書籍目録

『1872年日本使節のフィラデルフィア訪問日誌』

(岩倉使節団)

『1872年日本使節のフィラデルフィア訪問日誌』

1872年 フィラデルフィア刊

DIARY OF THE Japanese Visit to Philadelphia IN 1872, CONTAINING DESCRIPTIONS OF THE MANUFACTURING ESTABLISHMENTS, PUBLIC BUILDINGS, AND OTHER PLACES OF INTEREST INSPECTED BY THEM. TO WHICH IS ADDED A BRIEF APPENDIX, ...

Philadelphia, Henry B. Ashmead (,Book and Job Printer), 1872. <AB2020285>

Sold

8vo (15.8 cm x 23.8 cm), 1 leaf (blank), pp.[1(Title.)-3], 4-79, 1 leaf(blank), Original decorative cloth.

Information

知られざる岩倉使節団の別働隊によるフィラデルフィア滞在記録

 本書は、岩倉使節団の理事官で、当時造船頭兼製作頭だった肥田浜五郎(為良、Tameyossi Hida, Chief Commissioner of Dock Yards and Public Works Department)を中心とした使節団分隊による1872年3月15日から4月8日にかけてのフィラデルフィア滞在について記録した書物です。著者名は明記されていませんが、フィラデルフィア当局関係者によるものと思われ、使節の訪問を受けて今後フィラデルフィアと日本との交易が発展することを切に希望して刊行されたようで、フィラデルフィアの日本に向けた商業ガイドのような側面も垣間見えます。本書には、日本側の使節メンバーとフィラデルフィアの接待メンバーが明記されており、使節が訪問した先々(企業、工場、取引所、商工会議所、教育施設、軍事施設等)と日程が詳細に記されていて、これまであまり知られてこなかったと思われる使節文隊のフィラデルフィア訪問の様子を知ることができる貴重な資料となっています。

 フィラデルフィアを訪れた日本の使節メンバーの中には、万延元年遣米使節に若くして参加し、「トミー」の愛称でアメリカで一躍有名人となった長野桂次郎(Keigiro Nagano, Foreign Department、万延元年訪米時は立石斧次郎として参加)も含まれており、本書でも彼の以前の訪米時のことについて言及されています。本書では、使節のフィラデルフィア訪問時の様子がかなり詳細に記されていて、特に各訪問先についてはその工場や施設、企業名を具体的に挙げて、使節一行がフィラデルフィアで何を見学したのかを記しています。本書に記されている、使節の訪問日程と訪問先を列挙しますと下記のようになります。カッコ内は当該訪問先の主要な製造品です。

1872年3月15日(金)
* ワシントンから当地のコンチネンタルホテルに到着、歓迎式典

3月16日(土)〜17日(日)
* 歓迎と観光、休息

3月18日(月)
* The Baldwin Locomotive Works (蒸気機関)

3月19日(火)
* Messrs. Cramp & Sons’ Steam Ship Yards (鋼鉄船舶)
* Messrs. I. P. Morris & Co.’s Iron Works (鉄鋼加工機械)
* Henry Disston & Sons’ Saw Manufactory (金属加工、裁断機械)

3月20日(水)
* William Sellers & Co.’s Machine Works(歯割り盤ほか加工機械)
* W. Whitney & Sons’ Car-Wheel Manufactory (金属車輪)

3月21日(木)
* Messrs. Cornelius & Sons, Manufactures of Gas Fixtures (ガス灯設備)
* The American Buttonhole, Overseaming, and Sewing Machine Company (縫製機器)
* M’callum, Crease & Sloan, Carpet Manufactures (絨毯)

3月22日(金)
* J. E. Caldwell & Co.’s Jewelry Store(宝石・貴金属)
* J. B. Lippincott & Co, Publishiers and Bookseller (書籍印刷・出版・販売)
* Messrs. Hood, Bonbright & Co.’s(熱空気機関)
* Messrs. Baeder, Adamson & Co.,’s Glue Factory (研磨石、紙やすりほか)
* The Public Ledger Building(新聞印刷)

3月23日(土)
* Mackellar, Smith & Jordan’s Type Foundry (鋳造活字)*特別に作成してもらった記念カードの図案を再現した図版収録。
* Commercial Exchange(商取引所)

3月24日(日)
* 観光と休息

3月25日(月)
* The United States Mint (造幣局)
* Pennsylvania Stock Farm(牧畜場)

3月26日(火)
* The Navy Yard (海軍工廠)
* Gloucester Mills(製粉所)

3月27日(水)〜30日(土)
* League Island (リーグ島、海軍造船所)

3月31日(日)
* 記述なし、おそらく休息日か

4月1日(月)
* The Chamber of Commerce(商工会議所)
* Pennsylvania Railroad Company (鉄道会社)

4月2日(火)
* The Inquirer Mill(製紙工場)
* The Ashland Paper Mills(製紙工場)
* Charles Magarge’s Paper Mill(製紙工場)

4月3日(水)
* Tatham Bor.’s Lead Works(鉛細工)
* The WM. Butcher Steel Works(鉄道レール)
* Cracker Bakery of Theo. Wilson & Co.,(クラッカー、パン、ケーキ)

4月4日(木)
* Massey’s Brewery(ビール醸造所)
* The Harrison Boiler Works(ボイラー)

4月5日(金)
* The Public Schools(各種公立学校)
* The Excelsior Brick Works(レンガ製造)
* Riehle Bro.’s Scale Works(計量、計測器具)

4月6日(土)
* Wood, Dialogue & Co.’s Ship Yard and Machine Shop (蒸気船と関連機械)
* The Delaware River Iron Ship Building and Engine Works(鋼鉄蒸気船と関連機械)

4月7日(日)
* 記述なし、おそらく休息日か

4月8日(月)
* 送別セレモニー

 ざっとこのような訪問先とその日程を見るだけでも、一行がフィラデルフィア滞在期間中、ひたすら(当然と言えば当然ですが)各地に見学に出かけて少しでも学習、吸収できることがあれば日本に持ち帰ろうとしていたことがよくわかります。なお、使節の同行を記録した本文に続いて巻末には、フィラデルフィアの歴史と現状についての小論も掲載されています

 本書は、フィラデルフィアで極小部数のみが刊行されたものと思われ、現存数は少なく国内所蔵機関も極めて少ないのが実情です。使節分隊の訪問記録のため、日本側の公式記録から漏れているものと思われることから、使節分隊のフィラデルフィア訪問に関する希少な(おそらく唯一の?)記録として重要な書物と思われます。

刊行当時のシンプルだが上品なクロス装丁。
タイトルページ。
本文冒頭箇所。使節のフィラデルフィア訪問の経緯などについて触れられている。
日本の使節メンバー一覧。当時造船頭兼製作頭だった肥田浜五郎(為良、Tameyossi Hida, Chief Commissioner of Dock Yards and Public Works Department)や、万延元年遣米使節に若くして参加し、「トミー」の愛称でアメリカで一躍有名人となった長野桂次郎(Keigiro Nagano, Foreign Department、万延元年訪米時は立石斧次郎として参加)の名が見える。
上掲続き。
フィラデルフィアからも相当の人物が使節歓迎やr滞在中の日程調整、訪問随行メンバーに加わっている。使節一行が別働隊とはいえ、熱烈な歓迎を受けたことがわかる。
時系列に沿って訪問先と使節の様子が詳細に記されている。上掲は、3月18日(月)に最初に訪れた The Baldwin Locomotive Works (蒸気機関)の記事冒頭箇所。
Lippincott社は、当時のアメリカを代表する出版社で日本との関係も深い。
工場、商業施設、造幣所、海軍造船所など非常に多岐にわたる箇所を精力的に訪問していることがよくわかる。かなりの長期間にわたって過密なハードスケジュールをこなしている。
3月23日(土) に訪れた、Mackellar, Smith & Jordan’s Type Foundry (鋳造活字所)で特別に作成してもらった記念カード。
巻末には、フィラデルフィアの歴史と現状についての小論も掲載されている。