書籍目録

『新旧日本』

長谷川武次郎

『新旧日本』

初版 1893年 東京刊

Hasegawa, T(akejiro).

JAPAN: Old & New.

Tokyo.(東京京橋区日吉町十番地), T. Hasegawa, 明治廿六年三月廿五日印刷 四月一日出版. <AB201853>

Sold

First edition.

12.4 cm x 18.3 cm, 14 leaves (including covers without page number), Original paper wrappers, bound in Japanese style, silk tied.
平紙本

Information

長谷川が世界市場に進出するきっかけとなったシカゴ万博のために特別に作成された美本

 本書は、ちりめん本の中でも特に有名な版元であった、長谷川武次郎がシカゴ万博(1893年開催)のために特別に作成したものです。長谷川はこの頃までにちりめん本の中で最も有名な日本昔噺シリーズの英語版の大部分を出版していましたが、それ以外の言語への翻訳版を精力的に出版することを決めるきっかけとなったのが、このシカゴ万博ではないかと言われています。

 シカゴ万博は、それまでの万博に勝る大規模な万博として開催された万博で、平等院鳳凰堂をモデルとした「鳳凰殿」を会場内に建築して日本が精力的に出品を競った万博としても知られています。本書は、この鳳凰殿に出品されていたと思われる、日本の歴史と文化を象徴する場面を表現した絵画、ないしは人形(life-like figures representing life in old and new Japan)を解説したものです。

 冒頭では展示の趣旨と簡単な解説があり、続いて12の章に分けて展示の解説がなされています。解説されているテーマは次の通りです。

1)神功皇后
2)胡蝶舞
3)義経と弁慶
4)小督局(こごうのつぼね)
5)徳川将軍
6)中世の日本
7)四十七士(赤穂浪士)
8)剣道
9)石橋(しゃっきょう)
10)日本の婚礼
11)祇園公園(円山公園)
12)新しい日本、人力車
 
 この展示そのものがどのようなものであったのかについては、店主は確認することができませんでしたが、展示の内容をよりよく理解できるように解説したテキストと、各場面を描いた図版とが見開きの2ページずつで解説されています。本文は白黒ではあるものの、かなり手の込んだ木版画が収録されているほか、表紙と見返しは非常に美しい多色木版画が採用されており、空押しやグラデーションを駆使した技巧に富んだ長谷川の技術力が遺憾なく発揮されています。この作品が好評を博したこともあってか、万博終了後に長谷川は英語だけでなく様々な言語のちりめん本を作成し、世界的な販売網を精力的に広げていくことになります。

 本書は、シカゴ万博のために特別に作成されたという経緯もあってか、発行部数が他の長谷川の出版物と比べても非常に少なかったようで、現存するものはごくわずかでしかないようです。国内の主要な研究機関にも所蔵がなく、Frederic A. SharfによるTakejiro Hasegawa(1994)において書誌のみが紹介されていることしか確認できません。

 なお、本書の見返しには、Souvenir From H. K. Tetsuka & Co.との押印があることから、当時シカゴで日本美術関係品を扱っていたと思われるTetsuka商会の万博記念土産物として配布されたことがわかります。このH.K.Tetsuka & Co.とは、Harry Kenichi Tetsukaという1885年にシカゴに移民として渡った日本の男性で、アメリカにおけるごく初期の白人女性との婚姻を結んだ人物としても知られており、シカゴ万博を契機に日本美術関係を扱う商店を開いています。

表紙は本文中で取り上げられる「石橋」を描いたものだが、本文中の絵とは異なる。技巧を凝らした印刷である。
見返し部分には、近代日本の象徴の一つであった人力車が描かれている。押印されているH.K.Tetsukaは、初期のシカゴ移民で白人女性と結婚した初期に日本人移民としても知られる。
展示の概要と趣旨を解説した序文。
1)神功皇后 各場面が見開き2ページずつで紹介されている。
2)胡蝶舞
3)義経と弁慶
4)小督局(こごうのつぼね)
裏表紙には富士山と菊が美しく描かれている。
長谷川出版物の中でも異色の存在といえるもので現存数は極めて少ないようである。