書籍目録

「アジア図」

(ヘイリン) / (モーデン?)

「アジア図」

(1703年) (ロンドン刊)

(Heylyn, Pieter) / (Morden, Robert ?)

ASIA.

(London), (Edw. Brewster...[etal.]), (1703). <AB2018207>

Sold

1 sheet map (38.3 cm x 41.3 cm),

Information

 本図は、基本的な書誌情報が何一つ記載されていないため、地図作成者や年代についての正確な情報を得ることが困難なアジア図です。収録されていた文献については、ヘイリン(Peter Heylyn, 1600 - 1662)による『コスモグラフィー(Cosmography in four books...1703)』第7版ではないかと思われます。ヘイリンの『コスモグラフィー』にはヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカを描いた4枚の地図が収録されており、そのうちの1枚であるアジア図が本図と推察されます。しかし、『コスモグラフィー』は17世紀中からヘイリン死後も繰り返し改訂版が出されており、収録されている地図にも版による相違が確認できます。本図と同じ形態を持つアジア図が登場するのは、1703年に刊行された第7版であることから、本図はこの書物から抜き出されたものと思われます。

 ヘイリン死後の1703年に刊行された第7版で初めて登場する地図ですので、その製作者はヘイリンであることはあり得ません。しかし、上述のように作成についての情報が一切記されていないため、正確な作成者を特定することは困難なようです。同時代の出版人、特に地図を収録した出版物で著名なモーデン(Robert Morden, ? - 1703)とも言われていますが、むしろモル(Herman Moll, 1681 - 1732)によるものではないかとも思われます。いずれにせよ、モーデンとモルによる日本図はどちらもいわゆるマルティーニ・モレイラ型と呼ばれる形状の日本図を描いており、本図でも確かにマルティーニ・モレイラ型の系統に属する日本の輪郭を見ることができます。

 しかし、本図において特徴的なのは、現在の北海道にあたる地域の描き方で、これはモーデン、モルによる日本図とは全く異なるものです。北海道にあたる地域にはユーラシア大陸がせり出してきており、その北東に「オランダ東インド会社の島(States I.)が配置され、そのさらに北東、アラスカに近い地域に「蝦夷島(Island of Jeso)」が描かれています。この地域はその正確な地理情報の獲得が世界中でも最も遅れていた地域の一つですので、18世紀初頭にヨーロッパで作成された地図には様々な混乱を含んだ描き方が見られますが、本図のような描かれ方については、少なくとも店主は他に類例を見たことがありません。また、アジア図中の一部に日本が描かれている地図にしては、各都市についての情報が非常に豊富な点も特筆すべき点といえます。琵琶湖と淀川が直結して細長い湾のように描かれるなど、当時の典型的な誤りが見られるものの、京都(都、Meaco)、大坂(Osacca)、堺(Saccai)といった各都市の相対的な位置関係は比較的正確に描かれています。また平戸島(Firando I.)や五島(Gotto)、長崎(Nangasacque)といったイエズス会士によって早くから知られていた九州各地の情報もかなり正確なものと思われます。

 本図は、独立した日本図でないこと、またアジア図としてさえも、その希少性からかこれまであまり顧みられることがなかったものと思われますが、その特徴的な日本や北方海域の描き方については、ヨーロッパにおける日本図の系譜においてもユニークな地位を占める重要なものではないかと推察されます。