペインによる同地の活動における拠点となったフィリピンなど、東インド全域についてそれぞれかなり詳しく論じられています。各地域は大陸、インド半島近辺の諸島、東南アジア近辺の諸島、そして日本というふうに地理的区分によって分類された上で論じられていて、特に中国(第1部第4章、pp.20-30)や日本(第1部第7章、pp.51-56)についてはかなりの紙幅を割いて詳しく紹介されています。これらの記述では各地の地理的な基本情報、産出物、自然条件、人々の気質や風習、諸宗教といった様々なトピックが論じられていて、「東インド誌」のような内容となっています。また、各地に住む人々の起源についても論じられていて、これは当時盛んに論じられつつあった聖書の記述にないこれらの地域、特に中国が有する「長すぎる歴史」とその起源について、どのように整合性を見出しうるのかといった問題意識をその背景にしているものと思われます。

 第2部(pp.82-111)はエンリケ航海王子とその兄であるポルトガル王ドゥアルテ1世からジョアン2世に至るまでの15世紀前半の時代を対象として、大航海時代時代の幕開けとなったポルトガルにとって輝かしい時代の歴史が詳細に論じられています。

 続く第3部(pp.112-204)は、マヌエル1世による統下にあった15世紀後半を対象としていて 特にここではポルトガル海上帝国の始祖ともみなされているヴァスコ・ダ・ガマをはじめとして、大航海時代を牽引した様々なポルトガル人航海士が精力的に行なった航海、植民活動の記述に大きな焦点が当てられています。また、1510年のゴア占領に続いて1511年のマラッカ占領、そしてマカオにおける拠点獲得といった、ポルトガルによる東インドでの最重要拠点を築くことに成功した歴史的出来事についても詳しく論じられています。

 最後の第4部(pp.205-380)は、ジョアン3世以降フェリペ3世に至るまでの16世紀後半を対象としており、東インド各地に拠点を設けたことによって可能となった精力的な活動、特にマラッカを中心とした交易や征服、植民活動を展開していく様子が描かれています。さらにザビエルによるインド宣教の開始といったキリスト教布教に関する出来事についても紹介されています。そして、本書最後の第4部第29章はポルトガルが東インドに至るまでの航路を紹介した簡単な水路誌のような記述となっています。

 このように本書はポルトガルによる大航海時代史、東インド誌に関する非常に優れた記述が凝縮されている作品で、東洋学研究や日欧交渉史研究における基本文献の一つに数えうる重要な書物ではないかと思われますが、現存部数がそれほど多くないためか、国内研究機関には全く所蔵がないように見受けられます。本書は製本状態に傷みや用紙に虫損などが見られるものの、本文の判読には大きな支障がなく、学術、展示資料として十分に活用できるもので、今後の研究が期待される1冊と言えましょう。