書籍目録

『“JAPANESE EXHIBITION” CATALOGUE.(「日本博覧会」目録)』(ちりめん本)

ウィリアムス(文) / 伊藤挙雲(画)

『“JAPANESE EXHIBITION” CATALOGUE.(「日本博覧会」目録)』(ちりめん本)

1896(明治29)年(4月) 東京(山本富蔵)刊

<AB2022254>

Sold

Oblong (18.3 cm x 22.5 cm), 48 folded crepe paper leaves(including covers), Original pictorial crepe paper covers. Bound in Japanese style, tied.
最終十数葉に茶シミが見られるが、それ以外は良好な状態。

Information

多くの謎に包まれた異色の大型ちりめん本

 この非常に大きなちりめん本は、『「日本博覧会」目録』と題されていることから、何らかの博覧会の出展品の解題を兼ねた目録作品と思われるもので、日本各地の風景や人々が美しく描かれた非常に見応えのある作品です。奥付けの出版年には明治29年4月とあり、この前後に日本で開催された博覧会といえば、前年明治28年に京都で開催された第4回内国勧業博覧会がすぐに思い浮かびますが、本書が同博覧会に関係するものかどうかは、今のところ店主には不明です。

 本書は縦18センチ強、横23センチ弱の横長に仕立てられた、ちりめん本としてはかなり大判の作品で、また分量も48葉で構成されているという、あらゆるちりめん本の中でも大作と呼べるボリュームを誇っています。本書を手がけたのは、ちりめん本で著名な長谷川武次郎ではなく、山本富蔵という人物で「茂美商店」(同店の様子が本文冒頭に描かれている)を営んでいたこと以外の経歴はよくわかりません。山本富蔵は日清戦争関係の錦絵を手がけてもいたようですが、ちりめん本の作品としては本書の他に確認することができず、一体どうやってこれだけ大部のちりめん本を出版することができたのかも不明という点で非常に謎の多い作品です。

 奥付に著者として記載されているのは「米国人、ルイ、ウィリアムス」で、Louis Wiliams という綴りであると推測されますが、本書では後掲するように日本のさまざまな事柄について記されていますので、日本について相当の知識と豊富な滞在経験を有する人物であったと思われます。また、画工としては、明治前期に活躍したことが記録されている伊藤峯雲の名が記されており、本書の随所で彼の落款を見ることができます。

 本文では、タイトルにもあるように「日本博覧会」の出品展示が主題ごとに分類されて解説テキストを添えて掲載されています。下記のような分類のもとに1047項目が記載されており、挿絵は概ねこの項目と符合する主題を描いたものとなっています。

 (括弧内の番号は本文で各項目に割り振られている番号)

・横浜(1-8)*解説テキスト(以下テキスト)あり
・新旧のミカド(天皇)の住まいとその周辺(11-20)*テキストあり
・先の戦争(日清戦争)における大本営(25-27)
・東京:新しい首都(30-50)
・京都:古の首都(56-69)
・東京の代表的な寺院(76-99)
・京都の代表的な寺院(101-135)
・日光:「美の極み」(141-175)*テキストあり
・奈良(181-198)*テキストあり
・長崎の代表的な寺院(201-206)*テキストあり
・兵庫の代表的な寺院(211-213)*テキストあり
・鎌倉の代表的な寺院(216-221)*テキストあり
・宮島という聖なる島(222-225)*テキストあり
・大阪の代表的な島(226, 227)*テキストあり
・長崎(231-249)*テキストあり
・神戸(251-272)*テキストあり
・大阪(273-276)*テキストあり
・日本の海(瀬戸内海)(280-328)*テキストあり
・庭園と公園(331-382)*テキストあり
・桜花(384-416)*テキストあり
・藤(ウィスタリア)(421-427)
・秋紅葉(431-440)*テキストあり
・アヤメ(アイリス)(444-456)
・雪(458-464)
・大地震(468-474)*テキストあり
・日本の代表的な城郭(476-483)*テキストあり
・竹(486-489)*テキストあり
・菊花(491, 492)
・聖なる蓮(496-504)
・牡丹(506-508)
・女性の暮らし(511-531)
・日本の衣装(532-569)*テキストあり
・去り行きし日々(571-578)*テキストあり
・旅(580-592)*テキストあり
・野外での楽しみ(595-620)*テキストあり
・屋内(の事物や催事)(621-653)*テキストあり
・「ゲイシャ」(655-673)*テキストあり
・街頭の風景(681-705)*テキストあり
・日本の人種(708-725)*テキストあり
・郊外の風景(731-783)
・日本のこども(784-796)*テキストあり
・レスラー(力士)(799-807)*テキストあり
・「聖職者」(811-826)*テキストあり
・フジ・サン(富士山)(831-871)*テキストあり
・日本各地の美景(873-947)
・日本の主要な川と湖(951-1031)*テキストあり
・その他の寺院(1031-1047)

 そもそも本書で解説されている出展品がどのようなものであったのかが、店主には不明ではありますが、日本を各地の風景や歴史、文化、宗教、年間行事などといった様々な角度から紹介しようという意図がはっきりと見て取れる内容で、そのテキストに添えられた挿絵も優れたもののように思われます。本書は、ちりめん本としては異色とも言えるこれだけ大部の作品でありながらも、これまでほとんど知られることすらなかった作品ではないかと思われ、その主題、作者、絵師、出版人のいすれの詳細も未解明な点が多く謎の多い作品のため、今後の研究、解明が待たれるちりめん本作品と言えるでしょう。