書籍目録

『グランツビー航海記』

匿名 / (ケンペル)

『グランツビー航海記』

1729年 パリ刊

(Kaempfer, Engelbert).

LES VOYAGES DE GLANTZBY DANS LES MERS ORIENTALES de la Tartarie: AVEC LES AVANTURES surprenantes des Rois Loriman & Osmundar, Princes Orientaux; traduits de l’Original Danois; ET LA CARTE DE CE PAYIS.

Paris, Theodore le Gras, M. DCCXXIX(1729). <AB2020210>

Sold

8vo (8.8 cm x 16.0 cm), 1 leaf(blank), Title., 1 leaf, 1 folded map, pp.[1], 2-309, 210[i.e.310], 311-325, 226[i.e.326], 327-349, 1 leaf, Contemporary full leather.
旧蔵機関による押印あり。

Information

ケンペル『日本誌』に影響を受けて著された初期の小説作品

 本書は、匿名の著者によって書かれた小説で、ケンペル『日本誌』に大いに影響を受け、物語において日本が非常に大きな位置を占めている興味深い書物です。「ケンペルの資料については文学者や評論家がより早く着眼していた」(ドイツ日本研究所編『ドイツ人の見た元禄時代:ケンペル展』(ドイツ日本研究所、1990年、128頁)と言われるように、啓蒙思想が花開いた18世紀のヨーロッパでは、「日本のポジティブな部分を見るのと同時に、ヨーロッパを批判する目的で、非常に面白い文学の題材として」(同上)日本が取り上げられることが流行し、こうした小説を介しても日本観は広められていきました。本書もこうした書物の一つに数えられる作品の一つで、類似の作品の中でもかなり早い時期の作品と言えます。

 冒頭に収録されている折り込み地図は、この物語の舞台となっている地理的空間が描かれているもので、日本を中心とした北東アジアが描かれています。日本の北東に描かれているのは、実在しない「北方大陸」とアリモンド国(Arrimond)です。物語は、主人公であるグランツビーが希望峰を経由して東アジアへと向かい、「新大陸」を求めて日本を越えて太平洋へと出ようとしますが、日本の人びとからさまざまな妨害を受けたり、戦闘行為を受けたりするという苦難に遭遇します。こうした困難にあってグランツビー以外の船員は「新大陸」の発見を諦めて、海賊になってアメリカへと向かうべきだと出張し始めますが、グランツビーはこれに反対したために、「砂漠の島」に置き去りにされてしまいます。なんとか生き延びようとするグランツビーの元に「北方大陸」の帝国である「アリモンド国」の人々が現れ、グランツビーは彼らの国へと招待されます。グランツビーはアリモンド国での生活を始めることになりますが、そこでグランツビーは、人々が不幸にも大蛇の生贄になることを余儀なくされていることを知ります。そこでグランツビーはこの大蛇を銃で退治し、生贄になっていた人々の解放に成功します。このことがきっかけになって、グランツビーはアリモンド国の人々から「現人神」(a living god)として深く崇拝されるようになり・・・という物語です。大蛇退治のくだりなどは、どこかで聞いたことがあるような筋書きですが、この物語の随所随所において日本が登場しており、とくに「アリモンド国」は、日本や蝦夷との関係が非常に強い国として描かれているため、日本のことが頻繁に登場しています。

 こうした作品は、当時のヨーロッパにおいて日本情報がどのように、どの程度広まっていたのか、また本書のような小説作品を通じて、事実と物語の双方が交わりながら、どのような日本観がけいせいされていったのかを理解する上で非常に重要な手がかりとなります。