書籍目録

『日本における聖なる信仰のために落命したカルロ・スピノラ伝』

アンブロージオ・スピノラ

『日本における聖なる信仰のために落命したカルロ・スピノラ伝』

1706年 ボローニャ刊

Spinola, Fabio Ambrosio.

VITA DEL P. CARLO SPINOLA DELLA COMPAGNIA DI GIESV, Morto per la Santa Fede nel Giappone.

Bologna, Erde del Benacci, MDCCVI(1706). <AB20211703>

Sold

12mo (5.3 cm x 9.9 cm), Half Title., Title., 6 leaves, pp.1-223, Later (19th Century?)half leather.
用紙余白上部にシミが見られるが、テキストの判読に支障はなく、概ね良好な状態。[Laures: JL-1706-KB1]

Information

最小サイズの日本関係欧文図書として見なしうる、邦訳の底本ともなったベストセラー作品のボローニャ版

 本書で論じられているスピノラ(Carlo Spinola, 1564 - 1622)は、イタリア、ジェノバの名門スピノラ家出身のイエズス会士で、1602年に来日し1622年にいわゆる元和の大殉教で亡くなった人物です。スピノラは日本滞在中に精力的に布教活動に従事しただけでなく、その豊かな学識を生かして長崎の経度測定や、天文学、数学の日本への紹介など日本に関する学問的な貢献も残したことで知られています。スピノラの殉教は、それがヨーロッパに報じられると直ちに大きな反響を呼び、甥であるアンブロージオによる伝記が1628年にイタリア語で刊行されています。本書はこれを1706年にボローニャで再版したものですが、豆本サイズとも言える極小本として刊行されており、店主の知る限り、日本関係欧文図書として最も小型の書物の一つに数えられる作品ではないかと思われます。

 本書は、宮崎賢太郎氏による、翻訳(アンブロージオ・スピノザ著 / 宮崎賢太郎訳『カルロ・スピノラ伝』非売品、1985年)が刊行されており、宮崎氏がこの翻訳に際して底本としたのが、まさにこの1706年ボローニャ版です。

「今回の翻訳に際して用いたのは、1706年ボローニャ刊のイタリア語版である。訳者が滞在したミラノにおいてはアンブロジアーナ図書館においてこのボローニャ版しか見出しえなかった。ほぼ訳出を終った頃、ローマのヴィツトーリオ・エマヌエレ中央国立図書館に初版のローマ版を見出し、二本を対象したところ本文には差異を認めなかったので、そのままボローニャ版より訳出することにした。」(前掲訳書、13頁より)

 アンブロージオ・スピノザによる『スピノラ伝』は、。1628年の初版刊行から、何度も再版され、またラテン語版も刊行された本書は、「スピノラ研究の現在に至るまでの最良のもの」と高く評価されている作品として知られています。著者自身が「これまで述べてきたことは日本が遠く隔たっているにもかかわらず、かの地より送られてきた多くの手紙、信頼するに値する人物たちの証言、また祝福されたカルロ神父並びにその同伴者達の生涯と殉教についての調査のために託された資料の中から集めることができたものである。」(前掲訳書159頁)と述べているように、執筆に際して著者が多くの情報を収集し、その内容を精査した(もちろん一定の文脈の上において、ではありますが)ことがうかがえるものです。

「アンブロージオは『スピノラ伝』を編むに際して、スピノラが書き残した多くの手紙と殉教の調査書をその骨子とし、欧州でさかんに出版されていたイエズス会日本書簡集や日本年報などを用いて肉付けを行なったようである。彼が使用したスピノラの書簡の中には未刊の多数のイエズス会総長宛のものが含まれており、殊に1617年10月5日付の総長ヴィテレスキ宛親展書簡も使用されているところを見れば、相当な権限を許され、ローマのイエズス会本部においてかなり徹底的な資料調査を行なったようである。(中略)公刊するに不適当な個所、他修道会を著しく持ち上げた部分を省略した以外は、著者宣誓書の中で『慎重な考察を除いてはすべての史料をそのまま紹介し、改変した部分はない』と述べているように、原文に忠実である。その意味でスピノラの原書簡の所在が現在不明である15通の書簡がたとえ断片であろうと本書中に見出されることは、少なからず本書の価値を高めるものである。
 アンブロージオの『スピノラ伝』はスピノラ研究の現在に至るまでの最良のもので、ボエロ師の本書の増補訂正版を除けば、後続のいかなるものも本書の域を出ていない。(中略)本書は1628年ローマにおいてイタリア語で初版が出されたが、以後版を重ね、ラテン語、フランス語にも翻訳された。(後略)」
(前掲訳書、12頁より)

 本書は、その本紙の大きさが縦10センチ弱、横5センチ強と、極めて小さなサイズで製作されていることに大きな特徴があります。手のひらに収まるほどの極小本として刊行された理由は、おそらく本書をいつでも携行できるようにとの配慮からではないかと思われますが、このことはこの作品がそれほどにまで多くの読者に親しまれていたことを示唆しています。初版刊行から70年以上も経って、このような極小本として刊行された本書は、この作品が長きにわたって多くの読者を獲得してきたこと、懐中に忍ばせることが望まれるほど愛好されていたことを示しており、その形状自体が大変興味深い書物であると言えます。アンブロージオ・スピノザによる『スピノラ伝』は、日本関係図書の重要作品としても知られる作品であることから、本書は日本関係欧文図書として、おそらく最も小型の書物として数えられることができ、その優れた内容だけでなく、造本というマテリアルな側面においても大変興味深い書物と言うことができるでしょう。

 前掲訳書目次によりますと、本書は下記のような構成となっています。



スピノラ家の皆様方へ

宣誓書

第1章:出生と召命

第2章:イエズス会入会と修学

第3章:徳の修練

第4章;クレモナ布教とポルトガルへの旅

第5章:ポルトガル出発とブラジル到着

第6章:ブラジルからプエルトリコへの旅

第7章:プエルトリコへの布教

第8章:異教徒による拿捕とイギリス連行

第9章:イギリス出発とリスボン到着

第10章:インドへの再出発と日本到着

第11章:福音の宣教と日本における仕事

第12章:残酷なる迫害の開始と進展

第13章:日本残留と逮捕

第14章:牢獄の苦しみ

第15章:牢獄における態度

第16章:平戸への旅と再入牢
第
17章:火刑の宣告

第18章:出牢と死


 なお、本書を出版したボローニャの Herede del Benacci は、このような極小本の出版に長けていたようで、ザビエルの伝記作品(Ristretto della santa vita dell'apostolo dell'Indie S. Francesco Xaverio della Compagnia di Giesu.)も刊行しています。この作品を所蔵(BA79650557)する国際日本文化研究センターの情報(フレデリック・クレインス編『国際日本文化研究センター所蔵 日本関係欧文図書目録:1900年以前刊行分 第4巻(1853年以前)』国際日本文化研究センター、2018年、1084番(101ページ)参照)によりますと、大きさが110 x 60mm となっていて、本書よりほんの少し大きいものの、よく似たサイズであることがわかり、またタイトルページのデバイスも本書とよく似たものが用いられていることがわかります。

本紙の大きさが 、5.3 cm x 9.9 cm と極小サイズで刊行されている。
(参考)傾向に便利な文庫本と並べても、おおよそその半分ほどの大きさしかない。
極小本ながら見返しにはマーブル紙が用いられていて、丁寧に製本されていることがわかる。
タイトルページ。小さなスペースに最大限の情報を盛り込んでいる。
「スピノラ家の皆様方へ」冒頭箇所。
本文冒頭箇所。
日本についての言及は、「第10章:インドへの再出発と日本到着
」以降に集中している。
本文末尾。
19世紀頃に施されたと思われる装丁で、状態は比較的良好。