書籍目録

『栄光のイエズス会士、聖フランシスコ・ザビエルの生涯と奇跡』

テーヌ

『栄光のイエズス会士、聖フランシスコ・ザビエルの生涯と奇跡』

[増補改訂版] [1663年] アントワープ刊

Taisne, Phillipe François.

HET LEVEN Deughden Mirakele en Glorie vande H. FRANC. XAVERIVS van de Societyt IESV…[Het leven, Apostolycke deughden, gheduerighe Mirakelen, ende glorie vanden H. Franciscus Xaverius vande Societeyt Iesu,…].

Antwerpen, Michiel Cnobbaert, [1663]. <AB202216>

Sold

[Second enlarged edition]

8vo (10.4 cm x 18.0 cm), *より詳細な書誌情報は下記解説参照。 Half Title., Illustrated Title., 13 leaves, pp.1-950, (LACKING pp.951-954), pp.955-1014, 33 leaves, Folded Plates & Maps: [4], Plates: [3], Contemporary vellum.
刊行当時のものと思われる装丁で一部の綴じ紐に緩みが見られるが概ね良好な状態。Ooo4, Ooo5の2葉(pp.951-954相当)が欠落。他本に見られるタイトルページ欠落か。[Laures: JL-1663-KB8] [Sommervolge: Vol.7, 1817] [Hubbard: 035(map of Japan)]

Information

本書でしか見ることができない貴重な日本図や日本関係記事を多数収録

 本書は全1,000ページを越える大部の著作で、ザビエルの生涯についての記述を中心に、彼にまつわるさまざまな事績、没後の影響といった後年の出来事も含めてあらゆるザビエルに関連する事象を網羅的に記した「ザビエル大全」ともいうべき作品です。ザビエル関連の著作としては珍しくオランダ語で書かれた作品で、1663年に低地地方におけるカソリック関係著作出版の中心地であったアントワープで刊行されています。オランダ語で書かれたザビエル伝としては最も充実した内容と分量を誇ると言ってよい本書には、日本についての記述を多数見ることができるだけでなく、折り込みの世界図と単独の日本図も収録されており、これらの地図は本書のために新たに作成されたもので本書は後年に再版されることがなかったため、本書でしか見ることができない大変貴重な図と言えることから、本書は日本関係欧文図書として大変重要な作品であると言えます。

 本書の著者テーヌPhillipe François Taisne, 1627 - 1691)の詳細な経歴は定かではありませんが、ブリュッセル出身で人文学の教師を務めたり、従軍神父として活動していたことが知られているほか、本書をはじめとしたイエズス会関係者の伝記や神学関連のオランダ語著作を多数遺しています。本書中にはそのような記載はありませんが、Sommervogelによりますと、本書は1660年に刊行されたザビエルのオランダ語伝記(Kort verhael van het leven van den H. Franciscus Xaverius, Grooten Apostel van Indien ende Japonien,...Brussel, 1660.)の増補改訂版にあたるもので、さらに元々は1622年にボローニャで刊行されたイタリア語のザビエルの伝記(Francesco Scorzia. Ristretto della santa dell’Apostolo dell’Indie S. Francesco Xaverio della Compagnia di Giesù. Bologna, [1622].)を底本とした翻訳著作であるとのことです。ただし、このイタリア語のザビエル伝が176ページの著作であることに鑑みれば、本書はほとんどテーヌによって書き改めた独立した著作としてみなすべき作品ではないかと思われます。

 本書は全4部で構成されていて、中心となる第1部と第2部は主にザビエルの生涯を全8章(第1部)と全11章(第2部)で論じていて、日本についての記述もザビエルの日本での布教活動を論じた第1部第3章以降においてまとまって確認することができます。第3部は、彼が生前に日本やインド各地で起こした奇跡や没後に生じた奇跡を全15章で論じています。第4部はザビエルが没後に列聖された経緯や、後世に与えたさまざまな影響やエピソードが論じられていて、例えば第7章では、日本で殉教したイエズス会士マストリリ(Marcello Fransisco Mastrilli, 1603-1637)がザビエルから受けた奇跡について論じられています。マストリリは、イエズス会日本管区の代理管区長であったフェレイラ(Cristóvão Ferreira, ?-1650)の棄教事件を受けてその真偽を確かめるために1637年に来日し直ちに捕縛され、数々の拷問を受けたのちに殉教しました。彼がそもそもアジア布教を熱望するきっかけになったのは、マストリリがナポリのイエズス会学舎の聖堂工事に従事していた際に事故で瀕死の重傷に陥り、その時彼の寝台横にあったザビエル像からザビエルが現れ、彼に奇跡的な回復をもたらすという奇跡を体験したからであったと伝えられています。第4部ではこのようなザビエルがその没後も多くの人々に影響を与えたことがさまざまな角度から論じられています。これらのテキストは本文の前に参考文献一覧が掲載されていることからも分かるように、著者テーヌが数多くの資料を駆使しながら記されており、欄外に当該記事の典拠が明記されているなど、史料に裏付けられた上で記されているところに特徴があります。

 日本関係欧文図書として本書が重要なのは、本文中において、ザビエルの日本での布教活動や、彼に影響を受けて来日した宣教師の活動と関連して数多く日本について言及した記事が見られることに加えて、本書のために新たに制作された日本図、並びにアジア図が収録されている点にあります。本書に収録された日本図は、「日本への最初の使徒(ザビエル)の旅程に着目したはるか彼方の日本王国の最新地図(Nova Delineatio particularis Apostoricarum peregrinationum primi IAPONIÆ APOSTOLI in remotis Iaponiæ Regnis.以下同文のオランダ語訳も表記されている)」と題されたもので、日本国内の諸国を破線で区切って示しつつ、(かつて)教会施設が設けられていた地点を十字で描いた大変ユニークな日本図です。この図の原図となったのは、ジンナーロ(Bernardino Ginnaro, 1577 - 1644)の著作(Saverio Orientale ô vero Istorie de Cristiani Illustri dell’ Oriente. Napoli, 1641)に収録されていた日本図で、いわゆる「ブランクス / モレイラ」図の最初期の作例の一つに数えられている地図に基づいています。この日本図の上部には地図中に十字で描かれた国内の教会施設に付合する形で、各地の教会施設が設置されていた地名と施設についてまとめた一覧図を新たに設けており、往時のイエズス会の隆盛ぶりをより強調する地図となっています。また、九州の上部の海上には奇妙な犬のような怪獣が描かれていて、「魚へと姿を変える四つ足の動物」というオランダ語の説明文と「(詳細は)112ページ(を見よ)」と書かれています。この海獣はジンナーロの日本図にも描かれていたもので、実は山椒魚のことを描いたものです。山椒魚のことがヨーロッパに伝えられたのは、1566年10月20日付、志岐発のアルメイダ書簡のことで、アルメイダは五島を訪ねた際に見つけた奇妙な怪物のことを記しており、この「犬に似たれども手足短き一つの動物」は、年老いてから「漸次大きさ鰹のごとき魚に変ず」(村上直次郎訳 / 柳谷武夫編『イエズス会日本通信下巻(新異国叢書第2巻)』雄松堂書店、1969年、116ページ)と驚きと共に山椒魚のことを伝えています。本図に描かれた海獣を説明するテキストの指示通り本書の本文112ページを見てみますと、このアルメイダの報告に基づいて山椒魚のことが説明されていることを確認することができます。山椒魚は日本ではよく知られた生き物ですが、ヨーロッパには生息しておらず、アルメイダや当時のヨーロッパの人々にとってこの生き物は、魚と陸棲四足動物とが組み合わさったような全くもって奇怪な生き物として注目を集めたようです。

 この大変ユニークな日本図に加えて、本書には他にも2枚の折り込み地図が収録されています。特にザビエルがリスボンを出港してからの航路を明示した地図ではヨーロッパからアメリカ西海岸までが描かれており、そこにおいてもユニークな輪郭で描かれた日本を見ることができるだけでなく、鉄砲や弓矢を手にした日本の人々の姿も描かれており、大変興味深い地図となっています。もう一枚の地図は南アジアと東南アジア近辺を描いた図で、ここには日本は描かれていませんが、ザビエルが布教を行った重要な地域を描いた地図で本書理解のために欠かせない地図として収録されたものと思われます。本書に収録されたこれら3枚の地図は、いずれも本書のために新たに描かれた地図で、しかも本書は後年に再販がされることがなかったため、本書でしか見ることができない大変貴重な地図であると言えます。また、本書にはこれらの地図以外にも、ロヨラとザビエルを描いた折り込み図や、ザビエル帰天の場面を描いた図、ザビエルの右手を描いた図(その死後も腐敗することがなかったと伝えられ、ザビエルにまつわる奇跡の証とされたもので、当時はメッヘレンの聖ザビエル教会に、現在はローマのジェズ教会に聖遺物として保管されている)も収録されています。

 本書はこのように充実しな日本関係記事と本書でしか見ることができない貴重な日本図や図版が収録されていることから、日本関係欧文図書として大変重要な作品であると考えられますが、イエズス会関係著作としては数少ないオランダ語で記されていることや、後年に再版されることもなかったためか、現存するものは極めて少ないようです。また数少ない現存本の中でも、地図や図版の収録位置や内容には相違があるようで、計7枚の地図と図版(さらに1枚のタイトルページ)を備えた本書は、現存本の中でも相対的に収録図版・地図が豊富であると言えることから、大変貴重な1冊であると考えられます。

 なお、本書の詳細な書誌情報は下記の通りです。

Half Title., Illustrated Title., (LACKING Title. ?), 13 leaves, folded plate, pp.1-78, folded map, pp.79-84, folded map, pp.85-108, folded map, pp.109-212, 113(i.e.213), 214-276, (NO LACKING PAGES), pp.279-360, pp.161(i.e.361), 362-510, plate, pp.511-640, (NO DUPLICATED PAGE), pp.640-655, (NO LACKING PAGE), 657-669, 671(i.e.670), 670(i.e.671), 672-897, 998(i.e.898), 999(i.e.899), 900-906, plate, pp.907-912, plate, pp.913-936, 637(i.e. 937), 938-950, (LACKING pp.951-954), pp.955-1014, 33 leaves.

刊行当時のものと思われる装丁で一部の綴じ紐に緩みが見られるが概ね良好な状態。
仮表題。
ザビエルとその生涯、意義を象徴的に描いたタイトルページ。
本文に先立って本書執筆のために著者が用いた膨大な参考文献一覧が掲載されている。
イエズス会創始者のロヨラとザビエルを描いた折り込み図版。
全4部で構成されている本書の第1部冒頭箇所。
ザビエルがリスボンを出港してからの航路を明示した地図ではヨーロッパからアメリカ西海岸までが描かれている。
ザビエルの乗った船とその航路が地図中に破線で示されている。
鉄砲や弓矢を手にしたユニークな日本の人々の姿も描かれている。
第2部冒頭箇所。
ザビエルが来日前に歴訪した南アジアと東南アジア図も収録されている。
上記の地図で描かれている地域でのザビエルの活躍を記しだ第2部第2章冒頭箇所。
本書に収録された日本図は、「日本への最初の使徒(ザビエル)の旅程に着目したはるか彼方の日本王国の最新地図」と題されたもので、日本国内の諸国を破線で区切って示しつつ、(かつて)教会施設が設けられていた地点を十字で描いた大変ユニークな日本図。
この図の原図となったのは、ジンナーロ(Bernardino Ginnaro, 1577 - 1644)の著作(Saverio Orientale ô vero Istorie de Cristiani Illustri dell’ Oriente. Napoli, 1641)に収録されていた日本図で、いわゆる「ブランクス / モレイラ」図の最初期の作例の一つに数えられている地図に基づいている。
日本図の上部には地図中に十字で描かれた国内の教会施設に付合する形で、各地の教会施設が設置されていた地名と施設についてまとめた一覧図を新たに設けており、往時のイエズス会の隆盛ぶりをより強調する地図となっている。
「日本のマイル(里)」とポルトガル・マイル、イタリア・マイルが併記されている他、地図には緯度・経度も示されている。
九州の上部の海上には奇妙な犬のような怪獣が描かれていて、「魚へと姿を変える四つ足の動物」というオランダ語の説明文と「(詳細は)112ページ(を見よ)」と書かれている。これは「山椒魚」のことを指しており、1566年10月に天草の志岐からイエズス会士アルメイダが送った書簡においてアルメイダが五島を尋ねた際に「犬に似たれども手足短き一つの動物」を見つけ、この生き物は年老いてから「漸次大きさ鰹のごとき魚に変ず」と驚きを持って報告している。本図に描かれた海獣を説明するテキストの指示通り本書の本文112ページを見てみると、このアルメイダの報告に基づいて山椒魚のことが説明されていることを確認することができる。ヨーロッパには山椒魚が生息していないため、アルメイダや当時のヨーロッパの人々にとって山椒魚は奇怪な未知の生き物であった。
第2部第3章では特にザビエルの日本における布教活動に焦点を当てており、充実した日本関係記事となっている。
第3部は、彼が生前に日本やインド各地で起こした奇跡や没後に生じた奇跡を全15章で論じている。
ザビエルの木展の場面を描いた図版が収録されている。
第4部はザビエルが没後に列聖された経緯や、後世に与えたさまざまな影響やエピソードが論じられている。
第7章では、日本で殉教したイエズス会士マストリリ(Marcello Fransisco Mastrilli, 1603-1637)がザビエルから受けた奇跡について論じられている。マストリリは、イエズス会日本管区の代理管区長であったフェレイラ(Cristóvão Ferreira, ?-1650)の棄教事件を受けてその真偽を確かめるために1637年に来日し直ちに捕縛され、数々の拷問を受けたのちに殉教した。彼がそもそもアジア布教を熱望するきっかけになったのは、マストリリがナポリのイエズス会学舎の聖堂工事に従事していた際に事故で瀕死の重傷に陥り、その時彼の寝台横にあったザビエル像からザビエルが現れ、彼に奇跡的な回復をもたらすという奇跡を体験したからであったと伝えられている。
死後も腐敗することがなかったと伝えられ奇跡の証とされたザビエルの遺骸の一部で、当時はメッヘレンの聖ザビエル教会に置かれ現在はローマのジェズ教会に聖遺物として保管されているザビエルの右手を描いた図。
ザビエルが起こした奇跡を描いた図。バロック絵画の巨匠、ルーベンスによる作品の模写と思われる。
本文末尾。全1,000ページを越える大部の著作で、オランダ語で書かれたザビエル関連著作としては、質・量共に最も充実した作品と言ってよい。
巻末に収録されている索引冒頭箇所。
索引に続いては目次が掲載されている。