書籍目録

『日本の街なみ風景:1907年用カレンダー』

長谷川武次郎 / (ちりめん本)

『日本の街なみ風景:1907年用カレンダー』

第2版 1906年 東京刊

長谷川武次郎

Japanese Street Scenes Calendar for 1907.

東京市, 明治卅八年二月廿日第一版発行 明治卅九年二月十日第二版印刷 同月廿日発行. <AB2018142>

Sold

13.8 cm x 19.8 cm, 14 folded crepe paper folded sheets including the covers (i.e. 28 pages), Crepe paper book, bound in Japanese style, silk tied.

Information

国内でも所蔵機関が極めて限られている貴重ちりめん本カレンダー

見開き部分、12ヶ月のテーマが記されている。

 ちりめん本とは、ちりめん布を模した柔らかい和紙に、欧文の日本昔噺を中心とした物語と、美しい挿絵を多色刷りで印刷した書物の総称で、主に明治期から昭和30年代ごろまで刊行されたものです。その美しい和紙の質感から海外ではCrepe paper booksと呼ばれています。ちりめん本の中でも特に有名な版元であったのが、長谷川武次郎による弘文社で、長谷川が刊行したちりめん本はその量、質において他社を圧倒していました。

 本書は、1907年のカレンダーとなるように作られたちりめん本で、1906(明治39年)に第2版として刊行されています。見開きごとにその月を題材にしたテーマの風景が美しく描かれる構成になっており、そのテーマは下記の通りです。

1月:新年の初日の出
2月:雪山訓練
3月:戦没者の招魂社での弔い
4月:学生の(ボート)競技
5月:農村のとある夕暮れ
6月:満州の沖合
7月:梅雨明け
8月:箱根の湖畔からの富士景色
9月:月明りの氷水(かき氷)屋
10月:霧の朝
11月:朝鮮の村での日本の旅人
12月:雨中の釣り

 日露戦争後という社会的雰囲気もあってか、やや戦争に関連した題材が多く見られる印象を受けます。

1月:新年の初日の出
2月:雪山訓練
3月:戦没者の招魂社での弔い
4月:学生の(ボート)競技
5月:農村のとある夕暮れ
6月:満州の沖合
7月:梅雨明け
8月:箱根の湖畔からの富士景色
9月:月明りの氷水(かき氷)屋
10月:霧の朝
11月:朝鮮の村での日本の旅人
12月:雨中の釣り

 ところで、このカレンダー仕立てになっているちりめん本、最近になって最注目されているちりめん本の中でも、最も研究が待たれるものと思われます。何しろざっとわかっている限りでも、この手の企画が始まった1895年頃から、最後期の1960年代の間に70前後のカレンダーちりめん本が刊行されていたようで、まだ確認されていないものも多数あると思われることから、その全貌を明らかにすることは容易ではありません。カレンダーという特性上、使い捨てられてしまうことが多かったり、発行部数が通常の書物仕立てのものよりもどうしても少なかったことが、その大きな要因と思われます。

 カレンダー仕立てのちりめん本を研究する上で、大変興味深い資料として、1906(明治39)年に出された長谷川のちりめん本『日本の愛すべき花々(The Favorite Flowers of Japan)』の第二版に掲載された、当時の長谷川によるちりめん本の一覧リストがあります。それによりますと、カレンダー仕立てのちりめん本だけでも、なんと18種類も作成されています。試みにざっと転記すると、下記の通りです。
(冒頭の数字は引用者が付け足したもの)(カッコ内は当時の$価格)
(邦訳は引用者による仮題)

CALENDERS IN BOOKFORM ON CRAPE PAPER. 
(本仕立てのちりめんカレンダー)

1) Japanese Street Scenes Calendar. (0.75) (日本の街頭風景カレンダー)
2) Calendar on Flower Cards. (0.50) (花札カレンダー)
3) The Months of Japanese Children. (0.35) (日本のこどもの12ヶ月)
4) Hairpin Calendar. (0.35) (髪留めカレンダー)
5) Calendar in Japanese Towels. (0.25) (手ぬぐいカレンダー)
6) Japanese Sceneries (4 x 5 1/4 inches). (0.25) (日本の風景 大)
7) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中)
8) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中2)
9) " " (2 x 2 1/2 " ). (0.15) (日本の風景 小)

HANGING CALENDARS.
(壁掛けカレンダー)

10) Japanese Ladies and Street Scenes. (1.25) (日本の婦人と街頭カレンダー)
11) The Favorite Flowers of Japan. (1.00) (日本の愛すべき花々)
12) Hokusai's Masterpieces. (0.50) (北斎傑作集)
13) Hiroshige's Masterpiece. (0.50) (広重傑作集)
14) Japanese Sceneries in "Kakemono". (0.50) (掛物仕立ての日本の風景)
15) The Silhouettes in "Kakemono". (0.45) (掛物仕立ての影絵)
16) Japanese Towels. (0.45) (手ぬぐい)
17) Wistaria. (0.25) (藤の花)
18) Pagoda. (0.20)  (仏塔)

 単に綴じられたものだけでなく、壁掛けのものや、内容も実に多彩であったことがわかります。7)と8)とは全く同じ大きさのようですので、同じ大きさで異なる絵のものがあった可能性もあります。北斎や広重といった長谷川好みのモチーフや、手ぬぐい型ものものあったようです。今回ご案内するものも、ちょうどこのカタログと同じ時期のものですので、これは1)に該当するものと思われます。
 
 カレンダーのちりめん本が最も活発に刊行された時期は、1890年代の半ばから1920年ごろまでと思われます。その後も1960年代の刊行年が確認できるものが現存することから、繰り返し作成されていたことが伺えますが、最も多くのヴァリエーションをもって刊行が行われたのは、概ね上記の時期であると推測されます。
 

裏表紙が奥付になっている。

 なお、ちりめん本の研究書で著名な石澤小枝子『ちりめん本のすべて』では、カレンダーのちりめん本について下記のように言及しています。

「カレンダーは他にも色々な種類のものを出している。西宮雄作氏に見せていただいたものでは、ご婦人のハンドバックに入るくらい小さく折り畳んだものもあった。一月の絵は五重の塔の先の避雷針のみで、それを一二月まで広げるとやっと塔の全景が現れるという仕組みのものや、同じ趣向で畳んであるものを全部開くと華厳の瀧になるものなど様々なものがあり、愛好を呼んだに違いない。武次郎の頃からあるものは、主に本の形のものが多いが、西宮与作の時代になると、岐阜提灯のような形のもの、簾のような形のものなど趣向を凝らしている。」

 ちなみに、このカレンダーと2019年は暦が同じとなるため、2019年用カレンダーとしても使うことができます。