書籍目録

『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』第45巻(1864年6月から12月)

[ワーグマン] / (下関戦争)

『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』第45巻(1864年6月から12月)

(第1266号から第1295号までの28号を1冊に合冊) 1864年 ロンドン刊

[Wirgman, Charles] / (Shimonoseki campaign)

THE ILLUSTRATED LONDON NEWS. VOL. XLV, JULY TO DEC. 1864.

London, George C. Leighton, 1864. <AB2019152>

Sold

28 issues(No.-) bound in 1 vol.

28.0 cm x 40.3 cm, pp.[I(Title.)-iii], iv, [1], 2-684, Modern half cloth bound.
見返し部分に旧蔵機関による押印あるが、全体として良好な状態。

Information

下関戦争を描いた特派員ワーグマンによる日本関連記事ほか重要記事を多数収録

 本書は、絵入り週刊誌の先駆けとして名高い『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』のうち、1864年6月から12月にかけて刊行された28号分を1冊にまとめて合冊したものです。1864年のイギリス・フランス・オランダ・アメリカの四国連合艦隊と長州藩との間で起きた下関戦争に関する挿絵入り記事をはじめとして、特派員ワーグマン(Charles Wirgman, 1832 – 1891)による日本関係記事が豊富に収録されており、同時代のイギリスで発行された最大手週刊誌における日本情報の伝播状況を理解する上で欠かせない文献資料です。

 『イラストレイティッド・ロンドン・ニュース』は、1842年にロンドンで創刊された週刊誌で、その名の通り、イラストをふんだんに盛り込んだ独自の編集方針によって大成功を収め、視覚情報を重視したメディアの先駆けとなりました。同誌は世界中に特配員を派遣したほか、各国政府、公使館、領事館筋の情報をいち早く入手することで、世界各地の最新情報を読者に提供したことでも知られており、自宅にいながらにして最新の世界情勢を精細な図版とともに得ることができる画期的なメディアとして、当時のヨーロッパにおける情報流通の様相を大きく変容させたと言われています。

 また、同誌は、ワーグマンを特派員として採用していたことから、彼の特派員通信にもとづいた最新の日本情報と、さまざまな挿絵が多くの号に掲載されていることで、同時代の欧文日本研究資料としても高く評価されています。画家でもあったワーグマンは、友人の写真家でもあったベアト(Felice Beato, 1832 - 1909)の写真をもとにして描いた数多くの挿絵を記事ととも同誌に提供しており、そのおかげで、同誌に掲載される日本関係記事の多くは、優れたイラストとともに掲載されています。

 同誌は、毎週土曜日に発行され、概ね25ページから30ページほどの分量で、1ページの大きさが、縦約40センチ、横約30センチと非常に大きな用紙を用いて印刷されており、この大きな用紙に展開される様々なイラストが同誌の大きな魅力、特徴となっていました。毎週発行された各号は、半年ごとに合冊され、全体のタイトルページを付して1冊の書物としても販売されたようで、本書はこうした合冊本にあたるものです。後に合冊して販売することを念頭に置いていたためと思われますが、各号のページ付は連続しています。

 内容は各号でばらつきがあるのですが、店主がざっとみたところでは、概ね次のような記事で構成されていることが多いようです。

・絵入一面記事(トップニュース)
・外国と植民地関連記事(日本含む)
・最新海外速報
・教会と大学関連記事
・絵入特集記事
・週末行事一覧
・天気予報
・一般記事
・王室関係記事
・裁判記事
・議会関連記事
・大都市関連記事
・大規模行事
・週の出来事
・農場、農業記事
・スポーツ記事
・貴人の訃報記事
・地方関連記事
・市場記事
・他誌記事から
・一般の生誕・婚姻・訃報記事
・外国為替関連記事
・広告
・特集記事
・遺言記事
・郵便関係記事
・芸術記事
・文学記事
・他雑誌関連記事
・音楽関係出版記事
・科学記事
・海軍、陸軍諜報関連記事
・音楽記事
・劇場記事
・今週のチェス
・特派員通信記事

 日本に関係する記事は、おおむね「外国と植民地関連記事」と「特集記事」、「トップニュース」あたりに見出すことができます。本書には全部で28号が合冊されていますが、そのうち何らかの形で日本に言及している号は19号にも上っています。これは、当時のイギリスにおいて日本に対する関心が高かったことを示すとともに、特派員ワーグマンの記者としての優れた手腕によるところが大きかったのではないかと思われます。

 本書前半は、ワーグマンによる挿絵入り記事が収録されており、日本の風習や社会状況に関する記事が多く見られます。また、ベアト撮影のオルコックの肖像画入り記事なども見られます。こうした1864年7月から10月頃までの日本関係記事は比較的落ち着いた内容の記事が多い印象を受けます。一方、10月後半以降になると、長州藩とイギリスほか列強各国との緊張関係の高まりを報じた速報記事や、下関戦争の場面を詳細に描いた記事が中心となっており、下関戦争勃発から約2ヶ月ほどが経過したこの頃から戦闘に関するニュースがイギリスに届き始めたことが伺えます。本書に収録されている下関戦争関連記事は、同戦争の当事者国における雑誌記事としてこれまでの研究においても頻繁に言及されてきた重要な記事ばかりで、戦争の経過を理解する上で欠かせない資料といえるものです。有名なベアトの写真に基づいた下関砲台占領図や、上陸するイギリス軍や長州藩との戦闘場面といった緊迫感のあるイラストや、戦闘と交渉の経過を活きいきと報じる臨場感のあるテキストは、実際に戦地に赴いたワーグマンならではのものといえるでしょう。

 『イラストレイティッド・ロンドン・ニュース』は、歴史的に重要なメディア資料として世界中で高く評価されており、近年ではデジタルアーカイブも販売されているほどです。デジタル版は記事検索など多くの利点があり、その有用性は疑うところがありませんが、やはり同誌の大きな魅力、特徴であった大型用紙全面に展開される図版から受ける印象というものは、やはり現物によってはじめて得られるところがあります。その意味では、日本関係記事を豊富に含んだ本書は、当時のヨーロッパにおける日本情報が与えたインパクトを追体験することもできる大変貴重な資料と言うことができるでしょう。

 なお、本書に収録されている号とページ数、および日本関係記事については、下記のとおりです。

1. No.1266: Saturday, July 2, 1864. (pp.1-24)
2. No.1267: Saturday, July 9, 1864. (pp.25-48)
3. No.1269: Saturday, July 16, 1864. (pp.49-80 *日本速報記事(p.51)
4. No.1270: Saturday, July 23, 1864. (pp.81-108)*ベアト撮影写真に基づくワーグマン挿絵付きオルコック紹介記事と、ワーグマンによる挿絵付き記事(p.97)
5. No.1271: Saturday, July 30, 1864. (pp.109-132)*日中速報記事(p.111)
6. No.1272: Saturday, August 6, 1864. (pp.133-156)*ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事(p.145)
7. No.1273: Saturday, August 13, 1864. (pp.157-180)*ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事(p.179-180)
8. No.1274: Saturday, August 20, 1864. (pp.181-204)
9. No.1275: Saturday, August 27, 1864. (pp.205-228)*ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事(p.209/212)
10. No.1276: Saturday, September 3, 1864. (pp.229-252)
11. No.1277: Saturday, September 10, 1864. (pp.253-276)
12. No.1278: Saturday, September 17, 1864. (pp.277-300)
13. No.1279: Saturday, September 24, 1864. (pp.301-324)*ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事(p.304)
14. No.1280: Saturday, October 1, 1864. (pp.325-348)
15. No.1281: Saturday, October 8, 1864. (pp.349-372)*日本速報記事(p.351) / ワーグマンによる挿絵付き記事(p.360-361)
16. No.1282 / 1283: Saturday, October 15, 1864. (pp.373-404)*ワーグマンによる挿絵付き記事(p.404)
17. No.1284: Saturday, October 22, 1864. (pp.405-428)*日中印速報記事(p.406)
18. No.1285: Saturday, October 29, 1864. (pp.429-452)*日本速報記事(p.430) / 横浜湾に停泊する英艦隊と江戸市街図を描いた見開き大パノラマ図2枚を含む記事(p.436-437)
19. No.1286: Saturday, November 5, 1864. (pp.453-476)*日本速報記事(p.454)
20. No.1287: Saturday, November 12, 1864. (pp.477-500)*F. L. ベッドウェルの下関海峡風景図含む5枚の挿絵付き記事(p.487-489)
21. No.1288: Saturday, November 19, 1864. (pp.501-524)*下関戦争場面と瀬戸内海(大島含む)を描いたF. L. ベッドウェルの図版5枚を含む記事(p.503-505)
22. No.1289: Saturday, November 26, 1864. (pp.525-548)*日本速報記事(p.527)
23. No.1290: Saturday, December 3, 1864. (pp.549-572)
24. No.1291: Saturday, December 10, 1864. (pp.573-596)*日本速報記事(p.575) / 下関戦争における陸上戦闘場面を描いたワーグマンの挿絵付き記事(p.575/577) / ワーグマンによる挿絵付き記事(p.585)
25. No.1292: Saturday, December 17, 1864. (pp.597-620)*日中速報記事(p.599)
26. No.1293 / 1294: Saturday, December 24, 1864. (pp.621-636)*下関砲台占領を撮影したベアトの写真に基づく挿絵、イギリス軍の下関上陸場面を描いた挿絵を含む記事(p.621-622/624) / 日中速報記事(p.622)
27. No.(1294) Christmas Supplement: Saturday, December 24, 1864. (pp.637-660)
28. No.1295: Saturday, December 31, 1864. (pp.661-684)*日本速報記事(p.663)

縦約40センチ、横約30センチと非常に大きな用紙を用いて印刷された大型本。装丁は近年の改装と思われ状態は良い。
合冊本のために設けられた、巻全体のタイトルページ。
本書に収録されているイラスト索引。
下関海峡が依然として封鎖されていることを報じた速報記事。(No.1269, 1864年7月16日号より)
ベアト撮影写真に基づくワーグマン挿絵付きオルコック紹介記事と、ワーグマンによる挿絵付き記事。(No.1270, 1864年7月23日号より)
ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事。(No.1272, 1864年8月6日号より)
ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事。「江戸近郊の大坂」とあるが、もちろん大阪は江戸の近くとは言えない。(No.1273, 1864年8月13日号より)
ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事。(No.1275, 1864年8月27日号より)
ワーグマンによる2枚の挿絵付き記事。(No.1279, 1864年9月24日号より)
ワーグマンによる挿絵付き記事。(No.1281, 1864年10月8日号より)
ワーグマンによる挿絵付き記事。(No.1282, 1864年10月15日号より)
横浜湾に停泊する英艦隊と江戸市街図を描いた見開き大パノラマ図2枚を含む記事。(No.1285, 1864年10月29日号より)
F. L. ベッドウェルの下関海峡風景図含む5枚の挿絵付き記事。(No.1287, 1864年11月12日号より)上掲図はベアトの写真に基づいたもの。
上掲続き。戦闘前と思われる下関海峡周辺の様子が描かれている。この図を描いたのはイギリス海軍の主計官兼画家のベッドウェル(稲生淳『熊野:海がつなぐ近代史』森話社、2015年、58-59ページ参照)
瀬戸内海(大島含む)を描いたF. L. ベッドウェルの図版を含む記事。(No.1288, 1864年11月19日号)
上掲続き。激しい砲撃の様子が迫力ある筆致で描かれている。
下関戦争における陸上戦闘場面を描いたワーグマンの挿絵付き記事。(No.1291, 1864年12月10日号より)
ワーグマンによる挿絵付き記事。(No.1291, 1864年12月10日号より)
下関砲台占領を撮影したベアトの写真に基づくイラストよる巻頭表紙。(No.1293, 1864年12月24日号より)
イギリス軍の下関上陸場面を描いた挿絵を含む記事。(No.1293, 1864年12月24日号より)
見返し部分には、旧蔵機関による蔵書印あり。