書籍目録

『わんぱく物語』第1巻 付属『わんぱく物語』ほるぷ社による復刻版全2巻

ヴィルヘルム・ブッシュ / 澁谷新次郎(訳 ) / 矢田部良吉, 渡辺渡(校閲) / 小柳津要人(第2巻訳)

『わんぱく物語』第1巻 付属『わんぱく物語』ほるぷ社による復刻版全2巻

オリジナル再版 / 復刻版 明治二十一年一月十九日版権免許、同年三月出版、同年十二月二十七日再版印刷、同年同月二十九日再版出版 / (昭和53年3月) 東京刊

WILHELM BUSCH ARAWASU / SHIBUTANi SHINJIRO YAKU SU

WAMPAKU MONOGATARI DAI 1

(東京), ROMAJI KAI (羅馬字会), <AB201763>

Sold

12.5 cm x 18.5 cm, pp.[1], 2-18 / pp.[1], 2-18 / pp.[1], 2-22, Bound in Japanese style, silk tied.
裏表紙に痛みが激しく裏打ちによる補修跡あり。テキスト後半にも虫食いあり。復刻版は保存ケースも含めて状態は極めて良好。

Information

日本で最初の翻訳絵本、復刻版付属

 本資料は、日本で最初の翻訳絵本として知られるもので、現在では大変な稀覯本として知られる『わんぱく物語』第1巻と、昭和53年に原著の忠実な復刻版としてほるぷ出版から刊行された全2巻とを合わせたものです。

 『わんぱく物語』は、ドイツで今も親しまれている古典絵本『マックスとモーリッツ、7つのいたずら物語(Max und Moritz - Eine Bubengeschichte in sieben Streichen)』を翻訳したもので、7つの物語のうち第1話と第2話を第1巻に、第3話と第4話を第2巻に収録しています。この物語は、いわゆるブラックユーモアに属するもので、いたずら好きの2人のこども、マックスとモーリッツが引き起こす様々な事件をコミカルに描いています。テキストは韻を踏んでおり、音読することで、こどもが愉快に楽しめるように工夫されています。また、現代のコミックに通じる軽快なタッチのイラストが特徴的で、そのため漫画研究史において、最初期のコミック作品としても位置付けられています。

 この作品を翻訳したのは、澁谷新次郎(第1巻)と小柳津要人(第2巻)で、発行所は羅馬字会となっています。羅馬字会とは、1885(明治18)年に外山正一、矢田部良吉、チェンバレン(Basil Hall Chamberlain, 1850 - 1935)らによって結成された団体で、漢字やひらがなを廃してローマ字表記を日本語に採用することを推進する目的をもって活動し、ROMAJI ZASSHIなどの機関紙を発行していました。本書は、この羅馬字会の活動の一環として翻訳、出版されたもので、こどもにローマ字表記に親しみを持ってもらうことを目的に作成されたものと思われます。

 テキストは全文を日本語に翻訳した上で、それらをローマ字で表記しています。原著が韻を踏んでいることにも留意して、日本語で音読した際にも韻を踏むように工夫して翻訳されており、訳文としては名訳と言って差し支えないものと言えます。巻頭にはヘボン式ローマ字表記の一覧表も付されており、初学者でも無理なく楽しみながら学習できるよう苦心していることが伺えます。

 おはなし自体は、マックスとモーリッツ(訳文では太郎と次郎)が「いたずら」と呼ぶにはかなり酷い所業を繰り広げるもので、第1話ではおばあさんが大事に飼っている鶏たちに紐のついた餌を与え、結果的に首を絞めて殺してしまった挙句に、嘆き悲しむおばあさんがせめて食べることで供養しようと調理したところを、煙突から盗み取ってしまい、おばあさんの飼い犬に濡れ衣を着せるといった有様です。

 内容の残酷さはさておき、本書は日本で初めて紹介された翻訳絵本として、記念碑的地位を占めるものですが、現在は入手が極めて難しい稀覯書となっています。今回ご案内するものは、原著の第1巻(再版)と、昭和53年にほるぷ社によって復刻版として出された全2巻とを合わせたもので、原著の風合いと復刻版との比較もできる資料となっています。原著は痛みも見られますが、当時のものとしては比較的状態も良く、綴じ紐もしっかりと残っています。日本の絵本、コミックの翻訳史研究における、非常に重要な資料です。
 

冒頭には仮名文字のローマ字表記表がある。
第1話 DAI ICHI NO WARUSA(第1のわるさ)声に出して読んでみると、実によく考えられた訳文であることがわかる。
紐にくくった餌をにわとりにあたえると…
あまりにも酷い…
さらに二人の悪行は続く。DAI NI NO WARUSA(第2のわるさ)
煙突から焼き鳥となった哀れな鳥を覗き込む二人。悪い予感しかしない…
濡れ衣を着せられるおばあさんの飼い犬(Shirobuchi)に同情するほかなし。
奥付には痛みがあり破れがあるが、裏打ちによる補修がなされている。
裏表紙
付属する、1978(昭和53)年刊行のほるぷ社による復刻版。収納ケース付き。これらと原著とを見比べると紙質も含めて、非常に高品質な復刻版であることがわかる。