書籍目録

『詩歌で綴る日本の暦(1900年カレンダー)

[ちりめん本] エドワーズ

『詩歌で綴る日本の暦(1900年カレンダー)

Breitkopf & Härtelの押印あり 1898(明治31)年 東京刊

Edwards, Osman.

Japanese Calendar WITH VERSES BY OSMAN EDWARDS.

Tokyo (No.10-, Hiyoshicho), T. Hasegawa(, Publisher & Art-Printer), 明治三十一年十月廿日印刷、同年三十日出版. <AB2020195>

Sold

10.5 cm x 15.4 cm, 14 folded crepe paper folded sheets including the covers (i.e. 28 pages), Crepe paper book, bound in Japanese style, silk tied.

Information

同じ奥付で複数種類が作成されたカレンダー1900年版、ドイツの楽譜出版社大手ブライトコプフ社との提携を示す押印

 本書は、日本の月々をうたった詩歌と美しい挿絵とを組み合わせて作成された1900年用カレンダーです。著者のエドワーズ(Osman Edwards, 1864 - 1936)は、リバプール生まれのイギリス人で、オックスフォード大などで古典教師を務めていましたが、世紀末ごろに長期のいわゆる世界旅行に出かけ、フランス、ドイツ、ノルウェイ、ロシア、そして日本を訪れました。日本には1898年の初め頃に到着し、6ヶ月間の契約で日本の演劇情報などを中心とした紀行文をイギリスの雑誌に送る契約を結び、半年あまり滞在しています。このことからもわかるように、彼は一回の旅行者としてというよりも、演劇や芸術方面の研究者的なスタンスで持って日本に滞在しており、その主要な交友関係がハーン(Lafcadio Hearn, 1850 - 1904)や、フェノロサ(Ernest Francisco Fenollosa, 1853 - 1908)、チェンバレン(Basil Hall Chamberlain, 1850 - 1935)といった芸術、文学を主とした錚々たる日本研究者であることからも、彼の日本滞在のありようが伺えます。エドワーズをちりめん本の出版人である長谷川武次郎に紹介したのも、チェンバレンであると言われています、エドワーズは、本作を含めて長谷川に3つのちりめん本作品を提供しており、そのひとつは、アダン(Jules Adam)による日本の噺家を題材にしたちりめん本『日本の噺家』(Au Japon: les raconteurs publics. 1899)の英訳(Japanese Story-Tellers.1899)で、もう一つは『居留地の押韻詩集』(Residential Rhymes. 1899)です。

 本書は好評を博したようで、ほぼ同じ作りで翌年1901年用のカレンダーも作成されています。奥付等は全く同じまま作成されていますので、一見すると両者は同じように見えますが、本文を確認すると、当然カレンダーの日付は全く別になっています。従来本書に複数種類あること自体が知られていなかったのではないかと思われますが、日付的には本書の方が先に刊行されています。ただし、奥付の作成年月日には、明治31年(1898年)末の印刷とありますので、本書よりさらに早い1899年用カレンダーが存在するのではないかと思われます。

 また、本書は表紙右上に、ドイツの楽譜出版で著名なブライトコプフ社(Breitkopf & Härtel)の押印があることも注目されます。長谷川武次郎は、海外の大手出版社と提携して自身の出版物を販売していたことが知られていますが、同社との関係についてはこれまで注目されたことがなかった思われます。今なお、ドイツの楽譜出版社として不動の地位を占めている同社と、長谷川がどのような関係を持っていたのかについても、ちりめん本の海外での直接販売ネットワークの広がりを明らかにする上でも、改名が待たれる点かと思われます。