書籍目録

『日本昔噺集第3巻:第13号〜第18号』

長谷川武次郎 / チェンバレン(訳) / ジェイムズ夫人(訳)

『日本昔噺集第3巻:第13号〜第18号』

6作品合冊(平紙本) 1889(明治22)年 東京刊

Hasegawa, Takejiro / Chamberlain, Basil Hall (tr.) / James, Kate (tr.).

JAPANESE FAIRY TALES. VOL. III (No. 13-18)

Tokyo, Kobunsha, 1889. <AB2023181>

Sold

6 works bound in 1 vol.

12.5 cm x 17.9 cm, bound in Japanese style, stored in a modern folded box
全体的に水じみが見られるが比較的良好な状態。第6話収録の仕掛け絵部分は折り込み部で切断されてしまっているが、紙葉は完備。

Information

「日本昔噺」シリーズ第13号から第18号の登場人物が一堂に介したユニークな表紙を採用した珍しい6作品合冊平紙本

 本書は、長谷川武次郎の手がけたちりめん本として最も有名な「日本昔噺」シリーズのうち、第13号から第18号までの6作品(「海月』『彦火々出見尊』『俵藤太』『鉢かづき』『竹篦太郎』『鬼ノ腕』)を1冊に合冊した平紙本です。後年による合冊ではなく、当初から長谷川によって合冊本として刊行されたもので、表紙には本書に収録されている6作品の登場人物が共演するという大変ユニークなオリジナルの意匠が採用されています。本書は第3巻(Vol.III)とされていることからも明らかなように、長谷川は本書と同じような「日本昔噺」シリーズの合冊平紙本として第1巻、第2巻も刊行していたことが伺えますが、店主は未だこれらを見たことがなく、この第3巻も滅多に見ることができない大変珍しいものではないかと思われます。

 なお、本書については、尾崎るみ氏による論文「長谷川武次郎のちりめん本出版活動の展開 :『欧文日本昔噺』シリーズが20冊に達するまで」において詳しく取り上げられており、同論文では本書そのものの製作背景や意図、「日本昔噺」シリーズ全体の出版過程といった極めて重要な事項が明らかにされており、本書のみならず長谷川武次郎によるちりめん本出版史の最新研究としても必読の論文です(同氏はこの論文のみならず長谷川武次郎の「日本昔噺」シリーズの研究を立て続けに発表されており、いずれも大変参考となる重要な論文ばかりです。詳細については、白百合女子大学児童文化研究センターの次のURL参照。https://www.shirayuri.ac.jp/childctr/treatise/index.html)

「奥付に「明治22年11月27 日出版」と印刷されているこの合本は、製本の際に各作品の表紙および裏表紙は削除されてしまっているものの、代わりに合本対象の作品に登場するキャラクターが一堂にまとめて描かれた特別な表紙を用いて和綴じされており、大変貴重なものと考えられる。
 1887(明治20)年末に発令された出版条例勅令77号によって出版物には「版権所有」と記すことが定められたが、この合本の見返しにもしっかり「版権所有」の文字が最上部に大きく印刷されている。」

「これら6作品はバジル・ホール・チェンバレン(Basil Hall Chamberlain, 1850-1935、以下、チェンバレン)とケイト・ジェイムズ(Kate James / Mrs. Thomas H. James; 生没年不詳、以 下、ジェイムズ夫人)のいずれかが英語の本文を担当している。ジェイムズ夫人は、 チェンバレンが彼女の夫をとおして知り合い、その文学的才能を認めた人物である(Sharf, 1994, p.48)。日本の文学や文化についての知識においては、チェンバレンがはるかに勝っていたと考えられることから、題材の選定や資料の選出は主にチェンバレンが行い、その指導の下でジェイムズ夫人は翻訳作業にあたった可能性も考えられる。そうすると、これら6作品が、『古事記』『日本書紀』『今昔物語集』『宇治拾遺物 語』『御伽草紙』といったさまざまな文献と関連を持ち、なおかつ江戸時代に草双紙などの形で広く流布していた話であることに納得がいく。」

「平紙本の『鬼ノ腕』では、羅生門で鬼と渡辺綱が対峙する場面に細工が施されており、折り畳まれた部分を上部に広げると屋根の上の鬼の脅威が増すように工夫されている。この仕掛けは、国際日本文化研究センターのちりめん本データベースではっきりと確認出来るが、平紙本に特有のものであり、紙質の異なる「縮緬紙」版においては、この仕掛けは省略されている。」

「武次郎はこの年(1889年:引用者註)の秋までに『欧文日本昔噺』シリーズを18冊までに増やし、6冊ごとの合本での販売や「縮緬紙」版でのギフト用箱入りセット販売をクリスマス商戦に 間に合わせるべく準備を開始したものと考えられる。第3期に刊行された6冊は、上述のとおり、関係性の深いチェンバレンとジェイムズ夫人の協力のもと、シリーズ拡充のためにさらに広い範囲から題材を求めて成立したといえるだろう。永濯が挿絵を担当したことが明らかなのは第18号『鬼ノ腕』のみであり、玉章や華邨などの絵師を新たに起用するという試みも積極的になされたことが分かる。」
(尾崎るみ「長谷川武次郎のちりめん本出版活動の展開 :『欧文日本昔噺』シリーズが20冊に達するまで」白百合女子大学『児童文化研究センター研究論文集25』2022年所収論文より)