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(彩色石版画) [1862年] [パリ刊?]
Unknown artist.
MARTYRS DU JAPON. 5 Février 1597. (No 105)
[Paris?], Pinot & Saqaire, [1862]. <AB2023166>
Reserved
29.8 cm x 44.4 cm, 1 hand colored large lithograph,
Information
美しい彩色が施されたこの石版画作品は、1597年2月15日に長崎の西坂の丘の上の刑場で26人のキリスト教信者が処刑されたいわゆる「日本二十六聖人殉教事件」の様子を描いたものです。この事件を主題とした銅版画や油彩画をはじめとした視覚芸術作品は、事件直後から数多く生み出されていますが、その多くは書物の挿絵として作成されており、独立した大型の彩色石版画である本図は非常にユニークで貴重な作品であると思われます。 1597年2月15日に長崎の西坂の丘の上の刑場で26人のキリスト教信者が処刑されたいわゆる「日本二十六聖人殉教事件」は、豊臣秀吉による大規模なキリスト教迫害事件として、当時在日していた宣教師ルイス・フロイス(Luís Fróis, 1532 - 1597)による報告によって、当時からヨーロッパで広く知られ、また衝撃を与えました。事件から30年後の1627年に、殉教者26人は福者としてウルヴァノ8世によって列福されたことで、この事件はその後もヨーロッパで長く記憶されることになり、様々な出版物が生み出されています。 その後、1858年に江戸幕府が西洋諸国との通商条約を結び、再び外交関係が開かれるようになった1862年、26人は時の教皇ピウス9世によって、聖人として列聖されることになり、この事件に対する再注目と出版物の増加を呼びました。開国後の日本には数多くの宣教師が再来日を試みており、カソリック、プロテスタント双方からの活動が活発化していきますが、再びヨーロッパ諸国に開かれた日本におけるかつて殉教事件が再注目されたのは、こうしたことも背景にあったのではないかと思われます。日本の殉教者の列聖は当時のヨーロッパで大きな反響を呼んだようで、関連する書籍が各国語で相当数に上る数が出版されています。こうした作品の多くは、事件の場面を(想像で)描いた挿絵を収録していることが多く、銅版画や石版画を用いた数多くの視覚作品が生み出されることによって、より多くの一般の人々に事件のことが伝えられることになりました。 本図もこうした1862年の列聖を大きな契機として作成数多くの視覚芸術作品の一つに数えられるものですが、縦約30センチ、横約45センチという大きさの用紙に印刷された石版画としても大型の彩色作品は非常に珍しいと思われます。図そのものは想像で描かれているため、当時のフランスで最も馴染みのあるアジアの人々であった中国の人々のように日本の人々が描かれていますが、処刑場面のディテールについては事件を報じた多くの資料にある程度基づいて描かれています。図の下部には事件の概要と本図が描いている場面の解説が記されており、日本で最初の迫害者である「太閤様」(Taicosanco)によって26人が長崎において処刑されたことや犠牲者の名前や所属、出身地などが記されています。また、ピウス9世によって列聖指式において発せられた演説(Oraison)の一説も記されています。本図は、タイトル上部に「105番」(No105)とあることから、何らかのシリーズ作品の一つだったのではないかと思われますが、その大きさに鑑みると書物の中に綴じ込まれるものではなく、独立した一連の版画作品であったと考えることができそうです。いずれにしても、これまでの「二十六聖人殉教事件」に関する研究や展示などでもほとんど紹介されたことがないと思われる、大変貴重で重要な彩色石版画作品と言えるでしょう。 「1861年12月23日、教皇ピオ9世は1597年の長崎の殉教者のうち、フランシスコ会関係の23名の列聖を許可する旨宣告し、翌年3月25日、イエズス会の3人の殉教者に対しても同様の宣言が行われた。次いで同年6月8日、26殉教者の列聖式がサン・ピエトロ大聖堂において挙行された。列聖式の模様は当時の出版物によって知りうるが、大聖堂内部は殉教のエピソードを描いた多数の絵で飾られていたという。日本のカトリックの歴史を通じて初めて聖人に列せられたこれら26殉教者に対する崇敬はこの機会に再びにわかに高まり、1852年だけでもローマ・ブレダ・パリ・リール・ルツェルン・マドリード・ヴァレンシア・マインツ・トゥールーズ・ダブリンなどで17種以上の書物が刊行された。」 (越宏一「美術における日本26殉教者:その作品カタログ」『国立西洋美術館年報』第8巻、1975年所収論文、21ページより)