書籍目録

『伝道の場としての日本』

ウスター / アメリカン・ボード

『伝道の場としての日本』

初版? 1876年 ボストン刊

Worcester, I(saac). R(eadington). / American board of Commisioners for Foreign Mission.

JAPAN AS A MISSION FIELD. A BRIEF SKETCH.

Boston, A.B.C.F.M, 1876. <AB202092>

¥88,000

First edition ?

8vo (12.0 cm x 18.6 cm), Front.(map titled Southern Japan.), pp.[1], 2-23, Original paper wrappers.

Information

アメリカン・ボードによる初期日本伝道活動の足跡を伝える貴重な小冊子

 本書は、アメリカで最初に組織された海外伝道団体である、アメリカン・ボード(American Board of Commissioners for Foreign Missions, A.B.C.F.M.)が1869年から1876年にかけての日本伝道活動を振り返った小冊子です。アメリカン・ボードはマサチューセッツ州のボストンに拠点を置く伝道団体で、特定の教派に限定しない海外伝道団体として1810年に設立されましたが、1869年以降は日本にも伝道活動を開始し、同志社英学校開設に尽力するなど大きな足跡を残しています。幕末から明治初期にかけて開国後に日本にはプロテスタント・カソリックの様々なキリスト教伝道団体が日本での活動を開始しましたが、アメリカン・ボードの活動開始は1869年とやや遅く、グリーン(Daniel Crosby Greene, 1843 - 1913)によって神戸で始められました。当時既に東京築地や横浜では多くの宣教師が滞在していましたが、神戸や大阪といった西日本を中心にして活動していた者は少なく、グリーンによる活動は神戸を中心とした西日本伝道の礎を築くことになりました。活動開始当初は、明治政府によって依然として禁教令が継続されており、キリスト教の信仰は日本に滞在する外国人にしか認められておらず、日本の人々に向けた公の伝道活動は危険を伴うものでしたが、アメリカン・ボードは、学校設立や出版活動を通じて粘り強く活動を行い、他方で禁教令撤廃をするよう明治政府に圧力をかけるべく本国への運動を展開するなど、日本におけるキリスト教布教に尽力したことが知られています。

 本書では、このように後発ながらも日本におけるキリスト教布教を強力に推し進めつつあったアメリカン・ボードの日本における初期の活動がまとめられたものです。ウスター(Isaac Readington Worcester)は、アメリカン・ボード幹部として活躍したことが知られている人物で、グリーンらから送られてくる活動報告を当初から見る立場にあったため、本書の執筆者に選ばれたのではないかと思われます。冒頭では、日本南部(Southern Japan)と題された地図が収録されていますが、これは当時、関東以西をこのように呼ぶことが多かったためです。アメリカン・ボードが活動の拠点としていた関西(兵庫、神戸、大阪、堺等)は図中に拡大図が別途掲載されています。この地図は、本書の読者として想定されている、日本そのものについてそれほど詳しくないアメリカの関係者の本文理解を助けるために挿入されたものと思われます。

 本文では、まず歴史的概説として、日本の歴史がマルコ・ポーロにまで遡って説明されています。ザビエルに始めるかつての日本におけるキリスト教の隆盛とその後の徹底した弾圧における殉教事件が中心に論じられ、19世紀半ば以降にアメリカをはじめとした欧米各国の日本開国の試みの解説へと転じ、特に日米通商周航条約の締結に尽力した初代駐日アメリカ弁理公使ハリス (Townsend Harris, 1804 - 1878)が、幕府との交渉において居留民の信仰の自由を勝ち取るために尽力したことが強調されています。アメリカン・ボードが活動を開始する以前の様々な伝道活動の歴史についても詳細に論じられていて、プロテスタント、カソリックを問わず、幕末以降に日本で活動を開始した団体と人物がどのような活動を行ってきたかについて、時折関係者自身による書簡を引用しながら解説しています。アメリカン・ボード自身の活動もこうした文脈を踏まえた上で論じられており、明治維新直後の1869年に活動を開始した彼らの足跡について、当時の政治状況の解説を交えながら紹介されています。また、巻末には本書刊行当時に日本で活動していた宣教師名とその活動地の一覧表が掲載されています。

 本書は、アメリカン・ボードの日本における初期の活動の足跡を記した書物として非常に貴重なものですが、アメリカ本国向けに作成された小冊子ということもあって、現存するものは数少ないようです。なお、本書は後年に版を重ねているようで、少なくとも1879年に第3版が刊行されていることを確認することができます。いずれの版にしても現在では希少となっており、国内研究機関での所蔵もごく一部に限られているようです。