書籍目録

『中国、日本、インド、ペルシャ、アラブ、トルコ、ギリシャ、アフリカ、ロシア、そしてアメリカの現代史:ローリン氏による古代史の続編としてマーシー氏によって書かれたフランス語著作最新版よりイタリア語に翻訳』

マーシー / (ローリン)

『中国、日本、インド、ペルシャ、アラブ、トルコ、ギリシャ、アフリカ、ロシア、そしてアメリカの現代史:ローリン氏による古代史の続編としてマーシー氏によって書かれたフランス語著作最新版よりイタリア語に翻訳』

イタリア語訳版 第1巻、第2巻(全12巻中) 1785年 ナポリ刊

Marcy(Marsy), François Marie de / (Rollin, Charles).

STORIA MODERNA DE’ CINESI, DE’ GIAPPONESI, Degl’ Indiani, de’ Persiani, degli Arabi, de’ Turchi, de’ Greci, degli Africani, de’ Russi, e degli Americani…

Napoli, Nuova Societa’ Letteraria e Tipografica, M.DCC.LXXXV.(1785). <AB2023155>

Sold

Edition in Italian. Vol.1 & 2 only (of 12 vols.)

2 vols. 8vo (11.5 cm x 18.4 cm), Vol.1: Half Title., Title., pp.1-290. / Vol.2: pp.[1(Half Title.)-3(Title.), 4], 5-320, Contemporary vellum.
刊行当時のものと思われる装丁で、一部虫食いなどが見られるもののテキストに欠損、欠落はなく概ね良好な状態。

Information

ケンペルら先行研究に基きつつ独自に展開されたユニークな日本論

 本書はこれまで、Cordierをはじめとする日本研究欧文文献目録でも全く言及されたことがない大変珍しい文献で、18世紀後半のイタリアで刊行された「中国・日本・アジア誌」ともいうべき資料です。全12巻の著作として刊行された作品のうちの第1巻、第2巻に相当するもので、第1巻では中国について論じられ、第2巻ではトンキン、コーチシナ、シャム、朝鮮など中国に隣接する諸地域の論考に続いて、その大半の紙幅を費やして日本について論じられています。

 本書の元となったのは、フランスの著作家マーシー(François Marie de Marsy, 1714 - 1763)が、1754年か20年余りの歳月をかけて刊行した、世界各国の歴史をまとめた全30巻からなる(マーシー自身が関与したのは最初の12巻のみ)『現代史:中国、日本、インド、ペルシア、トルコ、ロシアその他の歴史(Histoire moderne : des Chinois, des Japonnois, des Indiens, des Persans, des Turcs, des Russiens, &c. : pour servier de suite à l'Histoire ancienne de M. Rollin. )です。この作品は(本書のタイトルページでも明記されているように)、古代史研究で著名であったフランスの歴史家ローリン(Charles Rollin, 1661 - 1741)の主著に倣いながら、その対象地域をギリシャ、ローマに限定せずに世界各地に対象地域を広げ、なおかつ対象年代を現代にまで広げて、世界のあらゆる歴史を網羅的にまとめようとしようとした壮大な企画です。

 本書第2巻において展開されている日本論は下記のような全10章構成となっていて、ケンペルをはじめとした先行文献を用いながら、日本人起源論をはじめとした歴史にとどまらず、日本の文化、衣類、政治制度、地理的外観、道徳観、宗教観といったあらゆる側面についての叙述が見られます。

第1章:日本の人々の起源について(87ページ〜)
第2章:日本の古代の歴史とその輝かしき伝統について(97ページ〜)
第3章:日本の君主は二人の統治者において如何様に分割されているのか、公方あるいは世俗皇帝の起源について(104ページ〜)
第4章:日本の(地理的)概要(109ページ〜)
第5章:日本の市町村について(138ページ〜)
第6章:日本の公共、および私有の建築物について(155ページ〜)
第7章:日本における産出物(192ページ〜)
第8章:日本の統治形態について(237ページ〜)
第9章:日本の言語、芸術、諸科学について(270ページ〜)
第10章:日本の諸宗教について(286ページ〜317ページ)

 このように、本書第2巻はさながらイタリア語版「日本誌」といった趣で、18世紀後半のイタリア語圏の日本情報として相当に充実している部類に入る文献であることは間違いないと思われます。

 マーシーの著作は、ドイツ語に翻訳されたほか、類似の『世界史』企画としては、イギリス在野の歴史家サーモン(Thomas Salmon, 1679 – 1767)による大部の叢書『万国民の現代史(Modern History; or Present State of All Nations. 1724 – 1739.)』などがよく知られており、こうした企画は、18世紀の一つの流行であったと言えます。日本研究に関する欧文文献については、そのほとんどが書誌目録やこれまでの研究において何らかの言及がなされていますが、本書のように1冊の大半を日本に費やしていながら、これまで全く研究されていないと思われる文献は、非常に珍しく、本書が、いったい誰によって企画され、マーシーの著作を底本に翻訳するにあたってどのようなアレンジを加えているのか、また、中国や近隣のアジア諸国を扱う他の巻がどのような内容になっているのかも含め、これからの研究が待たれる大変興味深い作品です。

 なお、本書に非常によく似たイタリア語の著作として、1770年にバッサーノで刊行された『中国、日本、東インドならびにその他アジア諸国の歴史』(詳細は弊店HP紹介記事を参照。http://www.aobane.com/books/136)があり、おそらく同書は本書を底本として改訂を加えた作品ではないかと思われます。同書も含めて、これまでほとんど知られていなかった思われる、イタリア語圏で展開された独自の「普遍史」「万国史」において、日本がどのように記述されているのかというのは大変興味深い研究テーマと言えるでしょう。これらの作品は広く一般読者を対象としているだけに、19世紀以降のイタリア語における日本観の形成に与えた影響も少なからずあったのではないかと思われます。

刊行当時のものと思われる装丁で、一部虫食いなどが見られるもののテキストに欠損、欠落はなく概ね良好な状態。
第1巻タイトルページ。
序文冒頭箇所。
序文の執筆者、日付等の記載はない。
第1巻は中国論となっている。
中国の年代記を示した図。中国の「あまりにも古すぎる」歴史について多くの議論が17世紀から18世紀にかけて行われたことは、よく知られている。
目次は巻末に掲載されている。
第2巻
第2巻タイトルページ
第2巻の冒頭は中国に隣接する諸地域について論じられている。
トンキン
コーチシナ
朝鮮
第2巻の大半は日本についての記述に紙幅が割かれている。第1章:日本の人々の起源について(87ページ〜)
第2章:日本の古代の歴史とその輝かしき伝統について(97ページ〜)
第3章:日本の君主は二人の統治者において如何様に分割されているのか、公方あるいは世俗皇帝の起源について(104ページ〜)
第4章:日本の(地理的)概要(109ページ〜)
第5章:日本の市町村について(138ページ〜)
第6章:日本の公共、および私有の建築物について(155ページ〜)
第7章:日本における産出物(192ページ〜)
第8章:日本の統治形態について(237ページ〜)
第9章:日本の言語、芸術、諸科学について(270ページ〜)
第10章:日本の諸宗教について(286ページ〜317ページ)
第2巻末尾
第1巻と同じく目次は巻末に設けられている。
目次を見るだけでも、本書における日本についての記述が非常に詳しいことがよくわかる。