書籍目録

『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』第43巻(1863年6月から12月)

[ワーグマン] / (下関攘夷戦)/(薩英戦争)

『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』第43巻(1863年6月から12月)

(第1211号から第1238号までの27号を1冊に合冊) 1863年 ロンドン刊

[Wirgman, Charles] / (Shimonoseki campaign) / (Bombardment of Kagoshima)

THE ILLUSTRATED LONDON NEWS. VOL. XLIII, JULY TO DEC. 1863.

London, George C. Leighton, 1863. <AB2019151>

Sold

27 issues(No.1211-1238) bound in 1 vol.

28.0 cm x 40.3 cm, pp.[I(Title.)-iii], iv, [1], 2-668, Modern half cloth bound.
見返し部分に旧蔵機関による押印あるが、全体として良好な状態。

Information

下関攘夷戦や薩英戦争をはじめとした特派員ワーグマンによる日本関連記事を豊富に収録

 本書は、絵入り週刊誌の先駆けとして名高い『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』のうち、1863年6月から12月にかけて刊行された27号分を1冊にまとめて合冊したものです。1863年の下関攘夷戦や、薩英戦争に関する速報をはじめとして、特派員ワーグマン(Charles Wirgman, 1832 – 1891)による日本関係記事が豊富に収録されており、同時代のイギリスで発行された最大手週刊誌における日本情報の伝播状況を理解する上で欠かせない文献資料です。

 『イラストレイティッド・ロンドン・ニュース』は、1842年にロンドンで創刊された週刊誌で、その名の通り、イラストをふんだんに盛り込んだ独自の編集方針によって大成功を収め、視覚情報を重視したメディアの先駆けとなりました。同誌は世界中に特配員を派遣したほか、各国政府、公使館、領事館筋の情報をいち早く入手することで、世界各地の最新情報を読者に提供したことでも知られており、自宅にいながらにして最新の世界情勢を精細な図版とともに得ることができる画期的なメディアとして、当時のヨーロッパにおける情報流通の様相を大きく変容させたと言われています。

 また、同誌は、ワーグマンを特派員として採用していたことから、彼の特派員通信にもとづいた最新の日本情報と、さまざまな挿絵が多くの号に掲載されていることで、同時代の欧文日本研究資料としても高く評価されています。画家でもあったワーグマンは、友人の写真家でもあったベアト(Felice Beato, 1832 - 1909)の写真をもとにして描いた数多くの挿絵を記事ととも同誌に提供しており、そのおかげで、同誌に掲載される日本関係記事の多くは、優れたイラストとともに掲載されています。

 同誌は、毎週土曜日に発行され、概ね25ページから30ページほどの分量で、1ページの大きさが、縦約40センチ、横約30センチと非常に大きな用紙を用いて印刷されており、この大きな用紙に展開される様々なイラストが同誌の大きな魅力、特徴となっていました。毎週発行された各号は、半年ごとに合冊され、全体のタイトルページを付して1冊の書物としても販売されたようで、本書はこうした合冊本にあたるものです。後に合冊して販売することを念頭に置いていたためと思われますが、各号のページ付は連続しています。

 内容は各号でばらつきがあるのですが、店主がざっとみたところでは、概ね次のような記事で構成されていることが多いようです。

・絵入一面記事(トップニュース)
・外国と植民地関連記事(日本含む)
・最新海外速報
・教会と大学関連記事
・絵入特集記事
・週末行事一覧
・天気予報
・一般記事
・王室関係記事
・裁判記事
・議会関連記事
・大都市関連記事
・大規模行事
・週の出来事
・農場、農業記事
・スポーツ記事
・貴人の訃報記事
・地方関連記事
・市場記事
・他誌記事から
・一般の生誕・婚姻・訃報記事
・外国為替関連記事
・広告
・特集記事
・遺言記事
・郵便関係記事
・芸術記事
・文学記事
・他雑誌関連記事
・音楽関係出版記事
・科学記事
・海軍、陸軍諜報関連記事
・音楽記事
・劇場記事
・今週のチェス
・特派員通信記事

 日本に関係する記事は、おおむね「外国と植民地関連記事」と「特集記事」、「トップニュース」あたりに見出すことができます。本書には全部で27号が合冊されていますが、そのうち何らかの形で日本に言及している号は19号にも上っています。これは、当時のイギリスにおいて日本に対する関心が高かったことを示すとともに、特派員ワーグマンの記者としての優れた手腕によるところが大きかったのではないかと思われます。

 本書では、生麦事件にたいする幕府の賠償金支払いや、1863年の長州藩によるアメリカ・フランス・オランダ船に対する砲撃(いわゆる攘夷戦)、薩英戦争に関する日本関係記事が多く見られます。攘夷戦や薩英戦争関係記事では、長州から砲撃を受けるオランダ船(メデューサ号)を描いた図や、薩英戦争に望むイギリス艦隊を描いた図、戦闘の推移を示した鹿児島湾地図など、これらの事件を理解する上で大きく役立つ視覚資料も数多く収録されています。また、こうした時事問題に関する記事だけでなく、ソンダース(Willam Sauders, ? - 1893)が撮影した横浜のパノラマ写真をもとにして描かれた、見開き大の大きな横浜市街図や、出島図とともに掲載された出島についての論考記事、ワーグマンによる横浜を中心とした居留地民の日常の出来事などといった幕末の日本に関する多方面にわたる記事も収録されています。

 『イラストレイティッド・ロンドン・ニュース』は、歴史的に重要なメディア資料として世界中で高く評価されており、近年ではデジタルアーカイブも販売されているほどです。デジタル版は記事検索など多くの利点があり、その有用性は疑うところがありませんが、やはり同誌の大きな魅力、特徴であった大型用紙全面に展開される図版から受ける印象というものは、やはり現物によってはじめて得られるところがあります。その意味では、日本関係記事を豊富に含んだ本書は、当時のヨーロッパにおける日本情報が与えたインパクトを追体験することもできる大変貴重な資料と言うことができるでしょう。

 なお、本書に収録されている号とページ数、および日本関係記事については、下記のとおりです。


1. No.1211: Saturday, July 4, 1863. (pp.1-24)
2. No.1212: Saturday, July 11, 1863. (pp.25-56)*日中速報記事(p.27)
3. No.1213: Saturday, July 18, 1863. (pp.57-76)
4. No.1214: Saturday, July 25, 1863. (pp.77-100)
5. No.1215: Saturday, August 1, 1863. (pp.101-124)
6. No.1216: Saturday, August 8, 1863. (pp.125-156*日中速報記事(p.127)
7. No.1217: Saturday, August 15, 1863. (pp.157-180)*日中速報記事(p.159)
8. No.1218: Saturday, August 22, 1863. (pp.181-204) *生麦事件の賠償金支払いに関する速報(p.183)
9. No.1219: Saturday, August 29, 1863. (pp.205-228)
10. No.1220: Saturday, September 5, 1863. (pp.229-252)*賠償金支払いに関する速報と次号特集予告記事(p.230)
11. No.1221: Saturday, September 12, 1863. (pp.253-276)*賠償金検算の様子を描いた図を含むワーグマンによる日本特集通信記事(6月28日付)見開き大横浜市街図ほか日本関係記事を多数収録
12. No.1222: Saturday, September 19, 1863. (pp.277-300) *英艦隊が鹿児島に向かったとの速報、他国からの速報記事紹介(p.279)
13. No.1223: Saturday, September 26, 1863. (pp.301-324)*ワーグマンによる挿絵付き日本通信記事(7月13日付)(p.303)
14. No.1224 / 1225: Saturday, October 3, 1863. (pp.325-356) *日本速報記事(p.327)
15. No.1226: Saturday, October 10, 1863. (pp.357-380)*日本速報記事(p.359)、メデューサ号襲撃図他含むワーグマンによる日本通信記事(7月28日付)(p.364)
16. No.1227: Saturday, October 17, 1863. (pp.381-404)*日本速報記事(p.383)
17. No.1228: Saturday, October 24, 1863. (pp.405-428)*日本速報記事(p.407)、鹿児島湾風景図他含むワーグマンによる日本通信記事(8月9日付)(p.408)
18. No.1229: Saturday, October 31, 1863. (pp.429-452)*日本速報記事(p.431)、出島図含む出島関連記事(p.439-440)
19. No.1230: Saturday, November 7, 1863. (pp.453-484)*薩英戦争風景図、戦況鹿児島湾図含むワーグマンによる日本通信記事(8月28日付)、キューパー提督公式報告ほか(p.481-482)
20. No.1231: Saturday, November 14, 1863. (pp.485-508)*日本速報記事(p.487) / 薩英戦争で犠牲となった二人の海軍大佐の肖像と追悼記事(p.501)
21. No.1232: Saturday, November 21, 1863. (pp.509-532)
22. No.1233: Saturday, November 28, 1863. (pp.533-556)*日本速報記事(p.535)
23. No.1234: Saturday, December 5, 1863. (pp.557-580)
24. No.1235: Saturday, December 12, 1863. (pp.581-604)*日中速報記事(p.582)
25. No.1236: Saturday, December 19, 1863. (pp.605-620)*日中速報記事(p.606)
26. (No.1237)Christmas Supplement: Saturday, December 19, 1863. (pp.621-644)
27. No.1238: Saturday, December 26, 1863. (pp.645-668)

縦約40センチ、横約30センチと非常に大きな用紙を用いて印刷された大型本。装丁は近年の改装と思われ状態は良い。
合冊本のために設けられた、巻全体のタイトルページ。
本書に収録されているイラスト索引。
各号のタイトルページは特徴的な挿絵で装飾された誌名と、特集記事に関するイラストで構成されている。
No.1221(1863年9月12日号)は、生麦事件賠償金検算の様子を描いた図を含むワーグマンによる日本特集通信記事(6月28日付)や、見開き大横浜市街図ほか日本関係記事を多数収録している。
老中小笠原長行ほか、交渉に当たった幕閣の面々(上)と賠償金運搬の様子を描いた図(下)(No.1221:1863年9月12日号)
ソンダース(Willam Sauders, ? - 1893)のパノラマ写真に基づいて描かれた横浜市街図は、見開き大の非常に大きな図。(No.1221:1863年9月12日号)
日本の歩兵隊と騎兵隊 (No.1222:1863年9月26日号)
1863年7月9日にパーシュース号で開催された演劇観賞会の様子 (No.1222:1863年9月26日号)
長州藩の砲撃を受けて炎上するオランダ船メデューサ号(上)と鹿児島湾風景(下)(No.1226、1863年10月10日号より)
メデューサ号の航路を破線で示した下関湾図(No.1226、1863年10月10日号より)
鹿児島湾風景図(上)と近代化が進む幕府軍の様子を描いた図(下)(No.1228、1863年10月24日号より)
出島図と出島の歴史と現状について解説した記事(No.1229、1863年10月31日号より)
イギリス艦隊の鹿児島湾での航路を示した戦闘図(No.1230 、1863年11月7日号より)
同号に掲載されている、薩英戦争図。イギリス艦隊それぞれの艦名と激しい戦闘の様子が生々しく描かれている。
同号に掲載されているワーグマンによる日本通信記事(8月9日付)冒頭箇所。
同号には、イギリス艦隊を率いたキューパー提督の公式報告も掲載されている。
薩英戦争で犠牲となった二人の海軍大佐の肖像と追悼記事。(No.1231 、1863年11月14日号より)
見返し部分には、旧蔵機関による蔵書印あり。