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(模本) 1886(明治19)年(3月) 筆写地不明
<AB2020241>
Donated
31.6 cm x 1,081 cm, 1 folded roll, 複数の和紙を張り付いで巻物仕立てにしたもの。
Information
この巻物は、あまりにも有名な高山寺所蔵「鳥獣戯画」甲本を明治19年3月に模写したという模本です。模写した人物として署名されているのは、幕末から明治期にかけて活躍した前田貫業という絵師です。前田貫業は、大和絵に優れた絵師である山名貫義の弟ですが、山名は、1879年に古画の模写の依頼を受けて以来、正倉院の宝物調査、各地の寺社の宝物調査に従事するなど、明治期の古美術調査、保存、継承に尽力したことでも知られています(山名の来歴については、高階秀爾監修『絵画の明治:近代国家とイマジネーション』毎日新聞社、1996年を参照)。この兄との関係で、何らかの調査目的で、前田貫業が模写を行った可能性もありますが、正確な背景事情は分かりません。 「鳥獣戯画」は、1872年のいわゆる「壬申検査」と呼ばれる宝物調査でその重要性が再認識され、その後に修復、山崎董詮による模写がなされています(壬申検査については、東京国立博物館での2015年の特別展示「鳥獣戯画と高山寺の近代-明治時代の宝物調査と文化財の記録-」の解説を参照)。本図が、この時の模写をもとにした更なる模本であるのか、あるいは原本に基づく模本であるのかどうかはわかりませんが、いずれにしても原本に近い大きさで描かれていることから、いずれかの手本を元に描かれたことは間違いなさそうです。 ただし、本来の第十一紙から第十七紙に相当する場面については、一部のアレンジがみられることから、忠実な模本とはやや異なるように見受けられます。このアレンジがなされている箇所は、他の箇所と異なる用紙で継がれている箇所に概ね相当しますので、画家による任意のアレンジというよりも、用紙という物理的制約に基づくものかもしれませんが、なぜこのような用紙の違いが生じているのかについては、やはり不明のままです。 本図は2年ほど前にドイツのオークションで、他の洋古書に混じって表題も絵師の名前も明記されずに競売にかけられていたもので、なぜ、いつ頃、どのような事情で、ヨーロッパに渡っていたのかについても全く不明です。本図は、本来当店で扱うような文献とは性質がやや異なるため、その正確な価値については、店主には計りかねるところがありますが、単なる余興や贋作として制作されたものとも考えにくいため、どのような目的で制作されたのかという背景事情も含めて、何らかの歴史史料としての価値を有するものなのかもしれません。