書籍目録

『目下関心の的となっているイエズス会に関する様々な著作や文書集成』 / 『日本におけるキリスト教界の現状についての教皇ウルバノ8世宛宛書簡』ほか

(日本二十六聖人殉教事件) / ソテロ / (慶長遣欧使節)ほか

『目下関心の的となっているイエズス会に関する様々な著作や文書集成』 / 『日本におけるキリスト教界の現状についての教皇ウルバノ8世宛宛書簡』ほか

計4作品合冊 1760、1761年 ヴェネツィア刊

Sotelo, Ludovico...[et al.]

RACCOLTA DI VARIE SCRITTURE, E DOCUMENTI SUGLI AFFARI PRESENTI DEI PP. GESUITI. / LETTERA DI FRA LODOVICO SOTELO FRANCESCANO…[and others 2 works bound in 1 vol.]

Venezia (Venice), Giuseppe Bettineli, MDCCLX, MDCCLXI (1760, 1761). <AB202497>

In Preparation

4 works bound in 1 vols.

8vo (10.5 cm x 17.1 cm), 収録作品それぞれの詳細な書誌情報については下記解題末尾参照。, Contemporary vellum.
[Laures: JL-1760-2 (Sotelo's work only)]

Information

18世紀後半のイエズス会をめぐる様々な論争の中で生み出された批判的著作に収録された貴重な日本宣教関連史料群

 本書は、1760年から61年にかけて刊行された4つの作品を1冊に合冊したもので、いずれの作品で当時各国で非難の声が高まっていたイエズス会を批判する目的にで刊行されたと思われるものです。本書が非常に興味深いのは、いわゆる日本二十六聖人殉教事件に関連する諸文書や、慶長遣欧使節派遣において大きな役割を果たしたソテロが殉教前に教皇宛に認めたという「日本書簡」などの日本宣教に関する重要史料が収録されていることです。いずれの史料も現在では入手が難しいものばかりで、国内外における所蔵機関も極めて限られている希少性の非常に高い学術資料と見做しうるものです。

 本書が刊行された18世紀後半は、ヨーロッパ各地で絶対主義国家の台頭と共に各国におけるイエズス会に対する批判の声が次第に高まりつつあった時期で、既存の諸修道会との対立も相まって、イエズス会を批判する数多くの書物が刊行されつと同時に、それに反駁するイエズス会による書物が刊行されるなど、多くの論争的な出版物が刊行されました。こうした論争では、当時の政治状況や事件に関連づけて主張が展開される作品もあれば、歴史的な事件や論争を引き合いに出して正当性を主張する作品もあり、様々な観点から互いに正当性を主張する論争的な作品(パンフレット)が陸続と刊行されました。こうした作品においては、単に自身の立場を主張するのみならず、その正当性を証するための様々な証拠、歴史的史料などが援用されたり、転載され、自らの主張がいかに客観的に正しいものであるかを説得的に論ずるための工夫が凝らされています。本書はこうした歴史的事情を背景に出版されたもので、合冊されている4作品はいずれもイエズス会を批判する目的で執筆、刊行されているもので、本文中にはその主張を裏付けるために様々な史料が援用されています。

 本書に収録されている最初の作品は、『目下関心の的となっているイエズス会に関する様々な著作や文書集成』と題されたもので、一見中立的なように見えるタイトルながらも、明らかにイエズス会に批判的な立場から刊行されたもので、同会に対する批判の正当性を裏付けるような数多くの著作や文書類が全16章にわたって収録されています。この作品で特に興味深いのは、その冒頭第1章が「偉大なる日本帝国においてイエズス会が行ったことに関する真性なる文書集成」となっていることです。約50ページからなるこの第1章ではイエズス会がその大きな成果として誇っている海外宣教活動実績を代表する日本における宣教活動について批判的に論じる目的で史料が集められており、特にいわゆる日本二十六聖人殉教事件に関する史料が重点的に収録されています。編者はその冒頭においてイエズス会がこの事件においてパウロ三木ら3人の日本の信徒をイエズス会関係者であると主張したことの正当性に疑問を投げかけており、この事件の直後に日本を訪れその両後期を出版したイタリアの商人、フランチェスコ・カルレッティ(1573?~1636:Francesco Carletti)の『世界周航記』の記述を引き合いに出しながら、この事件に関する重要な証拠史料となる文書群をここに収録した旨を述べています。収録されている文書はいずれも事件直後に執筆された、事件の目撃者や証言者である人物らによる書簡や報告書などで、いずれも事件直後から犠牲者の列福に向けて積極的に活動していたフランシスコ会関係者に近しい立場から執筆されたと思われるものです。その中には秀吉が処刑を命じた文書のイタリア語翻訳なども含まれており、犠牲者の列福裁判の過程において収集されたものではないかと考えられます。ここに収録されているそれぞれの文書の著者やその内容の新規性、あるいは真正性については、少なくとも店主には判断しかねるものがありますが、いずれにしてもイエズス会が一時的に解散されるという憂き目に遭う1773年に至るまで続いた無数の論争の中で、遥か遠く日本で200年以上に生じた事件に関する証言史料が本書の冒頭に多くの紙幅を割いて収録されていることは非常に興味深いことだと言えるでしょう。

 また、本書で4番目に収録されている作品は、仙台藩主伊達政宗が1613(慶長18)年にヨーロッパに派遣した、いわゆる「慶長遣欧使節」の実現と遂行に最も深く関与したフランシスコ会士ソテロ(Luis Sotelo, 1574 - 1624)によって、再入国後に捕らえられた大村の牢獄から処刑直前の1624年1月20日付で教皇に宛てて出されたとされている書簡(日本におけるキリスト教界の現状について)をイタリアに翻訳したものです。この書簡はもともとラテン語で執筆されたもので、『日本文典』(Ars grammaticae Iaponica linguae. 1632)や『懺悔録』(Niffon no Cotõbani Yô Confession. 1632)の著者としても著名なドミニコ会士コリャード(Diego de Collado, 1589? - 1641)によって1628年にマドリッドで初めて刊行され、その第2版は、フェルディナンド2世の顧問官でもあった著作家ショッぺ(Caspar Schoppe, 1576 - 1649)によって1634年に刊行されています。日本への再入国ののち捕らえられ、大村領の鈴田牢において収監されていたソテロが処刑直前の1624年1月20日付で教皇に宛てて発したこの書簡は、当時の日本におけるキリスト教を取り巻く社会、政治状況を報告するとともに、イエズス会の日本における布教活動や方針を厳しく批判した内容であったことから、本国で複雑な利害対立と接続されて、各方面から様々な反応を呼ぶことになりました。イエズス会はこの書簡そのものが偽作である、あるいは誤りに満ちていると批判し、一方でフランシスコ会をはじめとした各修道会はイエズス会による日本布教独占の弊害が改めて裏付けられたとして、この書を高く評価してイエズス会に非難を浴びせており、このソテロ書簡はその内容自体が興味深いものであることに加え、ヨーロッパの複雑な利害関係と日本の布教活動をめぐる論争とが接続された「論争の書」であることにその特徴があると言えます。

 このように、このソテロ書簡は慶長遣欧使節に関する重要史料として、現在でも参照されたり邦訳もなされている(仙台市史編纂委員会「(編)『仙台市史:特別編8:慶長遣欧使節』2010年、史料番号363)一方で、慶長遣欧使節そのものの歴史的文脈を離れて、その時々のヨーロッパにおける複雑な政治状況の中で幾度も用いられるという日本関係欧文資料としては数奇な歴史的変遷を辿った史料であると言えます。20世紀初頭に至るまでの出版史を簡単に辿ってみますと下記のようにまとめることができます。

・[1628年]:コリャードによってマドリッドで初版が刊行される。
 →同年中にイエズス会より、ファン・セビーコス名義の反駁書が刊行される。
・1634年:ショッぺによって注釈が付された第2版がフランクフルトで刊行される。
・1754年:シャルルボア『日本誌』の補遺資料として上述のファン・セビーコス名義の反駁書フランス語訳版が掲載される。
・1760年:イタリア語訳版刊行(本書)
・刊行年不明:スペイン語訳版刊行(店主未見)
・1767年:ガゼーニュ『いわゆるイエズス会の年代記』第3巻にフランス語訳版が掲載される。
・1870年:パジェス『日本切支丹宗門史』第2巻(史料編)にフランス語訳が掲載される。
・1909年:東京帝国大学史料編纂所(編)『大日本史料:第十二編之十二』にパジェス訳フランス語訳文とその邦訳が掲載される。

 このように、このソテロ書簡は、初版刊行から20世紀初頭に邦訳が刊行されるに至るまでヨーロッパで繰り返し(異なる文脈において)再版されたという、非常に興味深い歴史を持つ作品です。この書簡自体はそれほどボリュームのあるものではないため、単独で刊行された初版から18世紀に至るまでの諸本はいずれも現在では非常に稀覯となっており、国内外問わず所蔵している研究機関は極めて限られているのが現状です。中でも、本書であるイタリア語訳版は、上智大学ラウレスキリシタン文庫に書誌情報の登録はあるもの(JL-1760-2)、原本を所蔵する国内研究機関は皆無のようで、海外研究機関においてもほとんどその所蔵を確認することができない大変貴重なものです。

 本書は、1773年の解散命令に至るイエズス会を取り巻く数多の複雑な論争の中で刊行された、いずれも政治的意味合いの強い作品が合冊された書物ですが、こうしたヨーロッパにおける政治論争の文脈において、日本二十六聖人殉教事件に関する史料や、慶長遣欧使節関連の重要史料と目されているソテロ書簡が援用されていたということは、ヨーロッパにおける日本情報の伝搬のユニークなあり方を示す興味深い事例と言えるでしょう。

 なお、本書に収録されている4作品の詳細な書誌情報は下記のとおりです。


RACCOLTA DI VARIE SCRITTURE, E DOCUMENTI SUGLI AFFARI PRESENTI DEI PP. GESUITI.
Venezia (Venice)
Giuseppe Bettinelli
MDCCLXI.(1761)

pp.[1(Title.), 2], 3-316, 1 folded plate.


LETTERA DEL SIG. ABATE CUREL PARISOT PLATEL DETTO PER L’INN ANZI IL PADRE NORBERTO, EC. CON CUI INDRIZZA ALL’ ORDINE DE’ CAPPUCCINI, il breve di clemente xiii…
Venezia (Venice)
Giuseppe Bettinelli
MDCCLX.’1760)

pp.[1(Title.), 2], 3-32.


LETTERA DEL MAGNIFICO SIGNOR ANTONIO ZATTA A SUA ECCELLENZA D. TROJANO SPINELLI. DUCA DI ACQUARA ec. ec.
Florenza(Florence, but in fact Venice)
[Giuseppe Bettinelli]
1761.

pp.[1(Title.), 2], 3-28, 2 leaves(blank).


Sotelo, Luis.
LETTERA DI FRA LODOVICO SOTELO FRANCESCANO Legato del Re Ossense del Giappone alla Sede Appostorlica, E Missionario parimenti Appostolico in quel Regno, e gloriose Martire di Gesu Cristo DIRETTA A N. S. URBANO VIII. Sopra lo stato della Chiesa del Giappone.
Venezia (Venice)
Giuseppe Bettinelli.
MDCCLX.(1760)

pp.[1(Title.), 2], 3-37, 1 leaf(blank).