書籍目録

『日本の「生存圏」確保のための戦い』

パルヴィス

『日本の「生存圏」確保のための戦い』

(機密につき)非売版 / 著者直筆献辞 1942年(8月) トリノ刊

Parvis, E. G.

IL GIAPPONE ALLA CONQUISTA DEL "SUO SPAZIO VITALE "

Torino, Antonio viretto, (Agosto) 1942. <AB2018213>

Sold

(Fuori Commercio)

16. 5 cm x 23. 5cm, Title, pp. 1-22, Original paper wrappers.

Information

イタリア国家ファシスト党研究機関による日本の太平洋戦争の分析とプロパガンダ

 本書は、太平洋戦争開戦直後の日本の戦況をイタリアのファシスト機関がどのように分析し、広報していたかを知るための大変重要な資料です。ムッソリーニによる国家ファシスト党(Partito Nationale Fascista, PNF)は、言うまでもなくドイツ、イタリア、日本の間で1940年に締結された日独伊三国間条約の、イタリアにおける政治的主体でしたが、彼らが実質的に運営していたファシスト文化王立研究所(Istituto nazionale di cultura fascista)は、ファシスト党のプロパガンダ機関、そして実際的な戦況分析機関として活動していました。本書は、この研究所によって開催された会議でなされた報告を、関係者の配布のみを目的として非売版として出版したものです。

 タイトルからわかるように、1940年にいわゆる三国同盟を結成した日本が開始した太平洋戦争の意義を「生存圏(Suo Spazio Vitale)」をキーワードにして分析したものです。アメリカ、イギリスを中心としたアングロサクソン国によるアジア侵略の不当な歴史を概観し、恒久的な平和をもたらすために日本が立ち上がったとして、開戦の意義を高く評価しています。もちろん、こうしたプロパガンダ的な言説だけでなく、実際的な戦局の行方を分析しており、特に、特にビルマからインドにかけての覇権を日本が獲得することでイギリスの長年にわたる支配を打破することになるであろうことを予測しており、この地域の戦局に高い関心を持っていたことが伺えます。日独伊による軍事共同作戦は、実質的にほとんど行われませんでしたが、数少ない実例がインド洋における共同作戦であったことに鑑みるとこれは大変興味深いことです。

 著者のパルヴィス(E. G. Parvis)についての詳しいことは分かりませんが、1920年代末から30年代にかけて政治関係の論考を数点発行していたようですので、恐らくそうした前歴をもとに、PNFの関与が増していくファシスト文化王立研究所で要職を得ていたものではないかと思われます。

 本書は、非売(Fuori Commercio)と表紙にあるように、ごく限られた関係者だけに配布することを目的しており、タイプうちのような非常に簡素な印刷によって作成されています。表紙にはパルヴィスによる直筆献辞があり、関係者にパルヴィスが直接送ったものであることがわかります。ごく簡便な小冊子で、非売版であったことから、このような印刷物は、現在ほとんど残っていないものと思われますが、日独伊三国同盟締結後のイタリアファシスト党が、日本の太平洋戦争開戦直後の進展をどのように捉えていたかを物語る大変需要な資料と言えるものでしょう。

タイトルページ。
表紙上部にある著者パルヴィスの直筆献辞。
テキスト冒頭。タイプ打ちのような簡素な印刷である。
テキスト末尾。ファシスト文化王立研究所(Istituto nazionale di cultura fascista)による会議で報告されたものであることが記されている。押印されているW. DIRK VON LANGENについては不明。