書籍目録

『日本の女性とその文学』(現代日本文学アンソロジー第2巻)

好富正臣

『日本の女性とその文学』(現代日本文学アンソロジー第2巻)

著者直筆献辞本 [1924年] パリ刊

Yoshitomi, M(asaomi).

FEMMES JAPONAISES ET LEUR LITTÉRATURE. Critique, roman, théâtre, souvenir. (Anthologie de la Litterature japonaise contemporaine Tome II)

Paris, Henri Chariot, [1924]. <AB2020259>

Sold

Dedication copy inscribed by the author.

8vo (12.0 cm x 18.5 cm), pp.[1(Half Title (singed by author))-3(Title.)-5], 6-168, 1 leaf(Table), Original paper wrappers.

Information

大正期の日本における女性の社会批評、文芸分野での活躍をいち早くフランスに伝えた書物

 本書の著者である好富正臣は、東京帝国大学を卒業後の1923年に外務省在外研究生となりパリ大学に留学、以降外交官としてのキャリアをドイツ、ソ連で重ね、1924年に南京に一等書記官として赴任してからは、大東亜省の情報部長となり、当地で1943年に亡くなっています。好富は、外交官としてのキャリアを重ねる一方で文学への関心、造詣が深かったようで、有島武郎『在る女』の翻訳刊行もパリ大学留学中の1926年に行っています(好富の経歴と『或る女』の翻訳については、杉淵洋一『有島武郎をめぐる物語』青弓社、2020年が詳しい)。

 好富は、本書が刊行されたと思われる1924年に、グルノーブルで『現代日本文学アンソロジー』と題した書物を刊行しており、本書はこれに続く第2巻として位置付けられているものです。『現代日本文学アンソロジー』は、文学、詩歌を中心とした日本文化の紹介と、国木田独歩ら現代日本文学のフランス語訳での紹介を主眼としていた書物ですが、本書は、特に女性の批評家、小説家らに焦点を当てて、解説とともに好富によるフランス語訳を掲載したものです。批評、随筆、小説、戯曲とにそれぞれ分類して下記のような全4章構成となっており、女性著者、活動家による作品をいち早くフランス語圏に紹介した書物として、注目に値する文献と言えます。

第1章:批評
 平塚らいてう、山川菊栄、三宅やすこ、小寺菊子
第2章:随筆
 堀保子
第3章:小説
 神近市子、鷹野つぎ
第4章:戯曲
 野上弥生子


「大正期には、好富正臣が『日本女性と文学、批評、小説、戯曲、回想記』Anthologie de la littérature Japonaise Contemporaine(グザヴィエ・ドルヴェ書店、1924年)の中で、女性の立場から権利を主張する作家をフランスに紹介している。東京帝国大学法学部を経て公使館勤務であった好富は、フランス留学経験で培ったフランス語で、有島武郎の『或る女』の翻訳を刊行した。好富曰く、日本は「女性の国」であるにもかかわらず、フランスで知られているのは吉原と芸者のみであるから、『日本女性と文学』では同時代の女性の活躍に焦点を当てる。島田歌子、羽仁もと子、鳩山春子、伊藤野枝、小説では藤原(宇野)千代、中条(宮本)百合子の名前を挙げた後、評論では平塚明子(らいてう)の『青鞜』から「原始、女性は太陽であった」(『今日の日本』Le Japon d’aujourd’lui, 所収、メボン訳)を引いている。1919年に平塚らが中心になって結成された新婦人協会は、女性の政治的権利の獲得という功績を残したが、日本における女性の惨めさは否定し難いと著者は記す。さらに、山川菊栄の『改造』、『中央公論』への寄稿、特に『女性』誌に掲載された記事「女性の失業の重大さ」を取り上げている。そして若手作家として三宅やす子、小寺菊子を、さらに回想の章には堀保子の『大杉栄追想』を、小説の章には神近市子、鷹野つぎの作品を、戯曲の章には野上弥生子による『藤戸』の能を紹介する。本書では大正デモクラシーの空気が感じとれると同時に、女性の置かれている悲しい状況を直視させられる。」
(田口亜紀「両大戦間における日本女性像:紋切り型からキク・ヤマタの女王の国へ」松崎碩子ほか編『両大戦間の日仏文化交流』由馬に書房、2015年所収、201-202頁より)