書籍目録

『京都とその近隣府県の公式ガイドブック:遷都千百年記念祭典、ならびに第4回内国勧業博覧会開催を祝して』

京都市参事会

『京都とその近隣府県の公式ガイドブック:遷都千百年記念祭典、ならびに第4回内国勧業博覧会開催を祝して』

初刷? 1895年(3月印刷、4月発行) 奈良刊

The City Council of Kyoto.

THE OFFICIAL GUIDE-BOOK TO KYOTO AND THE ALLIED PREFECTURES: PREPARED SPECIALLY FOR THE ELEVEN HUNDREDTH ANNIVERSARY OF THE FOUNDING OF KYOTO AND THE FOURTH NATIONAL INDUSTRIAL EXHIBITION.

Nara, Meishinsha, 1895 (April). <AB2022115>

Sold

First impression.

10.5 cm x 15.8 cm, Title., 2 leaves, pp.[1], 2-220, (Some double pages)plates: [45], folded map: [1] / 5 leaves(advertisements), 1 brown leaf(blank), 1 leaf, folded map, pp.1-54, 1 leaf, pp.55-105, 1 leaf(colophon), plates: [20], advertisements: [20], folded map: [1], Decorative cloth.
表紙と本体とが外れてしまっている状態。背表紙上下始め、装丁に傷みが見られる。本体は比較的良好な状態だが、一部酸化傾向が見られる。 [NCID: BA12162036]

Information

京都市にとって記念すべき年となった1895年に作成された英文公式ガイドブック

 本書は、1895年に当時の京都市が作成した外国人旅行者向けの公式英文ガイドブックです。本書が刊行された1895年という年は、京都市にとって記念となる年で、京都市遷都1100周年を祝う式典「遷都千百年記念祭典」が開催され、平安京に都を移した桓武天皇を祀る平安神社を復元する形で平安神宮が岡崎に建てられました。この時行われた「時代行列」が、今に続く「時代祭」の起源となっています。また同年には、それまで東京で開催されていた内国勧業博覧会が初めて京都で開催(第4回)され、両事業は、京都市の近代化、観光国際都市としての京都をアピールする格好の機会となりました。

 本書は両事業の開催に合わせて作成された京都市による公式の外国人向けのガイドブックで、京都市が総力を上げて作成されたことが伺える非常に充実した内容となっています。箔押しが施された凝ったデザインの装丁、彩色の図版を含む数多くの挿絵や地図が挿入されており、京都市内各地の名所を様々な角度から紹介しています。京都の近代化のシンボルの一つであった琵琶湖疏水についての記述や、市内の各種学校施設についても詳しく紹介されており、のちの京都帝国大学となる三高や、同志社、京都府立医学専門学校などについての紹介記事を見ることができます。また、本文の間に挿入されている京都や各地域にゆかりのある企業による広告も大変興味深いもので、呉服屋飲食、旅館などの当時の観光産業に関係のあった企業の様子を垣間見ることもできます。

 本書は京都だけでなくその近郊についてのガイドブックも兼ねており、これは、上述した記念祭の開催にあたっては近隣府県から募金を募ったという経緯を踏まえてのものではないかと思われます。外国人観光客の人気の高い京都観光を中心に、近隣地域までも足を伸ばしてもらいたいという意図が読み取れ、当時の関西圏におけるインバウンド政策のあり方を本書から洞察することも可能でしょう。
 本書は、京都やその近郊地域の案内だけでなく、外国人旅行者にとって必要な基本情報や簡単な日本史や日本語案内といったガイドブックに欠かせない項目もきちんとカバーしており、非常に完成度の高い英文ガイドブックであると思われます。残念ながら本書は表紙が本体から外れてしまっており、また装丁にも傷みがかなり見られますが、本文や挿絵は良好な状態で、巻末に収録されている折り込み図も残されています。

 なお、本書は1895(明治28)年3月印刷、4月発行と奥付に記されていますが、同年5月印刷、発行と記されたものが存在することがわかっていることから、本書は初刷にあたるものではないかと推定されます。5月印刷、発行版を第二刷と仮定するならば、この第二刷は収録図版が写真印刷ではなく、石版印刷となっており、その数や図面にも違いが見られ、短期間の間に改訂版が企てられていたことが分かります。いずれの刷も現在では稀少となっていますが、本書は同時代の英文ガイドブックとしても極めて充実した内容を誇る京都市による公式英文ガイドブックと言えるでしょう。