書籍目録

『日本への旅行者の最新ガイド』第34号

漫遊用達所南商会 / 南貞助

『日本への旅行者の最新ガイド』第34号

1917年(8月) 出版不明

T. Minami & Sons' Tourist Agency.

Tourist Compass Japan. Up-to-date Guide. REVISED SMI-ANNUALLY. No. 34.

(Aug.,)1917. <AB2018189>

Sold

10.8 cm x 18.2 cm, pp.[1-2], 3-72, folded colored map, 7 leaves (Advertisements), Original Card boards, bound in Japanese style, tied.

Information

喜賓会の設立と活動に尽力した南貞吉が設立した外客向け旅行会社「漫遊用達所南商会」が発行していた英文最新旅行情報

 この英文ガイドブックを作成した、漫遊用達所南商会とは、喜賓会の設立と運営に尽力した南貞助が立ち上げた民間の外客向け旅行業者で、現在の旅行業者の先駆けとなった存在です。南貞助は幕末高杉晋作の後押しを受けたイギリスに留学した経験をもち、外交部門の公職を歴任してから、再度渡英を果たし、ロンドンで日本語新聞を発行するなど、明治初期から国際的な活動を精力的に行なっていました。帰国後は、日本における最初の外客誘致団体喜賓会の設立に尽力し、運営実務の中心を担ったとされています。1903年に設立した商会の詳細な活動内容は明らかになっていませんが、本書のような英文ガイドや、地図、雑誌と知った出版物の発行も活発に行なっていたようです。

 本書は、来日した外国旅行者のために発行された英文日本ガイドで、その表題が示すように、通常のガイドブックよりも速報性に優れている点に特徴があります。本書は、1917年8月に発行された第34号にあたるものですが、半年に一回改訂を重ねるという、半ば雑誌に近い編集方針をとって、通常のガイドブックが急激な日本社会の変化についていけず、時代遅れになってしまいがちなのに対して、できるだけ最新の情報をアップデートしながら正確に伝えることを主眼に置いています。冒頭の序文は、1913年3月に第25号が発行された際に記したものを再掲していて、上述したような本書の独自性と強み、趣旨について簡潔説明されています。

 鉄道路線と敷設されている各駅を簡便に紹介することから始まっていて、東海道線、中山道線など、当時の鉄道路線と駅名、特徴と距離についての情報が掲載されています。具体的な都市の情報については、東京、横浜周辺に主眼が置かれていて、テキスト末部には東京周辺の折り込み彩色地図が収録されています。巻末は広告ページとなっていて、今で言うところのインバウンド需要に対応するホテルや商店、汽船会社、土産物店、写真展の広告などを見ることができます。

 南商会の活動内容や南貞助のこの分野に関わる多彩な活動については、その先駆性や重要性にも関わらず、あまりにも多くのことがわかっていないようです。本書のような出版物もその速報性を重視した作りのゆえか、現存するものがほとんどないようで、南商会の出版物の全貌を把握することも容易ではありません。その意味でも、本書のような残存する出版物から読み解けることは数多くあるのではないかと思われます。