書籍目録

『論集』全3巻(「東洋諸島地域の(日本語を含む)諸言語に関する考察」収録)

レーラント

『論集』全3巻(「東洋諸島地域の(日本語を含む)諸言語に関する考察」収録)

全3巻を1冊に合冊 1706年〜1708年 ユトレヒト刊

Reland, Adriaan.

HADRIANI RELANDI DISSERTATIONUM MISCELLANEARUM. (PARS PRIMA / ALTERA / ULTIMA).

Trajecti ad Rhenum (Utrecht), Gulielmi Broedelet, CIƆIƆCCVI-VIII (1706 - 1708). <AB2019121>

Sold

3 vols.(complete) in 1 vol.

8vo (10.0 cm x 16.0 cm), vol. 1: 1 leaf(blank), Title., 3 leaves, pp.[1-3], 4-232, 10 leaves(Index) / vol.2: Title., 3 leaves, pp.[1-3], 4-240, (virtually no lacking pages), 245-324, 23 leaves(Index) / Vol.3: Title., 3 leaves, pp.[1-3], 4-250, [251], 14 leaves(Index), (Folded) pl, Contemporary parchment.

Information

来日経験のないオランダ人による初期の日本語研究

 本書は、日本語を含む現在の南アジアから東南アジア近辺の諸言語を考察した論文を収録した、レーラント(Adriaan Reland, 1676 - 1718)による著作集です。1708年にユトレヒトに刊行された『レーラント論集第3巻』に収録されたもので、宣教師以外の西洋人による日本語研究の刊本としては、マイスター(Georg Meister, 1653 - 1713)の『東洋の園芸師(Der Orientalisch=Indianische Kunst= und Lust=Gärtner...1692)』と並んで、かなり初期の文献ということができます。

 

 著者のレーラントは、17世紀終わりから18世紀初めにかけて活躍したオランダを代表する東洋学者、地図学者で、1701年に若干25歳にしてユトレヒト大学の東洋言語学教授に任命されています。西欧における本格的なイスラム学の先駆者としてだけでなく、ヘブライ人の残した古代遺跡の研究や、今で言うところの比較言語学に関する研究も精力的に行いました。また、地図作成の分野でも活躍し、特に日本との関係では、石川流宣の「大日本国大絵図」を参照して作成した日本地図(IMPERIVM JAPONICVM...1715)に代表される「レーラント型日本図」をもたらした人物としてよく知られています。

 本書は、レーラントによる東洋学研究に関する論文を集めた論文集全3巻を合冊としたもので、第1巻と第2巻は1706年と1708年に刊行されています。第3巻には、4本の論文が収録されていて、その中の2番目の論文(本文中では、第1巻から通し番号がつけられているため、第11論文と表記されている)が、「東洋諸島地域の諸言語に関する考察(Dissertatio de linguis Insularum quarundam Orientalium)」と題されており、日本語を含めた島嶼部アジアの諸言語の比較分析が行われています。

 非常に興味深いことに、この分析の中で103ページからは、日本語についての考察が行われています。日本語は中国語と同じ文字を用いる一方で、異なる読み方をすることからその理解と発音が難しいことを述べ、レーラントよりもさらに早くから日本語研究を行なっていた、ミュラー(Andreas Müller, 1630 - 1694)による先行研究を参照しながら、日本語についての考察を行なっています。中国語の影響を受けているとされるタイ語やベトナム語、朝鮮語との類似点や相違点などを述べながら、共通の文字とされる漢字を折り込み図版で紹介し、ラテン語の意味、日本語の読み、中国語の読み、ベトナム語の読み、をそれぞれ一覧できる形で示しています。また、象形文字の起源と発展についても、特徴的な数文字を例にして図で示しています。

 レーラントの名前は、これまで西洋における日本地図史の文脈で非常によく知られてきましたが、彼が具体的にどのような研究を行なっていたのかや、本書に見られるような日本語研究を行なっていたことは、これまでほとんど知られてこなかったものと思われます。西洋人による最初期の日本語研究の刊本として、本書は大変興味深い視座を提供する貴重な学術資料と言えるでしょう。


「(前略)アンドレアン・レランドというオランダ人に触れなければならない。レランドは中近東の諸言語に達者で、ヨーロッパ人として初めてイスラム教を丁寧に説明したことで有名だが、中国語と日本語にもチャレンジした。彼の著書のなかに日本語の説明が書いてあり、そのなかに次のような例文が見える。

兄弟 Frater [ラテン語=兄弟(単数形)] ani [アニ] vototo [ヲトト]

レランドは平仮名などの日本の文字のことをあまり知らなかったようであるが、日本の書籍は確かに持っていた。彼の死後にその蔵書目録が出版され、アラビア語、ペルシア語、マレー語、中国語だけでなく、日本語の書籍も含まれていた。この目録は海外で出版されたもので、日本の書籍をリストアップした最初のものと考えられる。レランドが所有していた書籍自体は出島からオランダ商館関係者に持ち帰られたに相違ないが、あとで、直接に、あるいは別人の手を通って、レランドの蔵書に入ったものだろう。
 これまで見てきたとおり、17世紀初頭にイギリスへ流れ着いた書籍は、当時のイギリスでは中国の書籍と間違えられ、無視されたしまった。それは17世紀のイギリス人には、日本や日本語に対する興味とか好奇心を持っていた人がいなかったからである。ただし、ヨーロッパ本土のほうでは、日本の元禄時代にあたる17世紀末になると、日本や日本語に対する好奇心が高まってきていた。最初は出島のオランダ商館の関係者に限られていたが、時代が下がるにつれ、ニコラス・ヴィツェン、アンドレアス・ムレル、アドリアン・レランドのように、アジアへ渡航せずに日本の書籍を興味深いものと見ていた人が現れるようになったのである。」
(ピーター・コーニツキー『海を渡った日本書籍』平凡社、2018年、28-30頁より)

当時のものと思われる装丁で、状態は極めて良い。
第1巻タイトルページ
第2巻タイトルページ
最終第3巻タイトルページ。この間に日本語論を含む興味深い論文が掲載されている
第11論文「東洋諸島地域の(日本語を含む)諸言語に関する考察」
日本語の分析は103ページから比較的詳細に行われる。
中国、日本、ベトナム、朝鮮で用いられる漢字表が折り込み図版として収録されている。
上掲漢字表の解説。ラテン語での意味、日本語、中国語、ベトナム語でのそれぞれの発音を紹介。日本語の音表記が興味深い。
上掲表右部分にある数字についても紹介。
代表的な象形文字とその発展を示した図。
本章では日本語の他にも様々な言語が扱われている。上掲はセイロン島地図。レーラントは地図学者としても著名だった。
新書大の大きさだが、全3巻が合冊されているため、かなりのボリュームがある。