書籍目録

『日本(京都)の小規模産業』

モンティエル・オルベラ

『日本(京都)の小規模産業』

1927年 京都刊?

Montiel Olvera, J(enaro).

PEQUEÑAS INDUSTRIAS DE JAPON.

Kyoto?, 1927. <AB2018222>

Sold

13.3 cm x 18.8 cm, pp.[I-II, III(Title.),IV-V], VI-VIII, [1], 2-46, 1 leaf(Advertisements), Plates: [6], Original pictorial card wrappers.

Information

京都の伝統工芸をメキシコへの産業移植というユニークな観点から考察した小冊子

 本書は1927年に京都で刊行されたとするスペイン語で書かれた小冊子で、当時の京都の象嵌や織物、陶磁器といった小規模産業について、メキシコからの産業視察の視点で記されている大変興味深いものです。著者のモンティエル・オルベラ(Jenaro Montiel Olvera)についての詳細は不明ですが、後年の1932年に『これが日本だ!:旅行者が見るものと見落とすもの(Asi es el Japon!: lo que ve y lo que no ve el turista. 1932)』という書籍をメキシコで出版しており、日本に対する強い関心を持っていた人物であることが伺えます。本書においては、著者の肩書に「産業研究所員(del laboratorio industrial)」とありますので、メキシコ政府筋の産業研究専門家として視察のために日本を訪れた上で、本書を記したのではないかと思われます。

 著者は、本書の序文において、日本の様々な産業地域を訪ねたこと、中でも小規模産業に強い関心を持ったことを述べ、これらの中からメキシコにおいて特に関心を惹くであろう事柄について報告する旨を述べています。著者は、東京や大阪、名古屋といった大規模工業都市も視察したようなのですが、その中であえて著者が京都の小規模産業に強い関心を示したのには理由があり、それが本書のユニークな特徴となっています。それは、著者が京都で視察した小規模産業は、地産の資源を有効に活用して、大規模で高額な施設投資を行っていないにも関わらず、極めて高品質の商品を多数生み出していたことに驚かされたことにあり、これらはメキシコにおいても大いにモデルケースとして参照しうると著者が高く評価したことにあります。京都の伝統工芸に関する小規模産業について、芸術的観点から高い評価を与えた外国人は少なくありませんが、自国に転用しうる産業形態として認識した外国人は、少なくとも店主が知りうる限りでは、決して多くなく、それだけに本書の内容を大変興味深いものにしています。著者は日本はわずか半世紀ほどの間に目覚ましい工業的、軍事的な発展を遂げたことを称賛しつつ、こうした急速な近代化を象徴する重工業ではなく、織物や陶磁器、象嵌といった京都で営まれていた小規模産業にあえて注目し、こうした産業こそが、現在(本書刊行当時の)のメキシコにおいて、大いに模範とすべきであることを強調しています。

 本文は、著者が実際に京都で視察した小規模産業について、用いられている器具や設備、製造工程などを、種類別に記しており、その記述は大変具体的で実践的といえるものです。取り上げられている産品としては、蒔絵などの漆塗り工芸、象嵌、セルロイドを用いた様々な工芸品、螺鈿細工、羽織や着物、ショール、また緞帳といった多彩な織物産業などがあり、随所に実際に当時作られていたと思われる品々の写真を交えて解説されています。これらの記述は、当時の京都において営まれていた小規模伝統産業の実態について、メキシコ人の視点から見た大変ユニークで貴重なものと思われます。

 本書はタイトルページの表記を見る限り、1927年に京都で刊行されたことになっていますが、印刷会社や出版社については記載がなく、実際にどのような経緯で出版されたのかについてはわかっていません。印刷部数は決して多くなかったものと思われ、国内研究機関における所蔵は、店主の調べる限りでは1点も確認することができませんでした。何れにしても、メキシコへの産業移植という興味深い視点から、当時の京都の小規模産業について報告した本書は、大変ユニークで貴重な情報をもたらす文献ということができそうです。

タイトルページ。
序文冒頭箇所。
目次①
目次②
本文中には随所に製品の写真が挿入されている。これは葉巻箱。
象嵌製品の一例。
輸出や土産物用を意識したものと思われる着物(Haori、羽織)。