書籍目録

『1934年 光琳カレンダー』

[ちりめん本]長谷川武次郎 

『1934年 光琳カレンダー』

1922(大正11)年 東京刊

Hasegawa, T(akejiro).

KORIN CALENDAR FOR 1934.

Kami Negishi, Tokyo, T(hasegawa). Hasegawa, 大正十一年二月十日印刷 同年同月二十日発行. <AB201726>

Sold

10.8 cm x 7.7 cm. Crepe paper book, 8 folded crepe paper folded sheets including the covers (i.e. 16 pages), Disbound.
綴じ紐が解けて欠落していますが、本体の状態は良好。綴じ直しをご希望の際は別途お申し付け下さい。

Information

2018年用としても使える?尾形光琳の作品をモチーフにした小型ちりめん本カレンダー

 本書は、尾形光琳の作品をモチーフにして日本の四季を綴った小型のちりめん本カレンダーです。

 ちりめん本とは、ちりめん布を模した柔らかい和紙に、欧文の日本昔噺を中心とした物語と、美しい挿絵を多色刷りで印刷した書物の総称で、主に明治期から昭和30年代ごろまで刊行されたものです。その美しい和紙の質感から海外ではCrepe paper booksと呼ばれています。ちりめん本の中でも特に有名な版元であったのが、長谷川武次郎による弘文社で、長谷川が刊行したちりめん本はその量、質において他社を圧倒していました。
 
 このちりめん本カレンダーは、武次郎の晩年に近い1934年用のカレンダーとして作成されたものですが、不思議なことに、奥付の刊行年には大正十一(1922)年発行とあります。この謎を解く鍵は、1923年と1934年の暦の巡りがちょうど同じになることにあります。つまり、最初は1923年のカレンダー用に1922年に作成されていたものを、全く暦が同じになる1934年のカレンダー用に流用すべく、おそらくタイトルの年表記だけを変更し、奥付は当初のまま変更されなかったものと思われます。ただし、管見の限りでは1923年用のちりめん本カレンダーとして、本書と同じものを確認できませんでしたので、ひょっとしたら何らかの事情で1923年用としては印刷されなかったのかもしれません。

 タイトルからすぐにわかるように、このカレンダーは尾形光琳の様々な作品をモチーフにしています。表紙を飾るのは有名な「八橋図」の部分で燕子花と橋が描かれています。一月は「紅白梅図」から白梅を、三月は見開きで「鶏図」、五月は「海上飛燕図」というように、それぞれの月の季節に合わせた光琳の作品をモチーフにして構成されています。光琳の作品を忠実に再現することよりも、小型のちりめん本の構図に合わせるように、大胆にデフォルメを施した上で誌面を構成している点に特徴があります。武次郎は、北斎や広重を好んでいたようで、彼らの作品をモチーフにしたちりめん本カレンダーも作成していた記録がありますが、尾形光琳の作品をモチーフにしたものは、ちりめん本に限らずほとんど知られていないものと思われます。ただし、光琳に限らず、燕子花など四季を特徴付ける画を用いて誌面を構成することには極めて鋭敏な感覚を持っていた武次郎ですので、光琳が取り上げられることに違和感はないでしょう。

 本書は、縦11センチ弱、横8センチ弱と小型の部類のちりめん本カレンダーとして書物仕立てに作成されたものですが、綴じ紐が解け欠落してしまっています。ですが、本体自体は大変良好な状態にありますので、綴じ紐を通し直すことで容易に修復が可能と思われます。

 なお、2018年は奇しくも1934年と暦の並びが全く同じですので、2018年用のカレンダーとしてもお使いいただけます。