書籍目録

『世界の主権者たち:その家譜、大きさ、統治形態、宗教、歳入、権力、軍事力等々についての記述』

[フェルディナンド・ルートヴィヒ]

『世界の主権者たち:その家譜、大きさ、統治形態、宗教、歳入、権力、軍事力等々についての記述』

第4巻(全4巻中) 1720年  ヴェネツィア刊

[Bressler und Aschenburg, Ferdinand Ludwig von]

LI SOVRANI DEL MONDO. OPERA, che da notitia della Genealogia delle loro Famiglie, dell’ampiezza, e governo de’ loro Stati, della loro Religione, Entrate, Forze, ...TOME QUARTO.

Venezia(Venice), Sebastian Coleti / Gio. Malachin, MDCCXX.(1720). <AB2023153>

Sold

Vol.4 only (of 4 vols.)

12mo (8.5 cm x 15. 5 cm), Title., 1 leaf(Tavola), pp.1-314, 15 leaves(index), Contemporary parchment.

Information

「世界全王国一覧」とも呼ぶべき作品に掲載されたユニークな日本情報

 本書は全4巻で構成された作品の第4巻にあたるもので、第3巻まではヨーロッパの各国地域の生態やその歴史、地理などを扱っていましたが、この第4巻では、日本をはじめとしてトルコ、中国、シャムなどアジア各国、地域の政体やその歴史について論述されています。それほど長くない記述ながらも、参考文献を章末に掲載するなど、論拠の提示についても配慮がなされた学問的な作品で、ケンペル『日本誌』刊行以前のヨーロッパにおける標準的な日本観と情報源を垣間見ることができる興味深い1冊です。

 本書にはその著者名が明記されていませんが、その原著となったのは、フェルディナンド・ルートヴィヒ(Ferdinand Ludwig von Bressler und Aschenburg, 1681 - 1722)による『今日のヨーロッパにおけるキリスト教主権者たち』(Die Heutigen Christlichen Souverainen von Europe…Breßlau, 1698)ではないかと推定されています。この作品はそのタイトルが示す通りヨーロッパ各国を対象としたものでしたが、中東やアジアにまでその対象を拡張させて『世界の主権者たち』(Le Souverains du monde. 4 vols. Paris, 1718)と題したフランス語編訳版が全4巻構成で1718年に刊行されています。本書はおそらくこのフランス語編訳版を直接の底本としてイタリア語に翻訳したものではないかと思われます。ただし本書にはこうした経緯は全く記載されておらず、何らかの著作のイタリア語訳であることも明記されていません。その理由は定かではありませんが、原著やフランス語編訳版にはない各国の紋章を表現した木版画の挿入など、本書独自の要素が多々加えられているように見受けられることに鑑みると、ドイツ語原著やフランス語編訳版からは独立した個別の作品として刊行することが意図されていたのかもしれません。

 本書で対象とされているのは、現在の一部の東欧地域以東の国々で、トルコ、韃靼、ペルシャ、ムガール、シャム、中国、そして日本が扱われています。またアフリカについても本書の再後半部分で論じられています。その叙述構成はタイトルが示しているように、統治体制とその歴史に関する事項が中心となっていて、例えば日本を論じた章(160ページ〜)は、次のような構成となっています。

・日本の統治者の系譜(1550年頃以降の(当時の)近・現代史)
・日本の統治形態
・統治者の収入について
・日本の軍備状況について
・国家統治の原則(法)について
・日本の地理的区分について
・皇帝直轄の軍隊について
・日本の統治者の称号について
・日本の宗教について
・日本の住居について
・日本の大学について
・参考文献

 このうち、最も紙幅が割かれているのが、日本の統治者の系譜に関する最初の節で、概ね1550年代以降から1650年後半ごろまでの日本の歴史が比較的詳しく論じられています。日本とキリスト教の出会いや、オランダによる貿易といった、同時代の著作に多く見られるトピックにはほとんど言及することがなく、あくまでも統治形態とその歴史に関する記述に主眼が置かれていることが、本書の大きな特徴のように見受けられます。その一方で、章末に掲載されている参考文献を見る限りでは、著名なクラッセによる『日本教会史』をはじめとしたイエズス会士による著作を数多く参照していることが確認できます。ここでの日本に関する記述はこうした先行文献に負ったもので、それほど新しい情報はないかと思われますが、貿易や宗教といった主要トピックにあえてほとんど言及しないというユニークな著述は、本書独自のものではないかと思われます。本書には中国やシャムといった近隣アジア諸国についての章も収録されていることから、これらの記述と比較しながら日本に関する章を読み解くことで、さらに驚異深い発見を得ることができるかもしれません。