書籍目録

『福者リチャード神父の徳に満ちた生とかりそめの死:日本で信仰に殉じたフランダース人の記録』

匿名(あるナミュールの神父F.S.B.)

『福者リチャード神父の徳に満ちた生とかりそめの死:日本で信仰に殉じたフランダース人の記録』

1867年 シャルルロア刊

Pere du convent de Namur, F. S. B.

HISTOIRE DE LA VIE VERTUEUSE & MORT PRETIEUSE DU BIENHEUREUX PERE F. RICHARD DE S. ANNE, RECOLLET DE LA PROVINCE DE FLANDRE, MARTYRISÉ POUR LA FOI DE JESUS-CHRIST AU JAPON, Tirée des dèpositious authentiques de ceux qui ont vêcu et conversé avec luy...

Charleroi, Vapeur de Georis-Gaubel, 1867. <AB201842>

Sold

12.3 cm x 18. 0cm, pp. [i(Title)-v], vi-viii, 1- 67, Plates: [2], Original paper wrappers.
タイトルページに旧蔵機関(シャルルロアのイエズス会文庫)の蔵書印あり。

Information

元和の大殉教で犠牲となったフランシスコ会士リチャードの列福を記念して刊行された評伝

 本書は、1622(元和8)年に起こったいわゆる元和の大殉教で犠牲となったリチャード(Richard Trouve of St. Ann, 1585 - 1622)の伝記で、1867年にピウス9世によって列福されたことを記念して、同年にベルギー南部の街シャルルロアで刊行されたものです。

 元和の大殉教は、長崎で55名が処刑された江戸時代初期を代表する大規模な殉教事件で、イエズス会をはじめとした外国人宣教師だけでなく、数多くの日本人信者も犠牲となりました。本書で描かれているリチャードは、ベルギー南部のアム=シュル=アール=ナランヌ出身のフランシスコ会士です。ローマで学んでいた際に日本で殉教したフランシスコ会士のことについて知り、そこから日本伝道を志したと言われています。リチャードは最初メキシコへと派遣され、そこからフィリピンへと渡りますが、神学の研究を深めるためにメキシコへに戻り、そこで1611年に司祭に任命されます。1613年に再びフィリピンに渡り、そこから日本へと派遣されますが、日本での禁教政策の激化を受けて1614年にフィリピンへの帰還を余儀なくされます。しかし、リチャードは危険を承知の上で日本への再渡航を望んで1617年に再入国を果たし、捕縛の手を逃れながら各地で4年余りも宣教活動を行いました。また、リチャードは、いわゆる「平山常陳船捕縛事件」で捕らえられていたドミニコ会のルイス・フローレス(Louis Florés, 1563? - 1622)とアウグスティノ会のズニガ(Pedro de Zuñiga, ? - 1622)の救出を企て、1620年10月に彼らが捕らえられていた牢へと侵入しますが、解放に失敗し自らも捕縛されそうになるところをすんでのところで逃れています。最終的にリチャードは1621年11月に捕らえられ長崎の牢へと送られたのち、1622年1622年9月、長崎の刑場で火刑に処されました。

 本書は、こうしたリチャードの伝記を比較的詳細にまとめた貴重な資料です。リチャードは、幼少期に狼に連れ去られ行方不明になる災難にあっていますが、その際に彼の母親が聖アンナに祈祷を捧げたところ、無事に戻ってくることができたという逸話があり、それに因んで彼は「聖アンナ」のリチャードと呼ばれています。本書は、こうした彼の幼少期の逸話(とその場面を描いた挿絵)から始まり、信仰に目覚め日本伝道を決意するまで、そして日本での数々の活動と殉教までを時系列に沿ってまとめられています。また、副題にあるように、彼自身が書き送った書簡(これには殉教直前の1622年9月1日に長崎で認められた書簡も含んでいます)や、彼と共に活動したフランシスコ会の日本遣外管区長ディエゴ(Diego de San Francisco, ? -?)が元和の大殉教について詳細にまとめた『日本殉教真相略記(Relación verdadera, y breve de la persecución, y martirios que padecieron por la confessión de nuestra santa fee catholica en Japón...Manila,1625)』からの抜粋と思われるリチャードに関する記事を収録しており、資料的な価値を高めています。さらに、巻末には彼を含む日本での殉教者の列福の経緯とその意義について説明した記事も収録されています。

 刊行地であるシャルルロアはベルギー南部の街で、リチャードの出身地にほど近かったことから、当地で刊行されたものと思われます。ただ、その発行部数は決して多くなかったようで、これまで本書の存在が研究において知られたことはなかったように見受けられます。国内外での所蔵機関がほとんど確認できないことからも、本書は大変貴重な文献と言えるものです。
 
 
 

タイトルページ。旧蔵機関(シャルルロアのイエズス会文庫)の蔵書印が見える。
本文冒頭。幼少期のリチャードが狼に連れ去られ行方不明になる場面を描いた挿絵がある。
リチャードが家計に処せられる殉教の場面を描いた挿絵も収録されている。
殉教直前に長崎からリチャードが発信したという書簡。
リチャードと共に活動したフランシスコ会の日本遣外管区長ディエゴ(Diego de San Francisco, ? -?)が元和の大殉教について詳細にまとめた『日本殉教真相略記(Relación verdadera, y breve de la persecución, y martirios que padecieron por la confessión de nuestra santa fee catholica en Japón...Manila,1625)』からの抜粋と思われるリチャードに関する記事。