書籍目録

『イエズス会士の活動を通じて、インドや異国の島々における多くの人々が神の善意によって信仰への回心と導かれたという驚くべき、称賛すべき出来事を伝える書簡集』『イエズス会の起源』『誹謗中傷に対するイエズス会の擁護:教皇ピウス4世の書簡より』

ルトガー・ヴェルピウス(編)/ パイーヴァ

『イエズス会士の活動を通じて、インドや異国の島々における多くの人々が神の善意によって信仰への回心と導かれたという驚くべき、称賛すべき出来事を伝える書簡集』『イエズス会の起源』『誹謗中傷に対するイエズス会の擁護:教皇ピウス4世の書簡より』

(3作品合冊)初版 1566年 ルーヴェン刊

Velpius, Rutger (ed.) / Payva, Iacobo.

IESVS. EPISTOLÆ INDICÆ DE STVPENDIS ET PRÆCLARIS REBVS, quas diuina bonitas in India, & variis Insulis per Societatem nominis IESV operari dignata est,… / DE SOCIETATIS IESV ORIGINE, LIBELLVS. / SOCIETATIS IESV DEFENSIO ADVERSVS OBTRECTAtores, ...

Lovanii(Leunen), Rutgerum Velpium(Rutger Velpius), 1566. <AB2022242>

Sold

First edition.

3 works bound in 1 vol. 8vo (9.1 cm x 15.1 cm), Title., 12 leaves, pp.1-388, 983(i.e.389), 390-496. / Title. of 2nd work, 39 leaves. / Title. of 3rd work, 4 leaves, 10 leaves(index), 1 leaf(errata & printer’s device), Modern brown full leather.
タイトルページはじめ一部の紙葉の端部に補修跡があるが、比較的近年の改装、補修がなされており、良好な状態。 [Laures: JL-1566-KB1-128-59]

Information

イエズス会士の書簡に基づきつつも独自の編纂がなされた最初期の日本情報を多数含むインド書簡集

 本書は1566年という非常に早い時期に刊行された作品で、ザビエル以降の東インド宣教に赴いた宣教師たちが各地から送った書簡(報告書)が数多く綴られています。インド宣教報告集としては最初期の作品と見なすことができる著作で、ザビエル自身による書簡をはじめとして、少なくない日本への言及箇所を確認することができる、日本研究欧文資料としても極めて重要な作品です。

 この作品を刊行したのは、ベルギーを代表する古くからの大学街であるルーヴェンで当時活躍していた出版社、編集人ヴェルピウス(Rutger Velpius, c1540 - 1614 or 1615)です。ヴェルピウスはのちにブリュッセルの宮廷付き出版社として同時代を代表する出版人へと成長を遂げることになる人物として知られていますが、本書は彼が手がけた初期の作品で彼がブリュッセルに進出する以前の活動拠点としていたルーヴァンで刊行されています。現在も大学街として知られるルーヴァンはフランドル地方を代表する大学都市で、特に同地における対抗宗教改革の拠点としてカトリック神学に関する書物が多数刊行された街でもありました。同地には対抗宗教改革のうねりの中で大きな役割を果たしつつあったイエズス会士の海外宣教に関する情報もいち早く集められていたようで、ヴェルピウスはこうしたルーヴァンという街の特徴を最大限に活用して、本書を編纂、刊行したものと考えられます。

 本書は1冊の中に3作品が合冊されており、『イエズス会士の活動を通じて、インドや異国の島々における多くの人々が神の善意によって信仰への回心と導かれたという驚くべき、称賛すべき出来事を伝える書簡集』と題された、いわゆる「インド書簡集」が最初の作品として大部分(1-496ページまで)を占めています。この作品に続いて、『イエズス会の起源』と『誹謗中傷に対するイエズス会の擁護:教皇ピウス4世の書簡より』という、イエズス会を積極的に擁護する趣旨の2つの短編が合わせて約50葉ほどの紙幅を割いて掲載されています。このような本書の構成から見ても分かるように、ヴェルピウスはイエズス会の海外宣教を非常に肯定的に捉え、世に対してイエズス会の意義を喧伝する強い意志をもって本書を刊行したものと思われますが、当のイエズス会の許可を得ずに出版した作品だったようで、イエズス会からは誤謬の多さや編者による追記、改変が多数見られるとして厳しく非難されたと言われています。とはいえ本書は当時の読者にとっては非常に魅力的な作品だったようで、イエズス会が本書の出版差し止めを求めたとまで言われているにも関わらず、同年中に異刷が刊行されているほか、1570年代にも再版がなされるなど当時多くの読者の人気を獲得しました。

 日本関係欧文図書として本書が興味深いのは、1566年という日本とヨーロッパとの本格的な交流が始まってからまだ20年余りしか経っていない時期に、数多くの日本関係記事が収録されている点にあります。本書には日本発だけでなく、ゴアやコーチンといった東インド各地から発せられた宣教報告(書簡)が掲載されており、これらの書簡中にも随所に日本への言及が見られます。また、来日後には日本における宣教活動において大きな役割を果たすことになるルイス・フロイスの来日前のゴア滞在時の書簡も収録されているなど、間接的にも興味深い記事が多数含まれています。

 直接的な日本関係記事として特に興味深いのは、1553年1月29日付のザビエルの書簡(p.160-)と、日本とそこに住む人々についての概説的な報告書となっている書簡(差出人不明、p.175-)です。中でも、後者の「日本概論」とも見なすことができる報告は、西洋における最初期の日本全体についてのまとまった論考で、当時の西洋における日本観がどのようなものであったのかをうかがい知ることができる大変興味深い記事となっています。ここで綴られている内容は、ザビエルの日本報告や、ザビエル来日のきっかけとなった鹿児島出身の「アンジロー」(パウロ)への聞き取りをもとにした既存の報告書の内容を反映しているものと思われますが、日本の名称や、西洋との交流の起点、地理、気候、人々の様子など、さまざまな視点から日本について論じられていることから、当時の日本観の一例を示す貴重な記事として重要であることに加えて、当時日本情報が極めて限られていた西洋社会において、この記事が同時代、後年の日本観の形成に与えた影響を考察するという点においても興味深い作品であると言えるでしょう。

 なお、本書に極めて批判的な評価を下していたと言われているイエズス会は、本書に代わる公式の「インド報告集」となるような作品として、1570年以降はマッフェイ(Giovanni Pietro Maffei, 1536? - 1603)による『東洋におけるイエズス会の歴史』や、通称『コインブラ版』と呼ばれる大部の公式書簡集を矢継ぎ早に刊行しています。その意味では、イエズス会自身によるインド宣教報告の積極的な出版を促すきっかけとなった作品としても、本書は歴史的な役割を果たしたと見なすことができるでしょう。

比較的近年の改装、補修がなされており、良好な状態。
『イエズス会士の活動を通じて、インドや異国の島々における多くの人々が神の善意によって信仰への回心と導かれたという驚くべき、称賛すべき出来事を伝える書簡集』と題された、いわゆる「インド書簡集」が最初の作品として大部分(1-496ページまで)を占めている。
『イエズス会の起源』と題された2番目の作品。以降はページ付がなされていない。
『誹謗中傷に対するイエズス会の擁護:教皇ピウス4世の書簡より』と題された3番目の作品。
巻末には索引が設けられている。
当時のヴェルピウスの出版物に掲げられていたデバイス(社章)が巻末にも掲載されている。