書籍目録

『日本浮世絵師』第1巻(第一分冊)

ぴえる・ばるぶと(バルブトー) / 織田萬(序文)

『日本浮世絵師』第1巻(第一分冊)

(未完) 1914年 パリ刊

Barboutau, Pierre /

Les Peintres Poplulaires du Japon. Tome I.

Paris, Ches l'Auteur, MCMXIV(1914). <AB2023036>

Sold

Large 4to (27.0 cm x 25.8 cm), Title., pp.[VII], VIII-XX, pp.[1], 2-40, Original pictorial paper cover
図版は未収録。印刷当時の折丁未開封、未製本のままの状態。

Information

浮世絵に生涯をかけたバルブトー最晩年の未完に終わった幻の作品

ただいま解題準備中です。今しばらくお待ちくださいませ。

「ベージュ地の表紙には、鳳凰や雲、桐が銀泥で描かれ、赤茶色の文字で、欧文タイトルとバルブトーの印章と共に、左端に縦書きで、「日本浮世絵師 ぴえる ばるぶと」という表記が見られる。印章の「石」は Pierre(フランス語普通名詞で「石」を表す)を、「馬」は Barboutau の”B"を表しているのだろう。」

「全2巻を予定されていたこの出版物は、フランス国立図書館所蔵版においても、筆者が別に参照した版においても、本文が文章の途中で唐突に終わっている。それに続く部分が刊行された痕跡は今のところ見つからない。」

「無冠無名のオリエンタリストが生涯をかけて制作を試みた『日本浮世絵師』という書物には、未完作品の持つ寂寥感がある。かけている図版とともに、この書物の情報部分、つまり「第二分冊」「第三分冊」のテキストとなるはずであった原稿が見つかることを期待したい。「第一分冊」の密度の高い内容から推し量って、この書物は単なる日本語文献のフランス語訳ではなく、一介の東洋美術品「蒐集家」から本格的な「オリエンタリスト」へと変貌をとげるバルブトーの人生の集大成がかかっていたからである。1893年の『日本旅行関連美術品コレクション明細目録』に記載されているようなジャンルを問わない東洋美術品の蒐集から始まり、『ラ・フォンテーヌ寓話選』『フロリアン寓話選』などのハイブリッド挿絵本のプロデュース、その間に培ったであろう挿絵木版についてのノウハウ、長い年月を費やした日本語文献の翻訳、度重なるコレクション売立てによる『日本浮世絵師』刊行のための原資の獲得、これらすべてをベースにして著者は、浮世絵師に焦点をあてて、とくに絵本に着目し、欧米人の美学や視点を極力排しつつ、日本語資料の紹介に徹した編集方針を貫いている。さらに木版挿絵(本書には収録されていない:引用者注)に関しては、わざわざパリから京都まで二度も足を運んでいる。この書物は、「蒐集家」バルブトーにとってはコレクションを昇華させた高次のドキュメンテーションとして、そして「オリエンタリスト」バルブトーにとっては、本格派「オリエンタリスト」として名前を残すためにも、生涯をかけた作品であったことは間違いない。著者には、格別の財力があったわけではない。門閥、学閥、派閥といったバックグラウンドがあったわけでもない。『日本浮世絵師』は、日本の美術(アート)を愛した庶民階層出身の無冠のフランス人が、日本の「ポップ・アーティスト」たち、つまり浮世絵師たちに捧げようとした精一杯のオマージュとなるはずの仕事であった。」
(高山晶『ピエール・バルブトー:知られざるオリエンタリスト』慶應義塾大学出版会、2008年、第5章「未完の著作『日本浮世絵師』と著者の死」より)