書籍目録

『日本の幸福な(君主の)交代、ならびにロシアの文化や伝統についての新知見集』

ツァウムゼーゲル

『日本の幸福な(君主の)交代、ならびにロシアの文化や伝統についての新知見集』

1814年 ベルリン刊

Zaumsegel, Carl Christoph.

Der Japanische Glückswechsel, oder der Glückliche Holzträger als Kaiser. Nebst einigen Nachrichten von russischen Sitten und Gebräuchen, vom Voigtlandein Sachsen u. S.w. Aus einem ungedruckten Manuscripte entnommen…

Berlin, 1814. <AB2020256>

Sold

8vo (9.8 cm x 16.1 cm), Title., 3 leaves, pp.[1], 2-88, Contemporary ? marble boards.

Information

太閤さま(Taycosama)を主題にした大変珍しい物語を収録

本書は、日本の太閤様(Taycosama)を題材とした寓話、ならびにロシアの風習等に関する論考をまとめた小論集です。タイトルページの記載によると、いずれの作品も当時未公刊の手稿から翻刻されたものとなっていますが、どのような情報源から編纂されたのかについては不明な点が多い書物です。著者のツァウムゼーゲル(Carl Christop Zaumsegel, 1751? - 1829)についてもあまり詳しいことは分かっていませんが、ジャンルを問わず多くの作品を残した著作家であるようです。

 本書冒頭に掲載され、書物全体の表題にもなっている『日本の幸福な(君主の)交代』(Der Japanische Glückswechsel)は、秀吉をモチーフにしたと思われる太閤さまを主人公にした短い寓話で、約800年前の日本で活躍した農民出身の太閤さまが自身の才覚と誠実さ、精力的な仕事への取り組みによって、次第に皇帝(Kayser)の信頼を得るようになるという物語です。彼を妬んだ人々に盗人の濡れ衣を着せられ皇帝から謂れのない怒りを買って放逐されても、太閤さまは見事自力でその濡れ衣を果たし、ますます皇帝からの信頼を篤くしていき、最終的に太閤さまは皇帝の後継者に指名されるまでになり、君主となってからは人々の声に耳を傾け、民からの人望篤い君主として全盛を営んだという筋書きになっています。「800年前」というのは明らかに誤りですが、農民出身で苦労して立身出世を果たし日本の君主となる太閤さまというのは、秀吉を指していることは明らかでしょう。ただ、イエズス会士による日本報告はじめ西欧人による秀吉の評価は、あまり芳しくないものが多い中、本書は明らかに立派な人物として秀吉を描いていることは大変珍しいことと言えます。編者ツァウムゼーゲルが、一体どのような情報源によってこの物語を本書に収録したのかは非常に興味深いところです。

 日本の物語の後に続いて掲載されている幾つかの論考は、いずれもロシアの文化や風習などに関する小論で、なぜ日本の物語がロシア論とともに合冊され、しかも書物全体の表題を日本の物語にしたのかについても、店主にはわかりかねるところがあります。この書物は、表題に日本の物語を冠しているにもかかわらず、これまで主要な日本関係欧文図書目録に掲載された形跡がなく、ほとんど知られてこなかった文献ではないかと思われます。10ページにも満たない大変短い日本の物語ですが、秀吉のユニークな評価の理由や情報源も含めて、興味深い謎を多く含んだ知られざる1冊と言えるでしょう。

タイトルページ。
1814年の新年を祝う巻頭詩
日本の物語の冒頭箇所。
800年前の日本に生きた農民出身の太閤さま(Taycosama)が苦労して立身出世を果たして皇帝に見出され、日本の比類なき君主となったという筋書きの短編作品。
日本の物語と合冊されているのは主としてロシアに関する論考。いずれも未刊行の手稿からの翻刻として紹介されているが、実際の情報源は不明。
当時のもの?と思われるマーブル紙の厚紙装丁で状態は良い。