書籍目録

『日本の殉教者、ならびに日本におけるキリスト教の歴史』

ヴィルフランシュ (日本二十六聖人)

『日本の殉教者、ならびに日本におけるキリスト教の歴史』

独訳版 1862年 マインツ刊

Villefranche, J(Acques). M(Elchior).

Die japanesischen Martyrer, nebst einer Geschichte des Christenthumes in Japn, von seiner Einführung daselbst bis auf die Gegenwart.

Mainz, Franz Kirchheim, 1862. <AB201846>

Sold

First edition in German.

8vo (11.0 cm x 17.0 cm), pp. [I(Half Title)-III(Title), IV], VI-XII, [1], 2-96, Original paper wrappers.
旧蔵機関の蔵書印やラベルあり。表紙端部に破れあり。

Information

 本書は、100頁弱の小著ながら、日本へのカソリック伝道の歴史と数々の殉教事件についてコンパクトにまとめた良書で、いわゆる「二十六聖人」が列聖された1862年にドイツのマインツで刊行されたものです。著者のヴィルフランシュ(Jacques-Melchior Villefranche, 1829 - 1904)は、フランスの編集者、著作家で主にローマカソリック教会を擁護する立場から多くの著作を発表しています。本書は、「フランス語から翻訳された(Aus dem Französichen)」とあるように、同年にパリで刊行された著作(Les Martyrs du Japon. 1862)からドイツ語に翻訳されたものです。

 冒頭にはドイツ語版のために新たに用意された序文が掲載されており、1862年の列聖がいかに重要な意義を有しているのかをドイツ語圏の読者に改めて強調する内容となっています。本文は、全10章の構成で、ザビエル来航前のポルトガル人の日本への漂着とキリスト教との出会いの萌芽(第1章)から記述を始め、ザビエルの来航とキリスト教の広がり(第2章)、ザビエルの遺志を継いで行われた初期の伝道活動(第3章)、秀吉(Taico=Sama)によるキリスト教弾圧の始まり(第4章)、二十六聖人の殉教(第5章)と時系列に沿って日本におけるキリスト教史が説明されています。続いて、家康(Cubo=Sama)によるキリスト教の弾圧(第6章)が説明され、第7章では、オランダの来航とともに、「マグダレナ」の殉教について詳細に記述がなされています。この「マグダレナ」とは、1613年に有馬で殉教したレオ林田助右衛門の娘マグダレナのことで、女性殉教者の鑑として、ヨーロッパで17世紀から広くよく知られていた人物です。江戸幕府によって苛烈さを極めていくキリスト教弾圧(第8章)、島原の乱の発生と日本の鎖国体制の完成(第9章)までが、主に本文の主要な内容となっています。これらの記述には宣教師の報告書関係だけではなく、オランダ人からの報告も参照しているとあることから、著者ができるだけ複数の情報源から本書の記述を組み立てようとしていたことが伺えます。最後の第10章では、再びカソリック伝道の可能性が開かれつつある日本の将来について述べており、日本において新たな伝道活動と信徒の広がりが期待できることを述べて本書を結んでいます。

 著者のヴィルフランシュは、政教分離をめぐる議論が激しくなりつつあったフランスにおいて、カソリック擁護の立場から積極的に論陣を張った著作家として知られており、本書もそうした文脈もあって著されたものと思われますが、一方でできるだけ正確に日本におけるキリスト教史をコンパクトに描こうとしていることも伺えます。日仏双方の複雑な文脈下において描かれた日本のキリスト教史としても、本書は大変興味深い資料と言えるものでしょう。

タイトルページ。
ドイツ語版序文。
本文冒頭部分。
目次①
目次②
  • 表表紙
  • 裏表紙