書籍目録

『英文帝国憲法義解』

伊藤博文 / 伊東巳代治(訳) / 高橋健三(序文)

『英文帝国憲法義解』

初版 1889(明治22)年 東京刊

Ito, Hirobumi / Ito Miyoji(tr.) / Takahashi, Kenzo(notice)

COMMENTARIES ON THE CONSTITUTION OF THE EMPIRE OF JAPAN.

Tokyo, Tokyo, IGIRISU-Horitsu Gakko(英吉利法学校), 1889. <AB201990>

Sold

First edition.

14.0 cm x 22.0 cm, pp.[I(Title.)-III], IVXIII, pp.[1], 2-259, 1 leaf(colophon), Original green cloth.
ブラウンズ神学校のGardner A Sage Libraryの蔵書票と除籍印が見返し部分にあり。テキスト中の一部に鉛筆による書き込みあり。

Information

「大日本帝国憲法」を海外に広く紹介するために刊行された英訳版

 本書は、1889年2月11に制定された、アジア最初の成文近代憲法とされる大日本帝国憲法の注釈書である『大日本帝国憲法義解』を英文に翻訳して刊行したものです。『大日本帝国憲法義解』は、伊藤博文の著作として、版権を委ねられた国会学会から1889年刊行されていますが、英訳版については、英吉利法学校(現在の中央大学)に版権が委ねられ、同年に刊行されています。前者は国内向けに刊行されているのに対して、後者は欧米各国に対して帝国憲法を広く伝え、その評価を得るために刊行されていることが特徴です。いずれも、帝国憲法起草の中心的役割を果たした人物らの思想が反映された、いわば明治政府の公式見解として、極めて重要な書物と言えます。

 「大日本帝国憲法義解』は、伊藤博文の著作となっていますが、実際には憲法起草に取り組んでいた、井上毅が作成した憲法説明書が元になっているとも言われています。元々は、憲法草案を枢密院で審議する際に、関係者に向けて配布された草案解説書が元になっており、これらが一般に向けて刊行されたものです。英訳版は、同じく憲法起草において中心的役割を果たした伊東巳代治によって翻訳され、英吉利法学校の総代であった高橋健三の序文が付されています。印刷は、大蔵省印刷局(Insetsu Kyoku / Government Printing Office)が担当し、版権所有者兼発行者は先述の通り、英吉利法学校(東京平民英吉利法学校総代 高橋健三)となっています。

 欧米各国向けに出版された本書は、不平等条約改正を目指していた当時の明治政府にとって、自国が欧米並みの近代憲法を備えていることを対外的にアピールする非常に重要な役割を果たしたものと思われることから、明治の憲法研究において重要な文献であることはもちろん、明治期の対外交渉関係文献の中においても、一つの象徴的な意義を有する文献と言えます。少なくとも、イギリスやアメリカにおいて、本書を参考にしたと思われる、帝国憲法の英訳文が複数、自国の出版物として刊行されていますので、一定の関心を引くことには成功したものと思われます。

 本書は、アメリカ、ニュージャージー州のブラウンズ神学校のGardner A Sage Libraryの旧蔵書であることを示す蔵書票が見返し部分に貼られています。ブラウンズ神学校は、幕末に福井藩士数名が留学しており、当時学生だったグリフィス(William Elliot Griffis, 1843 - 1928)が出会った学校で、日本との縁が浅からぬ学校ですので、そうした背景の元に本書が所蔵されていたのかもしれません。いずれにせよ、帝国憲法の対外宣伝として刊行された本書の伝搬の一例を示す興味深いものと言えるでしょう。


「本学の前身英吉利法学校が誕生して4年目にあたる1889年(明治22)年6月28日に、英吉利法学校から1冊の書籍が発行された。
 署名は『Commentaries on the Constitution of The Empire of Japan』、『英文帝国憲法義解』と称されているその本は、大日本帝国憲法起草の中心人物伊藤博文が執筆した『帝国憲法義解』を、欧米先進国に紹介するため、副審の伊東巳代治が英訳したものであった。
 両書は、政府の公式見解に準じた性格を持ち、それゆえに憲法発布直後の100種以上も刊行された注釈書の中でもひときわ脚光をあびたようであるが、和文原本は国家学会に、英訳本は英吉利法学校にそれぞれ版権が与えれ、個人の著作として出版されたものであった。」

(「『英文帝国憲法義解』について」中央大学史編纂課『タイムトラベル中大124』2011年、120頁より)