書籍目録

『日本の民間伝承(フォークロア):物語と伝説』

トリル編著

『日本の民間伝承(フォークロア):物語と伝説』

1935年 ブルージュ刊

Trilles, R. P.

[FOLKLORE] AU JAPON. CONTES ET LÉGENDES.

Bruges, Saint-Charles, 1935. <AB2020258>

Sold

8vo (16.0 cm x 25.4 cm), pp.[1-3(Half Title.)-5(Title.)-7], 8-157, 1 leaf(Table), Original card wrappers.
全体的に紙質に起因すると思われるヤケが見られる。

Information

日本の民間伝承を宣教師独自の視点で紹介した書物

 本書は、日本の古今のさまざまな物語を編纂したもので、著者による民俗学的な考察とともに日本の昔話をジャンルごとに区分して紹介したものです。編者のトリル(Henri Trille, 1866 - 1949)は、聖霊修道会(Missionaire du Sait-Espri)の修道士として、コンゴをはじめ各地で活躍し、布教先の民俗学研究でも多くの功績を残した人物として知られています。本書でもトリルの民俗学的なアプローチが用いられていて、当時の日本で比較的よく知られていた物語を、下記のように民間伝承、民話、歴史物語、風刺物語、信仰に関する物語に分けて紹介しています。

第1章:章題無し(日本の家屋、祝祭日、「浦島太郎」ほか)(9頁〜)
第2章:日本概論、過去と現在、人々の気質(地理、動物、花々、気候、容貌、言語ほか)(27頁〜)
第3章:日本の民間伝承(詩歌、歴史、「弁慶物語」「八幡の大蛇」「うさぎの仇討ち(カチカチ山)」ほか)(34頁〜)
第4章;日本の民話(「金平糖の花瓶」「八ツ山羊」「舌切り雀」「瘤取り爺さん」ほか)
第5章;歴史物語(「赤穂浪士」ほか江戸時代の各種物語)
第6章:風刺物語、ことわざ
第7章:土着信仰と日本におけるカソリック

 扱われている物語は「八幡の大蛇」や「カチカチ山」といった現代でも親しみのある昔話がある一方で、明治から大正にかけての日本を舞台にしたと思われる比較的新しい物語や、「八ツ山羊」のように元々はグリム童話だったものを日本の文脈に即して翻案翻訳した物語(店主には元の物語特定できないものも多々あります)が含まれているなど、必ずしも伝統的な物語に限っていないように見受けられます。また、第7章はカソリック宣教師の著者らしく、日本におけるかつてのカソリック信仰の広がりと弾圧と幕末から明治以降の再興隆について、土着信仰の物語をあわせて論じています。

 本書の記述は全体的にかなり充実した内容となっていて、現在でも古書市場に数多くの部数が流通していることから、当時相当数が発行されたものと思われますが、ちりめん本研究を含め、西洋人による日本の昔話研究の文脈では、これまであまり注目されてこなかった文献のように見受けられます。また、本文中は数多くの魅力的なイラストが挿入されているのも特徴で、絵師についての記載はありませんが、物語の内容や日本の風俗をよく捉えていることから、相応の見識にある人物による作品と思われます。

表紙。日本と中国のイメージと混同している印象を受けなくもないが、本文の内容はしっかりしているように見受けられる。
表紙。
序文冒頭箇所。
第1章冒頭箇所。
「浦島太郎」から
第2章冒頭箇所。
第3章冒頭箇所。
「弁慶物語」から
「八幡の大蛇」から
「うさぎの仇討ち(カチカチ山)」から
同上。明治の洋食スタイルに兎が着飾っているのがなんともユニークである。
第4章冒頭箇所
明治の日本を舞台にした物語のように見えるが店主には元の話を特定できないものも多い。
「八ツ山羊」から。もともとグリム童話だったものを翻案、翻刻したもので、日本の伝統的な物語というわけではないが、縮緬本を手がけた長谷川武次郎による作品として当時よく読まれた。
「舌切り雀」から。
「瘤撮り爺さん」から
第5章冒頭箇所。
第6章冒頭箇所。
日本のことわざ
第7章冒頭箇所。
巻末に目次が設けられている。
関東時の厚紙装丁で、紙面にヤケが見られるが比較的良好な状態。