書籍目録

『海洋、地理学に関する図書概略(目録):中国、韃靼、日本、ペルシャ、アルメニア、エチオピアその他の諸国・地域に関する資料を収録』

レオン・ピニェイロ

『海洋、地理学に関する図書概略(目録):中国、韃靼、日本、ペルシャ、アルメニア、エチオピアその他の諸国・地域に関する資料を収録』

増補改訂版、日本関係記事が含まれる第1巻のみ(全3巻中)、近年の復刻版全3巻揃いが付属 1737年 マドリッド刊

Leon Pinelo, Antonio de.

EPITOME DE LA BIBLIOTHECA ORIENTAL, Y OCCIDENTAL, NAUTICA, Y GEOGRAFICA…EN QUE SE CONTIENEN LOS ESCRITORES DE LAS INDIAS ORIENTALES, Y OCCIDENTALES, Y REINOS CONVECINOS CHINA, TARTARIA, JAPON, PERSIA, ARMENIA, ETIOPIA, Y OTRAS PARTES…TOMO PRIMERO.

Madrid, Francisco Martines Abad, M.D.CC.XXXVII.(1737). <AB20211706>

Sold

Enlarged, revised edition. vol.1 only (of 3 vols.) with 3 vols. facsimile ed.

Folio (20.0 cm x 29.5 cm), Title., 67 leaves, 49 double columns numbered leaves (1-120, LACKING 121-124, 125-200), pp.201-204, 83 double columns numbered leaves (205-408, 406[i.e.409], 410-536), pp.537, 538, 25 numbered leaves (539-545, 549[i.e.546], 547-560, [561]-[563], Contemporary vellum.
装丁の革が伸縮して傷みが激しい状態。本文1葉欠落、末尾5葉ほど端部分に欠損あり。

Information

日本を含む東西インドの画期的な資料目録として名高い名著の第1巻と復刻版全3巻

 本書は、大航海時代以降、あるいはそれ以前の時代からのものも含めて、ヨーロッパで刊行、執筆された東方(「東インド」全般を指す)、西方(「西インド」を指す)に関する文献目録です。全体では、全3巻で構成される大部の作品ですが、本書は日本を含むアジア地域を対象とした第1巻に当たります。かつて大航海時代を牽引した大国であったスペインを中心とした当時のヨーロッパ各地の図書館、文書館、個人の元に所蔵されている資料を網羅的に調査し、それらを分類した上で編纂された本書は、当時のヨーロッパにおいて、日本を含むヨーロッパ外の世界に関する知識がどのように蓄積していたのかを示す大変興味深い作品です。また、刊行物だけでなく文書等の未交換資料も収集している本書は、現在では失われた可能性のある作品を収録しているという点において、高い資料価値を有する作品でもあります。

 本書の著者レオン・ピニェイロ(Antonio de Leon Pinelo, 1590 - 1660)は、バリャドリッド出身の史料編纂家、著作家で、幼い頃に西インドと呼ばれていたアルゼンチンなどで暮らした経験があり、現地のイエズス会が運営していた神学校で法学を修めたのち、官吏としてのキャリアを重ねました。スペイン帰国後はインディアス枢機会議の一員となり、スペインに収蔵されている膨大な数の東西インドに関する文書や著作の整理に取り組みました。彼の長年にわたる努力は、1629年に刊行された本書初版に結実し、この作品は画期的な文献目録として高く評価されました。この初版本刊行当時、こうしたピニェイロの文献目録に近いものとしては、イエズス会士の傑出した著作家であったリバデネイラ(Pedro de Ribadeneira, 1527 - 1611)が刊行したイエズス会士による著作と著者目録(Illustrium Scriptorum Religonis Societatis Iesu Catalogus. 1608)があり、この作品も優れた作品として名声を得ていましたが、あくまでイエズス会士の作品に限定したものであったことから、その枠組みに限定されないレオン・ピニェイロの作品は画期的な意義がありました。なお、ピニェイロによる初版本は現在、大変希少なことで知られていますが、国内では日本国際文化研究センターが所蔵(BA37744803)しています。

「これは初期の書誌のうちもっともまとまったものでエスパニャおよびポルトガルの大航海関係書目である。第一章オリエンタル、第二章オクシデンタル、第三章航海(ナウテイカ)、第四章地理(ヘオグラフイア)の四章に分れ、他に用語および追録の二章を加えている。オリエンタルの章にはギリシャ、カルタゴ関係のもの、マルコ・ポーロ、ラムージオに収録されている書目なども挙げてあるが、大航海時代以前のものは僅かである。オリエンタルの第八部は日本関係であって、書翰、歴史、記録などを挙げており、初版の第31ページから39ページまで8ページを占めている。」
(井沢実「大航海時代文献解題」『大航海時代叢書別巻:概説・年表・索引』岩波書店、1970年より)

 本書はこの初版本を後年になって大幅に増補改訂して、1737年から38年にかけて刊行されたもので、初版本が200ページほどの1巻本であったのに対して、この増補改訂版は、その数倍の分量にもなる全3巻本となっています。初版刊行から1世紀以上が経過したこともあって、当然初版刊行以降に刊行、執筆された作品が大量に追加され、またその間に刊行された文献目録など各種参考資料を駆使して編纂されたこの増補改訂版は、当時のヨーロッパにおける東西インドの知見の様相を反映した記念碑的作品となりました。

 本書はこの増補改訂版の第1巻にあたるものですが、日本をはじめとする「東インド」を扱った作品を収録しています。最初に著者目録がアルファベット順に掲載されていて、それに続いて本書の構成を示す目次、以前の版から削除された、あるいは訂正された著者名、著者名なし、あるいは匿名の作品の一覧等が続いています。これらに続いて全17章と補遺で構成された本文が掲載されています。本文では、各国、地域ごとに分類して、当該地域に関連する作品が年代順に掲載されていて、その構成を簡単に示しますと下記の通りになります。

第1章:インドへの航海記等、第一部(1-)
第2章:インドへの航海記等、第二部(25-)
第3章:インドの歴史に関する作品(47-)
第4章:インドにおける宣教活動に関する作品(79-)
第5章:インドからの書簡集(93-)
第6章:インドからの書簡(95-)
第7章:中国に関する作品(103-)
第8章:日本に関する作品(151-)
第9章:ペルシャ、アルメニアに関する作品(194-)
第10章:モンゴルに関する作品(358-)
第11章:Septemtrionによって記されたインドに関する作品(377ー)
第12章:エチオピアに関する作品(383-)
第13章:インドおよびその周辺海域での海難に関する作品(437-)
第14章:インドの自然、および政治に関する作品の著者(441-)
第15章:オランダによるインドへの航海記(501-)
第16章:東洋諸言語についての作品の著者(511-)
第17章:不確かな疑いのある作品の著者(533-)
補遺:(日本についての第8章含み、各章ごとに記載)(537-)

 このような本書の構成を見ると、当時のヨーロッパにおける「東インド」に関する知見がどれほど多岐にわたるものであったのかが非常によくわかります。掲載されているそれぞれの作品は、著者名、タイトル、刊行(執筆)年、判型、言語といった情報が記されていて、できる限り編者が原資料を実際に確認することに努めた形跡が窺えます。これらの記述からは、当時、東インドと呼ばれた地域に関して、スペインを中心としたヨーロッパ諸国でどのような資料が存在し、どのような知識が共有されていたのかを窺い知るための貴重な情報の数々を本書中に見出すことができるでしょう。各章に掲載されている作品のタイトルや著者名は、すべてスペイン語に翻訳した上で掲載されているため、中には原著を特定することが困難なものも含まれますが、それでも当時の傑出した文献目録としての価値は非常に高いものと思われます。

 本書では日本についても第8章全てを割いて独立して取り上げられており、ここでは、当時知られていたさまざまな日本関係欧文史料を確認することができます。日本に関する情報をヨーロッパにもたらした存在の嚆矢としては、やはりザビエルが高く評価されているようで、第8章冒頭部分はザビエル関連の多くの作品が掲載されています。ザビエル関連資料に続いては、イエズス会士をはじめとした来日した宣教師による書簡や、それらをまとめた書簡集、迫害期以降の殉教関連資料などが多数掲載されていますが、それ以外のラムージオやテヴェノーの航海記集成や、カロンの『日本大王国志』など、宣教師関連資料の枠組みにとらわれず、実に多彩な日本関係作品が掲載されています。先に述べたように、刊行物だけでなく、文書や手稿類についても収録しており、当時どのような史料が日本関係作品として認識され、存在していたのかを知ることができる、大変貴重な内容となっています。もちろん、本書に日本関連作品として収録されている作品数は、19世紀以降になって整備が急速に進んだ、日本関係欧文資料目録に収録されている作品数と比べると、極めて貧弱なものでしかありませんが、本書が刊行された1737年当時の日本情報源の様相を示す記事として独自の大きな意義を有するものと考えられます。また、本書は、欧文日本関係資料目録の金字塔の作者であるコルディエによっても参照されており、長きにわたって後年の日本研究者に影響を与えたということも重要な点でしょう。

 なお、本書は装丁、末尾付近のページなどに傷みが見られ、あまり状態が良いとは言えませんが、近年になって刊行された復刻本(本書である第1巻を含む全3巻揃い)が付属しており、両者を合わせて活用することが可能です。