書籍目録

『最良かつ最も興味深い世界各地への航海と旅行記集成』第7巻(全17巻中)

ピンカートン(編)/ マルコ・ポーロ / カロン / ケンペルほか

『最良かつ最も興味深い世界各地への航海と旅行記集成』第7巻(全17巻中)

1811年 ロンドン刊

Pinkerton, John (ed.).

A GENERAL COLLECTION OF THE BEST AND MOST INTERESTING VOYAGES AND TRAVELS IN ALL PARTS OF THE WORLD; MANY OF WHICH ARE NOW FIRST TRANSLATED INTO ENGLISH. DIGESTED ON A NEW PLAN…VOLUME THE SEVENTH.

London, (Printed for) Longman, Hurst, Rees and others, 1811. <AB2023147>

Sold

Vol.11 only of 17 vols.

4to (21.2 cm x 26.9 cm), 1 leaf(blank), Front., Title., pp.[1], 2-342, 3(i.e.343), 344-821, 1 leaf(blank), Plates: [12], Contemporary leather, both covers detached and spine gone.
両表紙が本体から完全に外れてしまっており、背表紙の皮革も失われている状態だが、本体ブロック自体は良好な状態。小口は三方ともマーブル染めが施されている。[NCID: BA15791322(all 17 vols.)

Information

マルコ・ポーロ『東方見聞録』やカロン『日本大王国志』、ケンペル『日本誌』といった名著を編者独自の編纂と英語訳がなされた航海記集成

 本書は1808年から1814年にかけて全17巻構成で刊行された大部の旅行記、航海記集成シリーズのうち、1811年に刊行された第7巻にあたるもので、マルコ・ポーロをはじめとしたアジア各地への旅行記、航海記が多数収録されており、カロンやケンペルなど日本と非常に関わりの深い作品も掲載されています。著者のピンカートン(John Pinkerton, 1758 - 1826)は、18世紀後半から19世紀初めにかけて多方面において活躍したスコットランドの地理学者、地図制作者、著作家、古物蒐集家で、非常に多くの著作を残したことで知られています。ピンカートンによる地図帳には日本図(Japan: drawn under the direction of Mr. Pinkerton by L. Hebert, 1809)も含まれていることからも分かるように、日本や中国といったアジア諸国への強い関心を有していたことでも知られる著作家です。

 本書はピンカートンによる非常に大部の旅行記、航海集成の第7巻で、主にアジア方面への旅行記と航海記を取り扱っています。ピンカートンによるこの旅行記・航海記集成は、ハクルートをはじめとした既存の航海記・旅行記作品を当時の現代的な観点から種々の関連資料を駆使しつつ、改めて英語に編訳して収録した企画で、そのタイトルで謳われているように、本書において初めて英語で紹介された作品も少なくありません。また、マルコ・ポーロのような大航海時代以前の古い旅行記も多く収録しつつ、大航海時代以降の現代に至るまでの(刊行当時)最新の航海記を収録していることが大きな特徴の一つです。したがって、アジアへの旅行記・航海記を集めたこの第7巻では、西洋社会とアジア各地との長年にわたる交流史を概観できるような内容となっています。

 本書の前半は主に、大航海時代以前の中世になされた陸路によるアジア旅行記を収録しており、たとえばマルコ・ポーロのいわゆる『東方見聞録』(pp.101-)は、同書の校訂版として評価の高いラムージオ版(イタリア語)からの英訳を基本としつつ、その他の資料についても随所で参照して編纂されています。よく知られているように、この作品は日本について言及した西洋最古の文献の一つで、いわゆる「Zipangu」についての記述は159ページに掲載されています。
 
 231ページからは、大航海時代以降の航海記、主にオランダ、イギリスを中心としたアジアへの航海記が収録されており、ニューホフのオランダ『東インド会社遣清紀行』の英訳からはじめられています。また、ジョン・ベル(John Bell, 1691 - 1780)による1715年から1718年にかけてのロシアから中国への旅行記(pp.271-)(Travels from St. Petersburg, In Russia to diverse parts of Asia. 2 vols. Glasgow, 1763)や、ヘンドリック・ハメルの『朝鮮幽囚記』(フランス語訳版からの英語訳)(pp.517-)など、興味深い作品が読みやすい英語訳となって掲載されています。日本との関わりで特に興味深いのは、ハメルの『朝鮮幽囚記』で、これはオランダの貿易船の船長で1653年に日本へ向かう途上で朝鮮半島に漂着してから13年にわたって同地での滞在を余儀なくされた後に、1666年に日本へと脱走して幕府との交渉の末に帰国を果たした、ハメル(Hendrick Hamel, 1630 - 1692)が刊行した著作の抄録英語訳です。この書物は1668年に最初にオランダ語で出版され、朝鮮の内情を長年にわたって実見したヨーロッパ人による最初の書物となっただけでなく、朝鮮を脱走してからたどり着いた鎖国下における日本での出来事についても詳細に記しているという点で、日本関係欧文図書として看過し得ない重要な価値を有しているものです。
 
 本書がさらに日本関係欧文図書として興味深いのは、オランダ東インド会社によって日本に派遣されたハーゲナルの著名な『東インド航海記』と、カロンの『日本大王国志』(pp.607-)や、ケンペル『日本誌』補遺に収録されているハーン(Nathanael Hearne)の「日本日記」(1673年6月29日記)(pp.641-)、そしてケンペル『日本誌』(pp.652-821)の抄録版が掲載されていることです。このうちカロン『日本大王国志』は既に1663年に英語訳版が刊行されていますが、本書はこれをそのまま踏襲するのではなく、ピンカートンによって独自に再構成が施されています。ピンカートンは『日本大王国志』オランダ語原著を参照しつつも、ヴァレニウスの『日本伝聞記』(ラテン語)に基づいて編纂を行なった旨を述べており、どちらかというと『日本伝聞記』の抄録のような内容となっています。また、カロン『日本大王国志』は、もともとカロンの上司に当たるハーゲナルの日本を含む『東インド航海記』の付録としてオランダ語で最初に刊行された(1645年)作品ですが、カロンの『日本大王国志』がすでに英訳版が刊行されていたのに対して、ハーゲナルのアジア渡航記はそれまで英語訳がなされていなかったことに鑑みると、本書の記事はピンカートンによる独自の手が加えられた抄録版とはいえ、非常に貴重な英文テキストであると思われます。
 また、ケンペル『日本誌』とその付録については、当初から英語で刊行された著作ですが、これらもピンカートンによって独自に編纂が施されて抄録の形で掲載されており、原著とは異なるユニークな構成となっています。
 
 本書に収録されているこれらの日本関係記事は、その底本となったいずれの原著も非常によく知られたものとはいえ、本書刊行の時点で非常に希少であったり高額であったため、一般の読者が入手することが非常に難しくなっており、ピンカートンが独自の視点で編纂し、当時の現代的な英語に翻訳するという、いわば「古典」のリバイバルを行う形で、豊かな日本情報をより多くの読者に伝えたということの意味が決して小さくなかったものと思われます。その意味でも日本関係欧文図書として再評価なされるべき重要な作品であると言えるでしょう。

両表紙が本体から完全に外れてしまっており、背表紙の皮革も失われている状態だが、本体ブロック自体は良好な状態。
1808年から1814年にかけて全17巻構成で刊行された大部の旅行記、航海記集成シリーズのうち、1811年に刊行された第7巻にあたる。
本書の前半は主に、大航海時代以前のの中世紀の陸路によるアジア旅行記を収録している。
マルコ・ポーロのいわゆる『東方見聞録』(pp.101-)は、同書の校訂版として評価の高いラムージオ版(イタリア語)からの英訳を基本としつつ、その他の資料についても随所で参照して編纂されている。
いわゆる「Zipangu」についての記述は159ページに掲載されている。
231ページからは、大航海時代以降の航海記、主にオランダ、イギリスを中心としたアジアへの航海記が収録されており、ニューホフのオランダ東インド会社遣清紀行の英訳からはじめられている。
ジョン・ベル(John Bell, 1691 - 1780)による1715年から1718年にかけてのロシアから中国への旅行記(pp.271-)
オランダの貿易船の船長で1653年に日本へ向かう途上で朝鮮半島に漂着してから13年にわたって同地での滞在を余儀なくされた後に、1666年に日本へと脱走して幕府との交渉の末に帰国を果たした、ハメル(Hendrick Hamel, 1630 - 1692)による『朝鮮幽囚記』。
この作品は1668年に最初にオランダ語で出版され、朝鮮の内情を長年にわたって実見したヨーロッパ人による最初の書物となっただけでなく、朝鮮を脱走してからたどり着いた鎖国下における日本での出来事についても詳細に記している。
オランダ東インド会社によって日本に派遣されたハーゲナルの著名な『東インド航海記』
本来はハーゲナル『東インド航海記』の付録として刊行されたカロン『日本大王国志』は、同書を大いに参照したヴァレニウス『日本伝聞記』に拠りながら編纂されている。
ケンペル『日本誌』補遺に収録されているハーン(Nathanael Hearne)の日本日記(1673年6月29日記)(pp.641-)
ケンペル『日本誌』抄録(pp.652-821)
本文末尾。
小口は三方ともマーブル染めが施されている。