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「『法の精神』のフランス語の初版は1748年刊行された。翌年に1749年にも別の版が刊行され、いちはやく1750年に英語版が出ている。その後フランス語版と英語版共に、数多く版を重ねて行った。意外にもこの本には日本への言及がかなり多い。モンテスキューがどのような理由で日本に関心を抱き、日本の刑罰や宗教などに言及したのかを完全に明らかにすることは困難であるが、一つ確かなことは、1748年当時フランスやイギリスではエンゲルベルト・ケンペル(Engelbert Kaempfer)という人物が著した『日本誌』(The History of Japan)(1727)が非常に良く読まれていたことである。ケンペルは、1690年に長崎オランダ商館の医師として来日したドイツ人である。モンテスキューはケンペルの『日本誌』を入手し、日本について極めて正確な情報を得ることができたのである。また、モンテスキューは『法の精神』を書くために、Recueil des Voiages qui ont servi à L’établissement & aux Progres de la Compagnie des Indes Orientales(『東インド会社関係旅行記集』)(1703-7)に収載されている日本の記録を利用しており、この中に、日本に関する史料としてはケンペルの『日本誌』と同じほど価値が高いとはいえないが、いちはやく17世紀に日本を紹介したことで知られるフランソワ・カロン(François Caron)の記録や、ライエル・ハイスベルツ(Reyer Gysbertsz)によるキリシタン迫害の記録、コンラート・クラーメル(Coenraet Krammer)、レオナルト・カンペン(Leonart Campen)の貿易論などが含まれている。」
「『法の精神』の中で、日本を扱っている箇所は次のとおりである。
1. 第6巻第13章(Liv. VI, Chap. XIII)(Impuissance des Loix Japonoises.)(日本の法律の無力さ)
2. 第6巻第18章(Liv. VI, Chap. XVIII)(Des Peines pécuniaires & des Peines corporelles.)(金銭刑と身体刑とについて)
3. 第12巻第14章(Liv. XII, Chap. XVI)(Violation de la pudeur dans la punition des crimes.)(罪の処罰における羞恥心の陵辱)
4. 第13巻第11章(Liv. XIII, Chap. XI)(Des Peines Fiscales)(税制上の刑罰について)
5. 第14巻第15章(Liv. XIV, Chap. XV)(De la différente confiance que les Loix ont dans le peuple, selon les climats.)(諸々の風土に応じて諸法律が人民に対してもつ信頼の差異について)
6. 第16巻第4章(Liv. XVI, Chap. IV)(Que la Loi de la polygamie est une affaire de calcul.)(一夫多妻制について、その様々な事情)
7. 第16巻第10章(Liv. XVI, Chap. X)(Principe de la Morale del’Orient)(東方の道徳原理)
8. 第16巻第11章(Liv. XVI, Chap. XI)(De la Servitude domestique, indépendante de la polygamie.)(多妻制とは別の家内隷従について)
9. 第17巻第3章(Liv. XVII, Chap. III)(Du climat de l’Asie.)(アジアの風土について)
10. 第18巻第5章(Liv. XVII, Chap. V)(Des peuples des Illes.)(島の人民について)
11. 第18巻第18章(Liv. XVII, Chap.XVIII)(Force de la superstition.)(迷信の力)
12. 第19巻第4章(Liv. XIX, Chap. IV)(Ce que c’est que l’esprit général.)(一般精神というもの)
13. 第19巻第10章(Liv. XIX, Chap. X)(Du caractère des Espagnols, & de celui des Chinois.)(イスパニア人の性格及び中国人の性格について)
14. 第20巻第8章(Liv. XX, Chap. VIII)(De l’ exclusion en fait de Commerce.)(商業に関する排除について)
15. 第20巻第13章(Liv. XX, Chap. XIII)(Des Loix de Commerce qui emportent la confiscation des marchandises.)(商品の没収をもたらす商事の法律について)
16. 第20巻第21章(Liv. XX, Chap. XXI)(A quelles nation il est désavantageux de faire le commerce.)(いかなる国民にとって商業を営むことが不利であるか)
17. 第23巻第5章(Liv. XXIII, Chap. V)(Des divers ordres de Femmes légitimes.)(正妻の種々の順位について)
18. 第23巻第12章(Liv. XXIII, Chap. XII)(Du nombre des filles & Garçons, dans différens Pays.)(種々の国における女子と男子の数について)
19. 第23巻第13章(Liv. XIII, Chap. XIII)(Des Ports de mer.)(海港について)
20. 第24巻第14章(Liv. XXIV, Chap. XIV)(Comment la force de la religion s’applique á celle des Loix Civiles.)(宗教の力は公民の法律の力にいかに適用されるか)
21. 第24巻第16章(Liv. XXIV, Chap. XVI)(Comment les Loix de la Religion corrigent les inconveniens de la constitution politique.)(宗教の法律は国制の不都合をいかに矯正するか)
22. 第24巻第19章(Liv. XXIV, Chap. XIX)(Que c’est moins la vérité ou la fausseté d’un dogme, qui le rend utile ou pernicieux aux hommes dans l’Etat civil, qui l’usage ou l’abus que l’on en fait.)(ある教義を公民状態における人間にとって有益または有害なものとするのは、協議の審議よりむしろそれについてなされる利用または誤用であること)
23. 第25巻第2章(Liv. XXV, Chap. II)(Du motif d’attachement pour les diverses Religions.)(さまざまな宗教に対する愛着の動機について)
24. 第25巻第3章(Liv. XXV, Chap. III)(Des Temples.)(神殿について)
25. 第25巻第12章(Liv. XXV, Chap. XII)(Des Loix Pénales.)(刑事の法律について)
26. 第25巻第13章(Liv. XXV, Chap. XIII)(Trés-humble remontrance aux Inquisiteurs d’Espagne & de Portugal.)(イスパニア及びポルトガルの宗教裁判官に対する極めて謙虚な建言)
27. 第25巻第14章(Liv. XXV, Chap. XIV)(Pourquoi la Religion Chrétienne est si odieuse au Japon.)(キリスト教が日本であれほど憎まれるのはなぜか)
28. 第25巻第15章(Liv. XXV, Chap. XV)(De la Propagation de la Religion.)(宗教の普及について)」
(島田孝右「モンテスキュー著『法の精神』と日本」『専修商学論集』第84巻、2007年所収論文、165-167ページより)