書籍目録

『ビュッシング氏による地理学書の続編となるべくベレンガー氏によって書かれたアジア、アフリカ、アメリカの記述』第3巻

(ビュッシング) / ベレンガー

『ビュッシング氏による地理学書の続編となるべくベレンガー氏によって書かれたアジア、アフリカ、アメリカの記述』第3巻

イタリア語訳版 1786年 ナポリ刊

(Büsching, Anton Friedrich) / Bérenger, Jean-Pierre.

DESCRIZIONE DELL' ASIA, DELL' AFRICA E DELLA AMERICA, DA SERVIRE DI CONTINUAIONE ALLA GEOGRAFIA DEL SIGNOR BUSCHING, DI M. BERENGER. TRADUZIONE DAL FRANCESE, TOMO III.

Napoli, G.P. Merande e Compagni, M. DCC. LXXXVI.(1786). <AB2018150>

Sold

Italian edition.

8vo (12.0 cm x 20.0 cm), pp.[1(Half Title.)-3(Title.), 4], 5-188, 289(i.e.189), 190-400, 2 leaves(TAVOLA & AVVISO), Contemporary parchment.

Information

18世紀のイタリア語地理学大全の中で紹介された五畿七道をはじめとした日本地理

 本書は、イタリア語で刊行された地理学叢書の一部として1786年にナポリで刊行されたもので、中国、日本、朝鮮、琉球、日本、東南アジア諸島地域の地理情報を紹介するものです。タイトルにあるように、「ビュッシング氏」が書いた地理学書を元に、その続編となるべく「ベレンガー氏」がフランスで書いた文献を、イタリア語に翻訳したもの、というかなり複雑な書誌的背景を有していることが一つの特徴です。

 まず、タイトルにある「ビュッシング氏」とは、18世紀半ばから終わりにかけて活躍した当時のドイツを代表する地理学者の一人ビュッシング(Anton Friedrich Büsching, 1724 - 1793)のことであると思われます。ビュッシングは、歴史学、地理学に関する多くの書物、雑誌を刊行したことでよく知られており、特に1754年から1768年にかけて継続して刊行したヨーロッパ諸国を中心とした世界地理学叢書である『地球の記述(Erdebeschreibung)』は、当時のベストセラーとなり、何度も版を重ねただけでなく、英語、フランス語など多言語にも翻訳されています。本書のタイトルにある「ビュッシング氏の地理学書」とは、この『地球の記述』のことではないかと思われます。

 ですが、ビュッシングによる『地球の記述』には、最終第5部にアラビアなど現在の中東地域をアジアとして紹介しているものの、主としてヨーロッパ諸国を対象としており、日本を含む東アジア、東南アジア、アフリカ、アメリカなどは対象とされていなかったのではないかと思われます。そこで、ビュッシングの『地球の記述』をフランス語に翻訳した「ベレンガー氏」が、この部分を補うべくフランス語で独自に「続刊」を出していたことが推察されます。ビュッシングの『地球の記述』のフランス語版は複数種類が刊行されていますが、本書タイトルにあるベレンガーの名前を表記しているものは、1776年から1782年にかけてローザンヌで全12巻で刊行されたものが確認できます。このローザンヌ版を調べてみますと、第9巻以降が「続刊(suite)」として、アジア、アフリカ、アメリカを対象とする内容に当てられています。1782年に刊行された第9巻の内容は、本書の内容と酷似していることから、本書が底本としたのは、このローザンヌ版であると言うことができるでしょう。その意味で、「ベレンガー氏」(Jean-Pierre Bérenger, 1740 -1807)こそが、イタリア語版である本書の底本の直接的な著者ということができます。ベレンガーの経歴など詳細については分かっていませんが、本書のような地理、歴史書の出版に関わっていた人物のようで、本書の内容から見ても相当の学識を有していた人物であることが推察されます。

 本書の内容は、上述したように、中国、朝鮮、琉球、日本、現在の東南アジア諸地域の地理情報を紹介するものです。日本についての記述は161頁から230頁までとかなりの紙幅をさいています。基本的にはケンペル(Engelbert Kämpger, 1651 - 1716)を参照元としているものと思われます(ビュッシングはケンペル『日本誌』ドイツ語版出版の際に意見を求められた人物としても知られる)が、単なる地理情報だけでなく、日本の歴史、文化、統治機構についても紹介しており、コンパクトながらも日本に関する基本情報についてイタリア語読書に紹介する内容となっています。まず、日本の古代からの歴史の解説に始まり、源頼朝(Joritomo)による鎌倉幕府の成立、将軍(公方、Cubo-Sama)と天皇(帝、Mikkado)によるある種の二重統治の解説などがあり、将軍が江戸(Jedo)に居ることに対して、天皇は京都(都、Meaco)に居ることなどが述べられています。また釈迦(Xaca)の仏教伝来とその影響、諸派といった日本の信仰に関することも交えながら、キリスト教の伝来と廃絶に至った経緯についても紹介しています。

 地理情報については、五畿七道に沿って紹介されており、山城(Jamasiro)、大和(Jamatto)、河内(Kawadsi)、和泉(Idsumi)、摂津(Sitzu)の畿内それぞれの解説に続いて、東海道(Tokaido)、東山道(Tosando)、北陸道(Foku-Rokkudo)、山陰道(Sanindo)、山陽道(Sanjodo)、西海道(Saikaido)、南海道(Nankaido)の順に沿って、それぞれに所属する国々(諸藩)を一つ一つ解説しています。このように、本書における日本の紹介記事は、歴史学と地理学を合わせた内容となっていることが一つの特徴と言えます。

 本書は、その底本となったベレンガーによるフランス語ローザンヌ版も含め、これまで日本研究の文脈で研究された形跡がほとんどなく、また国内研究機関における所蔵も確認できないようです。

  • ハーフタイトルページ
  • タイトルページ
日本についての記事冒頭箇所。日本についての記述は161頁から230頁までとかなりの紙幅をさいている。歴史学と地理学を合わせた内容となっていることが一つの特徴。
五畿七道の紹介箇所冒頭。山城(Jamasiro)、大和(Jamatto)の解説部分。
東海道の紹介箇所冒頭。東海道(Tokaido)に所属する諸国(諸藩)を一つ一つ解説している。
  • 目次①中国、日本、朝鮮、琉球、日本、東南アジア諸島地域の地理情報を紹介する内容であることがわかる。
  • 目次②
  • 中国の記事冒頭箇所
  • 朝鮮の記事冒頭箇所
  • 琉球の記事冒頭箇所
  • フィリピンの記事冒頭箇所
刊行当時のものと思われる装丁で、本文中にスポット状のヤケが見られるが、状態は良好と言える。