書籍目録

『日本(旅行)ハンドブック:香港、広東、マカオ、上海についての覚書と日本地図附属』

スミス

『日本(旅行)ハンドブック:香港、広東、マカオ、上海についての覚書と日本地図附属』

1910年 マニラ刊

Smith, Guy H. B.(Capt. U.S.Army).

HAND BOOK OF JAPAN WITH NOTES ON Hongkong, Canton, Macao, Shanghai (With Map of Japan).

Manila, E. C. McCullough & Co., Inc, 1910. <AB2020267>

¥55,000

10.3 cm x 12.5 cm, Title., pp.I-XII, 1-85, with a folded map, Original cloth.

Information

マニラで刊行された実用性を重視した英文日本旅行案内

本書は1910年にマニラで刊行されたという珍しい英文日本ハンドブックです。日本への欧米からの旅行者を読者として、通常の(より分量の多い)ガイドブックで漏れているような事項も含め、旅行者が日本での良好に際して無用な不便やトラブルを被らないための手引きとして刊行した旨が記されています。著者のスミス(Guy H. B. Smith)については、米軍士官(Capt. U. S. Army)とあるだけで、詳しい経歴やなぜこのようなガイドブックをマニラで刊行することになったのかという経緯は不明ですが、本書の内容の充実ぶりから見ると、日本での滞在歴があったのではないかと思われます。

 本書は旅行時の携行の便を意識したと思われる、本文85ページの小型本ですが、その内容は著者が述べているように簡潔でありながらもかなり充実しています。旅行の所要時間、季節に合わせた衣類、体調不良時の病院案内、おすすめの旅行日程プラン、宿泊施設等の予約方法、両替、パスポート、通関、言語、喜賓会(The Welcome Society) などの日本での旅行斡旋機関の案内、通訳(ガイド)、人力車や鉄道等の交通手段、買い物、クリーニングサービス、写真撮影の際の注意、寺院や芸者、名勝の案内、日本への、日本からの汽船案内、、、等々、現代の旅行案内書で記載されるようなトピックが網羅されていて、旅先でのちょっとした調べ物に大変役立つ内容となっています。冒頭に目次ではなく、アルファベット順の索引が掲載されているのも、本書全体を通読することよりも、旅先で実際に調べたいことが発生した際にすぐに該当記事を探せるという実用性を重視した結果ではないかと思われます。こうした実用面を重視した内容である一方、日本の歴史についても簡単に紹介されていて、出典元が明記されていませんが、別の著作からの引用のようです。当時英文での日本案内としては、チェンバレンらによるマレー社のガイドブックなどが定番となっていましたが、分量がかなりある書籍でしたので、本書のように手のひらサイズで持ち運びで簡便でありながら、必要な情報は網羅している簡易ガイドブックは、旅行者にとって一定の需要があったのではないかと思われます。

 なお、本書は表題にも記されているように、香港、広東、マカオ、上海といった中国沿岸都市の簡単な案内も兼ねており、これも当時日本を訪れる旅行者がこれらの地域を同時に訪問することが多かったという実際のニーズに応じたものではないかと思われます。巻末には折込の日本図も収録されていますので、日本を訪れた旅行者は、とりあえずこの一冊を鞄に、或いは懐に入れて、旅行を楽しむことができたのではないでしょうか。