書籍目録

「日本:旅行者のための情報ハンドブック」(ガイドブック)

トーマス・クック商会 / ワゴン・リ社

「日本:旅行者のための情報ハンドブック」(ガイドブック)

1938年 神戸刊

Cook / Wagons-Lits.

JAPAN. INFORMATION FOR VISITORS. COOK'S HAND BOOK.

not placed, (for Thos. Cook & Son. Lted. by) Japan Chronicle Press, 1938. <AB201932>

Sold

13.1 cm x 19.1 cm, Title.(Verso: Front.), pp.1-174, folded maps: [3], with small leaflet(Principal Express Trains. February 1938), Original pictorial paper wrappers.

Information

 トーマス・クック(Thomas Cook, 1808 - 1892)は、イギリスの実業家で、旅行代理店を世界的に展開することで成功を収めた人物です。旅行者が旅行先で無駄なく魅力的な景勝地や見所を訪れることを可能にする、いわゆる団体旅行ツアーの企画、提供することで成功を収めたことから、近代ツーリズムの祖と言われています。また、クックは鉄道時刻表をはじめとした各種出版物の刊行でも非常によく知られており、ホテルガイドや各地のガイドブックを多く生み出しました。残念ながら、2019年9月に178年の歴史に幕を降ろす破産申請がなされたという報道がありましたが、クックが今日に至るまでの旅行業に多大な貢献と影響を及ぼしたことは誰もが認めるところです。 

 クックは開国後の日本において、横浜に支社を構え早く(1907年)から来日外国人観光客を相手とするビジネスを展開していました。1928年に、国際的な寝台列車会社であったワゴン・リ社 (Compagnie internationale des wagons-lits)を買収してからは、同社と連名で神戸にも支店を出して勢力的な活動を行なっています。 また、ジャパン・ツーリスト・ビューローのガイドブックの代表的な設置所でもあり、当時の外国人観光客が、何らかの形で必ず関わる可能性の高い企業であったと思われます。

 クックはまた、各種ガイドブックやマップを作成しており、自社で作成した出版物を日本支社だけでなく、世界各地で販売(ないしは頒布)していたものと思われますが、一体いつ頃からどの程度の種類、部数を発行していたのかについては、ほとんど何もわかっていません。店主の知る限りでは、1913年1月の刊行表記を持つガイドブック(Information for Travellers Landing in Japan)が、最も初期に属するクックの日本を対象とした印刷物ではないかと思われます。

 本書は、1938年にクックによって刊行された日本ガイドブックです。1935年に発行されたものと内容や構成も非常によく似ていますが、表紙に松を配置したイラスト装丁となっている点や、裏表紙に印刷会社として神戸にあったジャパン・クロニクル社の名前が明記されるようになった点が、まず目につきます。また、内容も同じようで細かなアップデートがなされており、クックが既存の情報を活用しつつ、それらを常に最新の状態にあるよう苦心していたことが伺えます。収録されている折り込みの地図の枚数が異なるだけでなく、地図そのものにも変更が加えられています。加えて、本書には、クックが作成した1938年2月時点の主要急行列車の料金表が挟み込まれています。本文の分量が10ページ近く増加しているだけでなく、後半116ページからの広告はさらに分量が増加しており、当時のインバウンド産業の盛況ぶりが感じられます。クックによる1935年のガイドブックと、本書である1938年のガイドブックは、同一の系譜とみなすことができるガイドブックと言えますので、それだけに両者の細かな相違点や変化を調べることは、当時の観光産業や日本の変化をたどる上で、興味深い知見をもたらしてくれそうです。