書籍目録

『婚姻に関する批判的考察』

[サーモン]

『婚姻に関する批判的考察』

初版 1724年 ロンドン刊

A Gentleman [i.e. Salmon, Thomas].

A Critical ESSAY CONCERNING MARRIAGE…

London, (Printed for) Charles Rivington, M. DCC. XXIV(1724). <AB202011>

Sold

First edition.

8vo (12.0 cm x 19.5 cm), Title. 9 leaves, pp.1-155, 56[i.e.156], 157-182, 185, 186, 183, 184 (i.e. 2 leaves misbound), 187-341, 109[i.e.342], 310[i.e.343], 2 leaves(Contents), Modern cloth, rebound.
比較的最近になって改装されたと思われるクロス装丁。冒頭と末尾下部余白に旧蔵機関の押印あり。 (ESTC:006365135)

Information

稀代の歴史・地理学者による婚姻についての日本を含む比較文化論的考察

 本書は、イギリスの歴史家サーモン(Thomas Salmon, 1679 - 1767)によって著された婚姻論で、古今東西の婚姻形態を比較しながら、婚姻に関する様々な議論を展開している大変ユニークな書物です。サーモンは、数十巻にもなる大部の叢書『万国民の現代史(Modern History; or Present State of All Nations. 1724 – 1739.)』の著者として著名なことからも分かるように、世界各国の歴史、文化、地理に関する当代随一の高い学識を有していました。本書は、こうした著者の学識に裏付けられて展開されたユニークな婚姻論で、しかもサーモンが参照している国の一つとして、日本の婚姻が独立して取り上げられていることは大変興味深いことと言えるでしょう。

 本書でサーモンが取り上げるトピックはタイトルページに列挙されているように、概ね下記のような内容です。

1. 独身生活よりも婚姻が望ましいことについて
2. 一夫多妻、一妻多夫と内縁の賛否をめぐる議論について
3. 両親と養育者の婚姻を制限、限定する権威について
4. 夫の権力と妻の特権について
5. 離婚の本質とそれが許容されうる理由について
6. ある程度の範囲で婚姻を禁止する理由について
7. 婚約を結ぶ様式といかなる婚約の取り決めが婚姻を拘束するかについて
8. 強制、内密の婚姻がもたらす制裁と非国教徒によって執り行われる婚姻に伴う帰結

ならびに、古代ギリシャとローマ、我々の祖先であるサクソン人、そして今日の世界各国の婚姻儀式と典礼について

 実際の本文では取り扱われるトピックの詳細や順序には違いがありますが、概ね上記1から8の主題に沿って婚姻に関する一般論が前半で展開されており、後半では古今東西の婚姻のあり方を紹介する各論となっています。言うまでもなく各国地域の婚姻は、当該地域の文化形態を特徴づける大きな要素の一つですが、サーモンは聖書の立場(プロテスタント、特にイギリス国教会の)から婚姻のあり方を考察しつつも、それを相対化しながら各国の婚姻の様式を参照して議論を展開していて、その意味でユニークな比較文化論、婚姻論となっています。本書と同じような企図で刊行された書物としては、1685年にヴェネツィアで刊行された『世界の国々の婚姻儀式(Cerimonie nuzziali di tutte le nationi del Mondo. 1685)』があり、またこの書物は1704年に英訳版(Marriage ceremonies; as now used in all parts of the world. 1704)も刊行されていて、本書はこの先例に続く書物と言えますが、なんと言っても当時最新の古今東西の歴史・地理・文化情報に精通していた著者によって編纂されている点に大きな特徴があると言えます。

 日本関係記事は、前半の一般論を展開する中で参照されているほか、後半の各国地域編において、独立した一章(302頁から)を設けて日本の婚姻について取り上げられているのを確認することができます。後者では、日本の結婚式の儀式の様子と手順、新郎新婦の様子や、夫にだけ内縁の妻(妾)を持つことが許されている反面、女性は極めて厳重に他の男性と接触しないようにされていること、夫がほんの少し不愉快になるだけで妻と離婚したり、妻を殺害することさえありうること、不倫は厳しく罰せられる一方で遊郭は公に認められていること、両親はこどもがまだとても幼いうちに(場合によってはまだゆりかごに入っているうちに)婚姻を取り決めてしまうこと、台湾と同様に子殺しの習慣がみられること、などが論じられています。これらの記述の情報源となったのは、マッフェイ(Giovanni Pietro Maffei, 1533 - 1603)の『東インド誌(Ioannis Petri Maffeii Bergomatis e Societate Iesu, Historiarum Indicarum libri XVI, 1588)』、あるいは同書に由来する情報を用いた後年の文献ではないかと思われます。いずれにしてもユニークな切り口から日本を比較文化的に論じた大変興味深い記述と言えそうです。

比較的最近になって改装されたと思われるクロス装丁。
タイトルページ。本書で扱われる主要な主題が列記されている。著者は、A Gentleman と匿名になっているが、サーモンであることが特定されている(大英図書館書誌参照)
序文的な意味を持つ読者への献辞冒頭箇所。
本文冒頭箇所。独身生活よりも婚姻が望ましいことについて、と言うテーマで、聖書を参照することから議論を始めている。
ポリガミーについて、冒頭箇所。
離婚について、冒頭箇所。
古代ギリシャの婚姻儀式について、冒頭箇所。
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