書籍目録

「日本:旅行者のための情報ハンドブック」(ガイドブック)

トーマス・クック商会 / ワゴン・リ社

「日本:旅行者のための情報ハンドブック」(ガイドブック)

1935年 出版地不明

Cook / Wagons-Lits.

JAPAN: INFORMATIONS FOR VISITORS. HANDBOOK.

not placed, THOS. COOK & SON, LTD>, 1935. <AB201931>

Sold

12.8 cm x 18.8 cm, Title.(Verso: Front.), pp.1-154, folded maps: [5], Original paper wrappers.

Information

旅行者の世界的名門クック商会の積極的な日本展開と急速に変化する日本社会を反映したガイドブック

トーマス・クック(Thomas Cook, 1808 - 1892)は、イギリスの実業家で、旅行代理店を世界的に展開することで成功を収めた人物です。旅行者が旅行先で無駄なく魅力的な景勝地や見所を訪れることを可能にする、いわゆる団体旅行ツアーの企画、提供することで成功を収めたことから、近代ツーリズムの祖と言われています。また、クックは鉄道時刻表をはじめとした各種出版物の刊行でも非常によく知られており、ホテルガイドや各地のガイドブックを多く生み出しました。残念ながら、2019年9月に178年の歴史に幕を降ろす破産申請がなされたという報道がありましたが、クックが今日に至るまでの旅行業に多大な貢献と影響を及ぼしたことは誰もが認めるところです。 

 クックは開国後の日本において、横浜に支社を構え早く(1907年)から来日外国人観光客を相手とするビジネスを展開していました。1928年に、国際的な寝台列車会社であったワゴン・リ社 (Compagnie internationale des wagons-lits)を買収してからは、同社と連名で神戸にも支店を出して勢力的な活動を行なっています。 また、ジャパン・ツーリスト・ビューローのガイドブックの代表的な設置所でもあり、当時の外国人観光客が、何らかの形で必ず関わる可能性の高い企業であったと思われます。

 クックはまた、各種ガイドブックやマップを作成しており、自社で作成した出版物を日本支社だけでなく、世界各地で販売(ないしは頒布)していたものと思われますが、一体いつ頃からどの程度の種類、部数を発行していたのかについては、ほとんど何もわかっていません。店主の知る限りでは、1913年1月の刊行表記を持つガイドブック(Information for Travellers Landing in Japan)が、最も初期に属するクックの日本を対象とした印刷物ではないかと思われます。

 本書は、1935年にクックによって刊行された日本ガイドブックです。先に触れた1913年のガイドブックは和綴じの90ページ弱のものですが、本書は一般的な簡易西洋綴じで154ページとなっており、形態、分量ともに大きく変化しています。本文の内容や構成は、1913年のものをベースにして分量を増加しているだけでなく、神戸に支店を新たに出したことを反映してか、神戸を起点とした関西方面の情報が充実させられていることや、台湾、朝鮮、中国の情報が掲載されるようになったこと等が特に目につきます。また、全体を通じて掲載されている写真や収録されている折り込み地図がかなり多くなっており、視覚情報が一層充実したことで、ガイドブックとしての質を高めているだけでなく、ある種の読み物としても楽しむことができるようになっています。

 こうした内容状の変化に加えて、30年代に入ってからの日本社会そのものの変化も、本書には反映されており、交通手段として自動車だけでなく、飛行機さえも案内されるようになったり、神戸元町のネオン街の写真や、和装と洋装の両方の写真を掲載して、ファッションが多様化している様子を伝えられている等、日本の文化や科学技術が急速に変化していっていること、また、こうした変化が、日本を訪れる外国人旅行者にとっても関心を惹くものであったことが、本書から見て取ることができます。

 106ページからは、汽船会社、ホテル、土産物店といった、インバウンド産業に関連する商店、企業の広告が多数掲載されており、各社の意匠を凝らした広告からは、当時の観光産業の様子を伺い知ることができます。