書籍目録

『日本遣欧使節記』

グアルティエーリ

『日本遣欧使節記』

再版  1895年 スキーオ刊

Gualtieri, Guido.

RELATIONI DELLA VENUTA DE GLI AMBASCIATORI GIAPONESI A ROMA, SINO ALLA PARTITA DI LISBONA, CON UNA DESCRITTIONE DEL LOR PASSE, E COSTUMI, E CON LE ACCOGLIENZE FATTE LORO DA TUTTI I PRINCIPI CHRISTIANI, PER DOVE SONO PASSATI.

Schio (Venetia(Venice)), Prem. Stab. Tipo-Lit. A Vapore di L. Marin (Appresso I Gioliti), 1895(M. D. LXXXVI. (1586)). <AB2022122>

Sold

New ed.(Schio XXV Luglio MDCCCXCV. RICORDO DELLA SACRA ORDINAZIONE TENUTA DA SUA ECCLELLENZA REVERENDISSIMA MONS. ANTONIO DOTT. FERUGLIO VESCOVO CI VICENZA.)

27.5 cm x 37.5 cm, 1 leaf, pp.[1-3(Title.)-9], 10-62, Original pictorial paper wrappers.
カバーが本体から外れかけているものの、概ね良好な状態。

Information

天正遣欧使節についての第一級資料のこれまでほとんど知られていなかった1895年再版本

 本書は、天正遣欧使節の出発から、リスボンを発ち帰国の途に着くまでの様子を纏めたもので、1586年にローマとヴェネツィアで刊行されたグアルティエーリ(Guid Gualtieri, 1560-1636)の『日本遣欧使節記』を1895年に再版したものです。グアルティエーリは、教皇シクストゥス5世に仕えた文人で、滞欧中の使節と直接親しく接することができる立場にありました。こうした立場を生かして著された『日本遣欧使節記』は、天正遣欧使節のヨーロッパ歴訪に際して刊行された夥しい数の出版物の中で最も包括的で正確な内容を備えているとして高く評価されています。
 1895年に再販された本書は、もともと全15章構成であったのを全16章構成として若干構成を変えつつも、基本的には1596年版を忠実に翻刻しているようです。初めの2章では、日本についての概論と使節の目的が論じられていて、ヨーロッパ人から見た日本論としても興味深い内容となっています。また、原著第15章で展開されていた、ヨーロッパ各地で関心の的となった使節一行の衣装の様子をはじめ、使節が好んだ飲食物や用いる言語、使節の心身の諸特徴の記述もここに収録されています。第3章から第16章においては、使節の具体的な動向について詳細な記述が展開されており、臨場感に満ちた筆致は、使節と実際に親しく接し話を聞くことのできた著者ならではのものとして非常によく読まれました。イタリア語で刊行された本書は、当時から広く読まれ、スペイン語、ドイツ語などに翻訳されただけでなく、後年にヨーロッパで刊行された様々な書物に影響を与えたことでも知られています。
 本書は原著刊行から300年以上を経て1895年に再販されたという非常に珍しい版で、厳しい禁教政策を経て再び開国した日本に対する西洋の関心が高まり、日本が国際社会においても存在感を増しつつあったことを背景に、かつての日本宣教の輝かしい成果の象徴であった日本使節に関するグアルティエーリの作品を再版することの意義が説かれています。本書が刊行されたスキーオという地は、天正遣欧使節が訪れたヴェネチアに程近いヴィチェンツァにある街で、ヴィチェンツァのオリンピア劇場には使節が描かれた壁画が現存していることでも知られている使節と非常に縁の深い街です。ヴィチェンツァにおいて、フェルグリオ(Antonio Fergulio, 1841 - 1911)が叙階されることになった際に記念行事が計画されたことをきっかけに、同地とゆかりの深い天正遣欧使節のことを記したグアルティエーリの原著が再発見され、フェルグリオのヴィチェンツァにおける叙階を記念するにふさわしい作品として、また近年目覚ましい発展を遂げている日本と同地の深い関係を改めて想起するために、本書が刊行された旨が序文において記されています。
 天正遣欧使節は禁教化の日本においては全く忘却されていましたが、開国後に明治政府によって急速な再評価が進められ、グアルティーリの『日本遣欧使節記』も木下杢太郎による優れた邦訳『日本遣欧使節記』(1933年)が行われ、『大日本史料:第11編別巻(天正遣欧使節関係史料)』(1959年)においても邦訳が掲載されています。
 本書は、このように日欧双方において天正遣欧使節に対する関心が高まっていた時期に再版されたという当時の空気を象徴するような作品ですが、グアルティエーリの『日本遣欧使節記』が300年以上を経て再版されていたことは、これまでほとんど知られてこなかったものと思われ、国内で所蔵している研究機関は皆無のようです。