書籍目録

『東方の窓:ある芸術家による日本、北海道、朝鮮、中国、フィリピン旅行の記録』

エリザベス・キース

『東方の窓:ある芸術家による日本、北海道、朝鮮、中国、フィリピン旅行の記録』

(特装版) [1928年] ロンドン刊

Keith Elizabeth.

EASTERN WINDOWS: AN ARTIST’S NOTES OF TRAVEL IN JAPAN, HOKKAIDO, KOREA, CHINA AND THE PHILIPPINES.

London, Hutchinson & Co. Ltd, [1928]. <AB2020272>

Sold

Large 8vo (22.0 cm x 28.5 cm), pp.[1(Half Title.)-2], colored Front., pp.[3(Title.)-11], 12-125, 1 leaf(blank), colored plates: [11], Half blue cloth on white boards.
見返し部分に旧蔵者による書き込みあり

Information

旅の版画家キースによるアジア紀行文集

 本書は、日本をはじめアジア各地を旅しながら多くの版画、水彩画作品を残したエリザベス・キース(Elizabeth, Keith, 1887 - 1956)が日本を離れてイギリスに帰国中の1928年に出版した紀行文です。「東方の窓」というタイトルが示すように、キースが旅した日本、北海道、朝鮮、中国、フィリピン各地で綴った書簡を中心にしたテキストと、描いた水彩画や制作した版画作品の彩色複製が12枚収録されています。キースは、序文において自分自身は専門の文筆家ではない旨を断りつつも、キースの書簡の受け取り手であった姉であるエルスペットによる優れた編集が本書を生み出したことを述べていて、姉の存在が本書において大変大きかったことが分かります。当初から出版を意図していない書簡をベースにしているだけあって、旅先でのキースが見聞きして考えたことが実に生き生きとした記されており、紀行文として優れた作品になっていることに加えて、キースの作品が複製とはいえども再現度の高い形で収録されていて、本書は、生涯を通じて旅する画家であったキースの魅力が遺憾無く発揮された書物ということができるでしょう。

 なお、本書は、濃紺一色のクロス装丁である通常盤とは異なり、白地のクロス装丁の上から青字のクロスが貼られていて、表紙に金箔による装飾とタイトルが押された珍しい装丁となっています。本書中には装丁についての言及は特に見られませんが、なんらかの特別な装丁だったのではないかと思われます。

「エリザベス・キースが日本や日本の芸術について知るようになったのは、ハイドのように名を成した教師のもとでの勉強からではなく、日本の人間や風俗、それも常に動きのあるものを夢中になって直接スケッチしたことに始まる。例えば、麻布の家の寝室から、昼間の散歩の合間、彼女は生涯の主題をアジアに見いだしたのだった。旅行に出ては人間や風俗・習慣を根気よく追い求めた。(中略)
 真の独創性のためにエリザベス・キースは自分の眼が無垢であることを必要とした。それについて彼女はこう表現する。『まずそれをことごとく吸うことです。「それを吸う」とはわたしが望むフレーズではありませんが……そこに浸かる、といえばいいでしょう。まるでその光景のなかに溶け込み、そこで溶解するかのような感じです。後はすべてを紙の上に蘇らせ定着させる悶えんばかりの作業です。』[Keith, 1928](本書のこと;引用者注)
(リチャード・マイルズ / 佐藤実訳「キースとハイド、旅する人と住まう人」横浜美術館『アジアへの眼 外国人の浮世絵師たち』1996年所収、164-165頁より)