書籍目録

『経済事典:あるいはアルファベット順に配列された、国家、都市、家庭の、そして農業の一般体系:第29巻(JanからJnfまで)』(項目「日本」収録)

クリューニッツ

『経済事典:あるいはアルファベット順に配列された、国家、都市、家庭の、そして農業の一般体系:第29巻(JanからJnfまで)』(項目「日本」収録)

第29巻のみ(全242巻中) 1783年 ベルリン刊

Krünitz, Johann Georg.

Oekonomische Encyklopädie, oder allgemeines System der Staats-Stadt=haus= u. Landwirtschaft, in alphabetischer Ordnung;…Neun und zwanzigster Theil, von Jan bis Jef.

Berlin, Joachim Pauli, 1783. <AB202088>

¥110,000

vol. 29 only (of 242 vols.)

8vo (11.7 cm x 19.5 cm), Front., Title., pp.[1], 2-787, folded plates: [14], Original card boards.
タイトルページに旧蔵機関による押印と鉛筆による書き入れあり。

Information

18世紀後半のドイツ語圏を代表する「百科事典」に収録された長大な「日本」「イエズス会」関係記事

 本書は、1773年から1858年にかけて全242巻という膨大な分量で刊行された百科事典のうち、「日本(Japan)」についての記事を収録した第29巻にあたるものです。この壮大な事典を企画したのは、クリューニッツ(ohann Georg Krünitz, 1728 - 1796)という科学者、薬剤師で、この『経済学辞典』は、企画当初はフランス語事典のドイツ語訳として構想されていたものが、独自記事の追加や編集を施すうちに原書を質量ともにおいて遥かに上回る作品となったものです。経済学辞典とありますが、現代語の感覚で想像されるような経済事象に関係する事象のみを取り上げるのではなく、実質的には「百科全書」と呼ぶべき内容で、ありとあらゆる事象が取り上げられています。クリューニッツ自身は第72巻までを完成させた時点で亡くなり、その後複数の著者が編纂を引き継いで、最終的には刊行開始から85年が経った1858年に第242巻で完結しました。

 第29巻である本書は、JanからJnfで始まる項目を収録したもので、「日本(Japan)」についての記事が88頁から掲載されています。この日本記事は、事典の1項目の記事とは思えないほど非常に充実したもので、様々な先行文献を駆使しながら80頁近く(165頁まで)の紙幅を割いて掲載されています。日本の地理的位置(近隣諸国との位置関係含む)、本州(Nipon oder Nifon)、九州(Ximo)、四国(Xicoko, Xicocoff)といった主要諸島とその大きさ、内裏(Dairo)の住む京(Miaco)、公方の住む江戸(Jedo, Jeddo, Jedum, Jendo, Yedo, Yeddo, Yendo)などの主要都市とその特徴、日本の歴史、人々の特徴、住居、習慣などが詳しく紹介されています。そして何より「経済事典」の名に相応しく、日本における実に多彩な生産物を具体的に一つ一つの名を挙げながら解説しています。また、ヨーロッパ諸国との交易の歴史についても触れられいて、日蘭貿易の起源と現状についても解説されています。記事末尾には主要参考文献が一覧で掲載されており、ケンペル『日本誌』各国語版はもちろんのこと、イギリス王立科学協会紀要論文や、モンタヌス、ツンベルク、シャルルボワなど多くの日本研究欧文資料が本項目執筆のために用いられたことがわかります。さらに、『経済事典』の他の巻に掲載されている(される予定含む)日本関連項目も挙げられています。本書巻末には14枚の折込図版が収録されていますが、図版1は、日本の貨幣(小判ほか)を描いたもので、ケンペルやツンベルクの著作を参考に作成されたものではないかと思われます。

 また、こうした日本関係記事に続いて、本書には「イエズス会」という項目の記事も収録されています(330ページ〜)。本書が刊行される10年前にイエズス会はクレメンス14世の勅書によって解散を命じられていることから、本書においてどのような記事が展開されているのかというのは非常に興味深く、本書のもう一つの重要な収録記事となっています。「イエズス会」という項目の記事はおよそ50ページ近くにわたって掲載されており、イエズス会の創立からの歴史概観、海外宣教の勢力的な展開、各国における状況などが記されているようです。当時のドイツ語圏を代表する百科事典において展開されているこの記事は、当時のイエズス会に対する一つの見解を示すまとまった記事として注目すべき内容ではないかと思われます。

 18世紀後半のドイツ語圏を代表する「百科事典」となった『経済事典』に収録された日本記事は、日本にそれほど関心を有していない読書にも広く読まれたと思われることから、その意味では日本だけを扱った書物よりも広範な影響力を持ったのではないかと思われます。本書に収録された日本記事は、啓蒙思想が劇的に展開していく時期のドイツ語圏において紹介された日本記事として、大変興味深いものと言えるでしょう。

刊行当時のものと思われる厚紙装丁
口絵。牧師で作家(特に農業経済関係に明るかったとされる)でもあったゲルメルスハウゼン(Christian Friedrich Germershausen, 1725 - 1810)が描かれている。
タイトルページ。
日本記事冒頭箇所。事典の1項目とは思えない分量で記事の質も高い。
記事末尾には参照文献が数多く挙げられている。
上掲続き。
他巻で扱われている(扱われる予定含む)Japan以外の日本に関連する項目の参照指示もある。事典全体で多くの日本記事を収録しているようである。
330ページからは「イエズス会」という項目の記事が掲載されており、本書刊行当時は解散を命じられていた同会に対する見解として興味深い。
「イエズス会」の記事はおよそ50ページ近くにわたっている。
末尾には14枚の折込図版が収録されており、そのうちの第1番目が日本の貨幣を描いたものとなっている。