書籍目録

『仏日語彙集』

ストコヴォーイ

『仏日語彙集』

1862年 パリ刊

Soutcovoy, Grégoire.

VOCABULAIRE FRANCIAS-JAPONAIS,…

Paris, Imprimerie Impériale, M. DCCC LXII.(1862). <AB2020261>

Sold

8vo (14.5 cm x 23.0 cm), Title., pp.[1], 2-88, Contemporary half leather on marble boards.
[Cordier: 560] 旧蔵機関による押印、旧蔵者の蔵書票あり。

Information

ロシア海軍士官による大変珍しい仏日語彙集

 本書は、これまでほとんど言及されたことがない大変珍しいフランス語、日本語対照語彙集で、ロシア海軍士官であったストコヴォーイ(Grégoire Soutocovoy)によって、ロシア海軍の許可を経た上で、当時のヨーロッパにおける東洋学研究の最先端にあったパリで印刷されています。19世紀に刊行された仏日語彙集としてもかなり早期の作品であることに加え、日露和親条約締結後にロシア人によって編纂された日本語彙集としては、ゴシケーヴィチ(Iosif Goshkevich, 1814 - 1875)と橘耕斎によって1857年に刊行された『和魯通言比考』に次ぐ最初期の作品ではないかと思われます。

 著者のストコヴォーイ(Grégoire Soutocovoy)は、ロシア海軍将校で来日して江戸に滞在したことが序文に記されていますが、それ以外の詳しい経歴については不明のままです。序文の記述から、著者が江戸に8ヶ月滞在したことや、その間に日本語を学んで小さな露日辞典を編纂し、その内容を日本の通訳(通詞)に確認してもらったことがわかります。この露日辞典をもとにして、ロシアの上流階級で広く用いられ、外交言語でもあったフランス語に翻訳し、仏日語彙集として刊行されたものが本書です。著者は、条約締結によって日本とロシアとの間に新たな友好関係が樹立されたことを祝福する一方で、日本の言語や文学についてはまだまだ理解が十敏な水準に及んでいないため、海軍水兵の実用に供するために本書を刊行する旨を述べています。

 冒頭には、カナ文字とその読み方を表したアルファベットの一覧表が掲載されています。パリではすでに1820年台から日本語研究を含めた東洋研究が盛んに進められており、他のヨーロッパ諸国では珍しかったカナ文字活字もいち早く揃えられていました。こうした事情から、本書はロシア海軍士官の著作でありながら、パリで刊行されることになったのではないかと思われます。本文では、左端にアルファベット順にフランス語の単語と品詞 の略語表記が記載され、中央には日本語の発音をアルアベットで表記したものが、右端にカナ文字で日本語が、それぞれ記載されています。たとえば、「Absolument, adv. / tacicáni / タシカニ」「Accélérer, v.a. / soussoúmou / スヽム」といったように、品詞別には区分されず、フランス語のアルファベット順で日本語単語が記載されています。収録単語総数は定かではありませんが、概ね1ページに30語ほどの単語が記載され、80ページほどの分量がありますので、2400語前後は収録されているのではないかと思われます。巻末には、月と数字表記の一覧が別掲されています。

 本書は、幕末の時期に外国人の手によって編纂された日本語研究書として重要な書物と思われますが、当時の発行部数が多くなかったのか、国内所蔵機関における蔵書は著しく少なく(CiNii上では国際日本文化研究センターのみ所蔵)、その存在自体が、これまでほとんど知られていないのではないかと思われます。

見返しは美しいマーブル紙が用いられており、旧蔵者の蔵書票がある。
タイトルページ。
序文冒頭箇所。本書刊行の背景がある程度わかる貴重な記事。
上掲続き。
本文に先立ってカナ文字とその読み方を記したアルファベットの一覧表が掲載されている。
本文では、左端にアルファベット順にフランス語の単語と品詞 の略語表記が記載され、中央には日本語の発音をアルアベットで表記したものが、右端にカナ文字で日本語が、それぞれ記載されている。
収録後数はおよそ2400前後ではないかと思われる。
最終部には、別掲して数字や月表記など、日常生活で最初に必要となるであろう基本単語が別掲されている。
本文末尾箇所。
刊行当時のものと思われる装丁で状態は良い。