書籍目録

『時代祭』(手彩色写真帳)

高木庭次郎

『時代祭』(手彩色写真帳)

1906(明治39)年 神戸(玉村写真館)刊

Takagi, Teijiro.

THE FESTIVAL OF THE AGES. (Being an illustrated and Descriptive Album representing the annual Procession at Kyoto.)

神戸, 玉村写真館 (Tamamura, Photographer, Kobe, Japan), 明治卅九年十二月四日印刷、同月十八日発行 (1906). <AB20211683>

Sold

Oblong (17.9 cm x 25.3 cm), Pictorial Title., 1 leaf(Explanatory), 20 photograph leaves with tissue guards, 1 leaf(colophon), Original decorative cloth bound in Japanese style.
装丁に傷みが見られるが、内容に 損傷はなく良好な状態。 [NCID: BA61620137]

Information

初期の時代祭の様子を撮影した貴重な英文手彩色写真帳

 この非常に魅力的なアルバムは、明治後期から大正の終わり頃まで神戸で活躍していた高木庭次郎によって1906年に制作されたもので、京都の時代祭を主題にして20枚の手彩色写真を収めています。今に続く時代祭は、1895年に第4回内国博覧会が開催されるのに合わせて創建された平安神宮を記念して始められた祭で、本書は比較的初期の時代祭の様子を撮影した写真集として大変貴重な作品です。しかも本書は、外国人観光客向けに英文で写真の解説が施されているという点でも興味深い写真集となっています。

 本書の奥付には、発行所として「玉村写真館」、発行者として高木庭次郎の名前が掲載されていますが、「玉村写真館」というのは、明治初期における横浜の写真館経営者の草分け的存在の一人である玉村康三郎による写真館で、玉村は1874年に東京で写真館を創業し、1882年には横浜に移り、それ以降は当時を代表する写真館として数多くの彩色写真帳を刊行しています。この玉村写真館は、神戸にも支店を設けており、その業務の中心を担っていたのが高木庭次郎です。高木庭次郎は玉村写真館の名義で1900年頃から数多くの彩色写真帳を刊行していて、『日本における結婚式』(The Ceremonies of a Japanese Marriage)や、『日本の新年(The New Year in Japan)』などの日本の文化行事を主題にした特徴的な写真帳を手がけています。玉村写真館の神戸支店の活動は高木によって担われていましたが、次第に名実ともに「高木庭次郎の写真館」となっていったようで、正確な年代は不明ですが、最終的には高木名義で写真帳が刊行されるようになったことがわかっています。

 神戸を拠点に活動していた高木庭次郎が手がけた写真帳の特徴は、先に述べた日本の文化行事を主題にしたものが多いことに加えて、神戸や京都といった関西地域を主題とした作品が多いことが挙げられます。時代祭を主題にした本書もまさにそうした作品の一つですが、高木は本書以外にも『祇園祭(The Great Gion Maturi)』という作品や、『神戸の丘陵(Hills in Kobe)』といった作品を制作していて、東京や横浜の写真館の作品には見られない地域性を存分に活かした作品作りをしていたことがわかります。

 本書は全20枚の手彩色写真を英文解説とともに収録した内容となっていて、序文ではごく簡単に「時代祭(Jidaimatsuri, The Festival of Generations)」がどのような祭りであるのかについてを解説しています。収録されている写真は美しい手彩色が施されていて、写真下部には英文でその解説が記されています。英文で解説が書かれていることから、このアルバムが、主として外国人観光客や在住外国人を顧客として意識していたことは明らかですが、その解説は非常にわかりやすく、現代の視点から写真の内容を理解する際にも大きな手助けになります。また、収録内容だけでなく、装丁にもこだわりを見せていて、本書には傷みがありますが、それでも和綴を施した品位ある装丁が採用されていることがよくわかります。

 高木庭次郎が手がけた写真帳は、その多くが海外向けだったこともあって、それほど多くの作品が国内に残っているわけではありませんが、長年にわたって数多くの作品を出版していたことから、現在でも比較的多くの作品を海外古書市場等で見つけることができます。ただ、本書や、『時代祭』、『神戸の丘陵』といった高木らしい関西色を打ち出した作品は他作品に比べて現存数が少ないようで、国内の所蔵状況も決して多いとは言えない状況です。この点に鑑みても、このアルバムは初期の「時代祭」を撮影した、現存する貴重な一点ということができるでしょう。