書籍目録

『日本の小唄』

ブラムホール / [鈴木華邨]

『日本の小唄』

(ちりめん本)初版後刷? 1891年 東京刊

Bramhall, Mae St. John / [Suzuki, Kwason]

JAPANESE JINGLES.

東京(Tokyo), 長谷川武次郎(Hasegawa, Takejiro), 明治二十四年二月廿一日印刷、同年三月二日印刷(1891). <AB2022123>

Sold

First ed., later issue?

13.2 cm x 17.0 cm, 32 folded crape paper leaves (including covers), Original crape paper books, bound in Japanese style, silk tied, stored in plain card folder.
表紙の一部に破れ、傷み、綴じ紐に緩みが見られるが、概ね良好な状態。

Information

鈴木華邨が手がけたとされる貴重な初版本

 本書は比較的大判でボリュームのあるちりめん本で、アメリカの著者ブラムホールによって書かれた25の詩歌(目次上は23点だが、実際の収録内容を確認すると25点)が収録されています。本書収録のこれらの詩歌は、日本の詩歌から取られたとされていますが、それぞれがどの作品から採られたものかについては明記されていません。本書では、絵師についての情報は記されていませんが、梅花女子大学所蔵本には「鈴木華邨」と明記されている(石澤小枝子『ちりめん本のすべて』三弥井書店、2004年、124, XVページ)とのことで、鈴木華邨による作品であることがわかっています。ブラムホールによる詩歌とそれに呼応した美しい挿絵が特徴的な作品で、挿絵というよりもほとんど絵が主体の作品になっているかのような印象を受けます。

 本書は翌1892年(明治25年)に『Second edition』と明記された再版が早くも刊行されていますが、テキストは基本的に同一ながらも、絵は全く異なる絵師によって改められていて、構図等は諸般を踏襲しているとはいえ初版とは異なる作品となっています。この第2版については上述の石澤氏によって酷評されていますが、その評価はさておき、初版本と第2版本は似て非なる作品となっていることは確かです。

 初版本である本書は、国内大学図書館等やコレクターにに所蔵されている各本を調べてみますと、微妙に異なる異刷が存在しているようで、少なくとも下記の4つの異なる刷が存在すると考えられます。

①初版初刷?(石澤氏が調査した梅花女子大学本)
・見返しに総代理店(Sole Agents)として「Kelly & Walsh Ld.」との記載がある。
・『JAPANESE JINGLES』というタイトルや『JAPAN GAZETTE』既出の詩が一部含まれていることを記した表題紙がある。
・絵師「鈴木華邨」の名が明記されている。

②初版第二刷?(George Baxley紹介本 http://www.baxleystamps.com/litho/hasegawa/jp_jingles1.shtml )
・①と同様に見返しに総代理店(Sole Agents)として「Kelly & Walsh Ld.」との記載がある。
・①と同様に『JAPANESE JINGLES』というタイトルや『JAPAN GAZETTE』既出の詩が一部含まれていることを記した表題紙がある。
・絵師「鈴木華邨」の名が明記されていない。

③初版第三刷?(京都外国語大学本 https://www.kufs.ac.jp/toshokan/gallery/chirimenbon/chirimen05/chirimen05.html )
・①②にみられるような、見返しに総代理店(Sole Agents)として「Kelly & Walsh Ld.」との記載がなく、中央に[Copyright applied for ] とのみ表記されている。
・①②と同様に『JAPANESE JINGLES』というタイトルや『JAPAN GAZETTE』既出の詩が一部含まれていることを記した表題紙がある。
・絵師「鈴木華邨」の名が明記されていない。

④初版第四刷?(本書)
・①②にみられるような、見返しに総代理店(Sole Agents)として「Kelly & Walsh Ld.」との記載がなく、中央に[Copyright applied for ] とのみ表記されている。
・①②③にみられるような、『JAPANESE JINGLES』というタイトルや『JAPAN GAZETTE』既出の詩が一部含まれていることを記した表題紙がなく、目次(CONTENTS.)から始まっている。
・絵師「鈴木華邨」の名が明記されていない。

 1891年の1年間にどうしてこれだけの異刷が生み出されることになったのか、またなぜ早くも翌年に全く絵師を変えた第2版が出されることになったのか、等々本書の書誌的変遷とその背景事情については謎がつきませんが、それだけ好評を博した作品であったということは確かでしょう。本書は、上記のうち最も後刷に当たるものではないかと思われるものですが、本書最大の魅力である絵自体は①〜④まで全て同一となっています。に見開き前面を大胆に用いながら、四季折々の場面を繊細で美しい筆致で描いた、長谷川ちりめん本の名作の一つに数えられる作品と言えるでしょう。


「これもやや大判の、しぼの細かい「ちりめん本」である。「ちりめん本」の中では『かぐや姫』に次ぐ分厚いもので60ページ以上もある。
 目次があってそれで見ると23の歌が掲載されているが、もとの歌は記されていないので、すべてが日本の歌からの翻訳であるかどうかは確証がない。いくつかの歌には translated from the japanese と付記されているが、読んだ印象では、大半は自作の詩ではないかと思われる。詩によってソネットあり、長歌あり、長さも形式も異なるが一応、脚韻はふんでいる。
 全体的にセンチメンタルで You come too late sweetheart などのように慨嘆調のものが多い。ラストの詩は Mizpha というのだが Mizpha my darling, my sweet little heart と呼び掛けているから、おそらく日本の娘の名のだろう。これも日本を去るにあたっての愛惜の詩である。
 初版にも2版以後のものにも奥付けに Sole Agents for The Sale of This Work, Kelly & Walsh, Ld. Yokohama, Shanghai, Hong Kong, Singapore とあり総代理店としての名が印刷されている。
 初版と後の版では、絵と文字の配りにかなりの変更があり、総じて初版の方が品格があり丁寧である。特に人物の描き方に相違が見られる。初版には絵師の華邨の名や、印刷者として廣瀬安七の名があるが、再販以降には記録がなく誰が描きなおしたのか分からない。1893年の版には著者ブラムホールによる献辞 To Mr. and Mrs. James F. Hibberd, my beloved Uncle and Aunt, This Volume is affectionately dedicated. と署名があるのだが、そのページの絵は実に稚拙でこれが武次郎の目を通ったものなのかと疑うほどだ。
 他にもこれを華邨の絵と言ってほしくない粗雑な絵が数点以上ある。(中略)
 ブラムホールは夫妻で1890年頃、横浜の山手(Bluff)にいたようで、夫人は当時横浜で出ていた英字新聞 Japan Gazette. にしばしば寄稿している。長谷川弘文社とは Kelly & Walsh を通じてつながったと思われる。いくつかの詩には for the little folks of Japan とか、for the little people of Japan と付記されているから、日本の子どもに語りかけたかったのだろう。」
(石澤前掲書、124, 125ページより)