書籍目録

『イエズス会最初の世紀の図像集』(『イエズス会の百年像』)

イエズス会 / (スピノラ)

『イエズス会最初の世紀の図像集』(『イエズス会の百年像』)

初版(オランダ語版) 1640年 アントワープ刊

AF-BEELDINGHE VAN D’EERSTE EEVWE DER SOCIETEYT IESV VOOR OOGHEN GHESTELT DOOR DE DVYTS-NEDERLANTSCHE PROVINCE DER SELVER SOCIETEYT.

Antwerpen, Plantin, M.DC.XL.(1640). <AB2020186>

Sold

First edition in Dutch.

4to (18.0 cm x 23.0 cm), Title., 3 leaves, pp.1-712, 4 leaves, Contemporary parchment.

Information

イエズス会創立100周年を祝う書物に記された日本関係記事

 本書は、イエズス会が創立100周年を記念して、それまでの功績を振り返った書物で、テキストと韻文詩、寓意絵(エンブレム)を組み合わせて構成されています。創立者であるロヨラや、日本をはじめとしたアジア宣教の礎を築いたザビエルら、創立者の偉業を称えるとともに、世界各地で活動を繰り広げてきたイエズス会の様々な功績が記されていて、その中に、日本での宣教活動や、日本におけるキリスト教の興隆、そしてすでにキリスト教弾圧が著しく厳しくなっていたという時代を踏まえて、殉教者の「勝利」を称える記述が多く含まれています。いわゆる26聖人殉教事件で犠牲となった3人のイエズス会士ら、日本の殉教者と殉教に至るまでの日本の政治的背景についての記述や、いわゆる「元和の第殉教」で犠牲となったスピノラ(Carlo Spinola, 1564 - 1622)を大きく取り上げて、散文詩と、寓意絵でも紹介しています。
 
 なお、本書は表題にもあるように、現在のベルギーやオランダにあたる「低地地方」におけるイエズス会の発展についての記述には特に力を入れています。かつての工房が世界遺産となっているアントワープの著名な出版社で、イエズス会との関係も深かったプランタが出版を手掛けており、活字や挿絵の品質は非常に優れたものとなっていることも特徴です。

 本書はイエズス会100周年を大々的に記念する書物として ラテン語版(Imago primi saeculi Societatis Iesu a Provincia Flandro-Belgica eiusdem Societatis repraesentata. Antwerp, 1640)と同時に刊行されたようで、本書に登場する日本関係の記述は多くの読者に親しまれたのではないかと思われます。

*小俣ラポー日登美氏による「イエズス会の公的殉教観を 『イエズス会の百年像』(1640)からひもとく ― 日本の代表的な殉教者としてのカルロ・スピノラ像 ―」(『キリシタン文化研究会会報』第155巻、2020年所収)において、本書と同年に刊行されたラテン語版について詳細な研究が展開されています。店主はコロナ問題により近隣大学図書館が利用できないため未見ですが、本書を理解する上で必読の論文と思われます。

「特にイエズス会の日本認識を象徴的に示しているのが、イエズス会創立百年を記念して出版された大著『最初の世紀像(Imago primi saeculi)』(1640年出版)内の日本の表象だろう。この記念碑的書物では、ラテン語の韻文とエンブレムの形をとる単純化された図像のモチーフによって、イエズス会内の偉人が顕彰され、創立以来のイエズス会の功績が振り返られている。つまり、著作自体が、イエズス会公認の歴史叙述・歴史イメージそのものである。その中心となっているのは、1622年に列聖されたばかりの創立者イグナチウス・ロヨラを始めとする、イエズス会内部の聖者・福者である。ここで、日本は、信仰のための血をながす「殉教」の国として表象され、いわゆる元和大殉教(1622年)で死亡したカルロ・スピノラがその代表者として讃えられている。(ちなみに「殉教」者の多数を占めた、身分の低い多くの日本人はこの文脈では言及されない。)二十六聖人列福以前にアジア宣教の犠牲者の顕彰にはあれほど慎重であったイエズス会も、1640年の時点では、未列福者の顕彰を公に行うほど、その方針が転換していたことがここから分かる。」
(小俣ラポー日登美「日本の『殉教』とグローバル・ヒストリー −日本が西欧の歴史に内在化する時−」日本東洋学会『通信』第42号、2019年所収論文、52, 53頁より)