書籍目録

『地球旅行:(日本を含む)世界五大陸旅行の記録』

マルティネス / リバ・パラシオ(序文)

『地球旅行:(日本を含む)世界五大陸旅行の記録』

1886年 ニューヨーク刊

Martínez, Ignacio / Riva Palacio, Vicente(prologue).

VIAJE UNIVERSAL. VISITA A LAS CINCO PARTES DEL MUNDO.

New York(Nueva York), José S. Molins, 1886. <AB2018223>

Sold

8vo (14.0 cm x 21.2 cm), pp.[III(Half Title.),-V], VI-VIII, [9], 10-46, [47], 84(I.e.48), 49-120, 211(i.e.121), 122-278, Folded map, pp[I], IIV-VIII, Later half leather on original card boards.
虫食い、水ジミが本文に散見される。52,53頁上部に破れあり。

Information

メキシコ人グローブ・トロッターが称賛した明治日本

 本書は、明治日本において数多く見られた世界旅行者(グローブ・トロッター)が記した「世界旅行記」の一つに数えられるもので、メキシコ人であるマルティネス(Ignacio Martínez)が1886年にニューヨークで出版したものです。グローブ・トロッターによる世界旅行記ものは、当時数多く出版されており、こうした書物の中で、外国人の目から見た明治日本についての豊かな記述を見つけることができますが、本書のようにメキシコからの旅行者によって記されたこの種の書籍というものは大変珍しいと言えるものです。世界各地を訪ねたマルティネスにとって、日本は特に印象深い国となったようで、相対的に見ても非常に高い評価を与えており、明治日本社会の一コマを物語るものとしても、とても興味深い書物と言えます。

 著者であるマルティネスについての詳細はわかりませんが、本書の肩書を見る限りでは、メキシコの軍医でもあったようですから、公人として総統の地位にあった人物であることが伺えます。また、本書に序文を寄せているリバ・パラシオ(Vicente Riva Palacio, 1832 - 1896)は、政治家、軍人でありながら、リペラル系新聞を精力的に発行し、自身も著作家として数多くの作品を残したことで知られています。リバ・パラシオによる序文を冠していることからも、著者マルティネスの社会的地位と本書の内容が相応のものであると考えても良いでしょう。

 メキシコを起点としているマルティネスの世界一周ルートは、欧米のグローブ・トロッターとはやや異なるもので、かつ本書の表題にふさわしい規模の世界旅行となっています。メキシコにほど近いテキサスから始まり、リッチモンド、ニューヨーク、ボストン、そこから大西洋を渡ってヨーロッパに向かい、イギリス、パリ、アルメニア、スカンジナヴィア諸国、オランダ、ベルギー、スペイン、ポルトガルを訪ね、北アフリカに渡ってチュニジアを訪れてからは地中海ルートで、マルタ島に渡り、シチリア、ギリシャ、トルコ、エジプトへと中東地域を歴訪してからスエズ運河を通じてインドに向かい、シンガポール、ジャワ、コーチシナ、フィリピンと東南アジア諸国を巡って、中国、そして日本へとたどり着いています。日本を発ってからは、太平洋を渡ってアメリカ西海岸に向かうものが多い中、南下してオーストラリアに渡っています。そこからカリフォルニアへと至り、グアテマラ、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチン、ブラジルといった南米諸国を西から東へと回ってからメキシコに帰り着くという実に大規模で壮大な旅行を行なっています。

 マルティネスの日本滞在は長崎港への入港から始まっていて、長崎では出島周辺や日本の衣装が大変独特で美しいこと、人々が礼儀正しく、家々が非常に清潔であることなどを称賛しています。そこから神戸へと渡り、居留地をたずね、当時の外国人旅行者に必須であった内地旅行券(パスポート)のことについても言及しています。大阪については、東洋のヴェニスとして非常に活気があり美しい街であることを述べ、そこから京都へと向かっています。京都では高品質で美しい絹織物に特に目を奪われたようです。京都の次には横浜をたずね買い物を楽しみ、東京では芝増上寺や上野の博物館、工部大学校などを訪ねたようです。また、当時の旅行者の定番の観光地であった日光、鎌倉、箱根にも足を伸ばしています。マルティネスの日本に対する評価は終始とても好意的なもので、彼が世界旅行で尋ねた数多くの国々の中でも最善と言えるとまで述べています。

 グローブ・トロッターによる「世界旅行記」は玉石混合とは言え、多くの著者が様々な角度、深度から明治日本について言及しており、外国人の目から見た日本社会の一端を垣間見る貴重な資料となっていますが、その中においてもメキシコ人旅行者による極めて壮大な世界旅行の中で、相対的に高い評価を与えられて記述されている本書の日本関連記事は、大変興味深い資料と言えるでしょう。

表紙。本書にはテキスト中にタイトルページがなく、厚紙表紙にタイトルページにあたるものが直接印刷されている。
リバ・パラシオによる序文
著者による「読者へ」本書刊行に至るまでの経緯が述べられている。
上掲続き。
日本について記した第18章冒頭箇所。著者は訪れた数多くの国々の中でも特に日本に高い評価を与えているようである。
目次は巻末に収録されている。
著者の壮大な世界旅行の軌跡を描いた折り込み世界地図が巻末に収録されている。